バンブーロッド bamboo rod

『Monologue』 研究と発見と反省の日々、より良いロッドを造る為に終わる事の無い真実の探究。

2015  Part #1

プロローグ Prologue )
バンブーフライロッド、それは価値ある道具。より永く使える強さと耐久性を追い求める。

カーボンロッドを仕舞い込み、竹製のフライロッドに持ち替えたのはいつの事だったろうか?それは、必然だったのだろうか?気が付けば、いつの間にかカーボンロッドを振る事は無くなり、バンブーロッドばかりを使っている自分が居た。それをただ眺めているだけで気持ちが落ち着く自分が居た。それに触れているだけで幸せな自分が居た。そして、いつの間にか自らバンブーロッドを造り始めて、既に20年以上の歳月が流れてしまった。バンブーフライロッド?・・・、改めて考えると不思議な道具だ。何故、今でも竹竿なのか?海、川、湖、フィールドを問わず、現在は殆どの釣りでカーボングラファイト製のロッドが使われている。勿論、それは当然の事だし、それが進歩と言う物である。カーボンロッドは如何なる状況下でも確実な性能を発揮し、釣果も約束してくれる。そしてとてもタフだ!フライラインがガイドやシャフトに凍り付いてしまう様なー10℃の厳寒のコンディションでも釣りが可能だし、突然の大物にも難なく対応する。まさに、夢の釣り竿である。勿論、私もその大いなる恩恵に預かり、長い間楽しいフライフィッシングの時間を過ごして来たのは確かだ。しかし、ここに来て、その魔法の武器を手にする事を止めてしまったのは、何故だろう?私自身、年を取ったからなのだろうか?或いは、釣りのキャリアがそうさせたのだろうか?はたまたフライフィッシングでは既にご隠居様なのか?いや、そうでは無い!恐らく、今でもソルトウォーターやバスフィッシングなどに誘われれば、迷わずカーボンロッドを手にするだろう。現に、最も身近な釣友である年老いた父との、年に2〜3回のアジ、サバ釣りではカーボン製の磯竿を使っている。しかし、フライフィッシングだけは、やはり別である。勿論、カーボンロッドの圧倒的な性能は認めているし、自宅にも沢山残っている。頭の中ではいつでも使う用意は出来ているのだが、いざ鱒釣りとなれば車に積み込むのはいつもバンブーロッドばかりだ。これと言った確たる理由も無いが、いつしかカーボンロッドを使う事は無くなっていた。バンブーロッドを使う事に特別な意味や理由を求める必要は無かったし、大義名分を作る必要も無かった。例えば、恰好が良いから、とか、綺麗だから、雰囲気があるから、高価で価値があるから、或いはベテラン達が使っているから、上手くなった様な気がするから、等々、使う理由は何でも良いだろう。兎に角、バンブーロッドを使う事で、自分自身が気持ち良くフライフィッシングが出来る事が重要であり、ゆったりと鱒釣りが出来ればそれで良い。バンブーロッドで鱒を釣る、即ちそれは、フライフィシャーの究極の自己満足とも言える世界だろう。
実際、鱒の毛鉤釣りでは、今でも100年前と同じ竹製フライロッドが現役で使われているし、また、世界中で作られてもいる。それは単なる懐古趣味?などでは無く、「まぁ、多少はあるかも知れないが」、今でも十分に通用する道具だからだ。いや、通用していると言うよりも、寧ろ竹竿独特の性能や使い心地を良しとして使われている部分が多いのは事実である。その歴史や価格などからステータス的意味合いは否定できないが、一部のヴィンテージロッドを除いては、現在でも優れた道具として使われ続けている。それは、鱒のフライフィッシングと言う特殊な釣りが繊細で特別な釣りだからである。そこに求めるられる物は、他の釣りの様なパワーや性能、或いは釣果では無く、どちらかと言うと釣り人のテクニックであり、知識や経験だ。時には遠投や、大物を釣り上げるロッドパワーを求められる場合もあるが、基本的には、鱒の餌である小さな昆虫を模した毛鉤を錘なしでキャストし、釣り上げる事だ。つまり、獲物の大きさや数よりも、その釣り方や技術を追求する釣りである。即ちそれは、鱒を学び、川を学び、昆虫を学び、自然を学ぶ事であり、その技術の殆どは自然科学の学習に他ならない。
一口にフライフィッシャーと言っても様々で、魚を釣る事が重要な人もいれば、キャスティングが好きな人、フライタイイングが好きな人もいる。中には山が好きだ、川が好きだ、自然が好きだ、魚は釣れなくてもいいから自然の中に遊びに行くだけで十分だ、と言う人もいるだろう。誰もがフライキャスティングのエキスパートを目指す必要もない。取り敢えず魚が釣れればいいのだ。気楽に楽しめれば良しとしよう。楽しい趣味なのだから・・・・。しかし、中には嵌り易い奴もいるのは確かだ。私を含め競う様に上達しようとガンバル奴がいる。トコトン突き詰めなければ気が済まない奴らがいる。だが、その向上心や集中力もいつまでも続く訳では無い。まぁ、人間、誰しも年を取るとそうなるが、私自身も例に漏れる事は無かった。昔の様に河原の石のを飛び跳ねる様に歩く事は出来ないし、当然、源流釣行もキツくなった。とてもじゃないが今は膝がもたない。ロッドを口に銜えて崖を登ったり、林道から川原に飛び降りていた頃が懐かしく思える。いつの間にか若い頃の様に釣り歩く事が出来ない自分に気づかされた。ハードな釣行はおろか、階段を降りるだけで膝が痛い事もある。だから、今では川原のすぐ傍に車を停めて、殆ど歩かなくても釣りができる、ワンポイントのイブニングライズを狙う事が多くなってしまった。そろそろ、テレビショッピングの例の健康食品が必要なのかも知れない。だが、30年前は全く違っていた。源流の岩を飛び跳ねる様に早いテンポで釣り遡がる。そして、帰路も岩の上をピョンピョン飛び跳ねて下山する。だから、日没ギリギリまで釣りができたし、時には真っ暗な中を懐中電灯を頼りに車に戻る事もあった。その当時もバンブーロッドは持っていたが、そのロッドスピードやラインスピードの遅さには我慢ができなかった。限られた時間内に何匹釣るか?兎に角、素早く、数多く釣る事が目的だった。バンブーロッドで「チンタラ釣りを楽しむ」なんて余裕など無かった。それに、釣行中にロッドが折れるトラブルなどは絶対に避けなければならなかった。それこそ、時間の無駄である。当然、丈夫でラインスピードの早いカーボンロッドを使い、沢山いる岩魚や山女魚達にマシンガンの様な素早いキャストを繰り出して釣った。矢の様なラインスピードと手返しの速さが必要だった。だから、動きの遅いバンブーロッドを使って、トロイ(遅い)釣りなど、している場合では無かった。若き日の思い出や、オッサン釣り師の事はそれくらいにして、話を戻そう。そんな多様なフライフィッシングスタイルの中でも、特に後者の様な自然派フライフィッシャーがバンブーロッドに嵌ってしまう事が多い。それと、一通りフライフィッシングを極めて来たベテランが行きつく所もバンブーロッドの世界である。パワーと性能、釣果だけを求めない、スローでナチュラルなフライフィッシングの世界。その特別な世界が竹製のフライロッドを現代まで残して続けて来たのだと思う。
しかし、そのバンブーロッドも近年は科学技術の進歩と共に殆どがカーボンロッドに取って替られてしまった。キャスティング性能や耐久性、メンテナンス性など、釣り竿に必要な性能は到底カーボンのそれには及ば無い。如何にひいき目に擁護したとしてもカーボンロッドに勝る物では無い。しかし、そんな時代の流れを乗り越え、バンブーロッド・スプリットケインロッドと呼ばれる竹製の釣り竿が現在に至るまで脈々と使われた来たのは、やはりフライフィッシングと言う特殊な釣の中にバンブーロッドを受け入れる要素があったからだろう。
抑々フライフィッシングと言う釣法には、魚を捕獲する釣り本来の目的以外にも、難しくもあり、また、面白くもある遊びの要素が数多く隠されている。だから、フライフィッシングに出会った釣り人は皆、魚を釣る事以上の面白さを発見する。とりわけ、フライタイイングやフライキャスティングなどの特別な技術は複雑で奥が深く、実に面白い。初めてそれを目にした人は、皆、目を丸くして驚く。私を含め、その感動は口では言い表せない程のインパクトがあるに違いない。そして、そのあり得ないキャスティングや釣法の難しさ、面白さは、この釣りに出会ってしまった釣り人を虜にしてしまう大きな要素でもある。だから毛鉤作り一つとっても徐々に釣果だけが目的では無くなり、毛鉤その物に美しさや完成度を求める様になる。そして、遂にはタイイング技術や美しさを競う世界にまで発展して行く場合もある。また、錘を付けずに毛鉤だけの仕掛けを鞭のようなラインで自在に操り、狙ったポイントに正確にキャストするフライキャスティングの技術も、それを習得しようとする釣り人に多くの時間と努力を要求する。そして、その努力と達成感がフライフィッシングをより楽しい物にしている。つまり、極めれば極める程、難しければ難しい程、本来の目的である『魚釣り』からどんどん懸け離れ、技術の向上や、美しさと気品、格調の高さまでも求める様になるのも、この釣りならではの独特の世界観だと思う。つまり、究極の自己満足である。これほど悦に入るのが気持ち良い遊びも他には無いだろう。だからと言う訳でもないが、ロッドと言う道具に対しても特別な情熱と拘りを持つようになる。それが、まさに前世紀の道具である竹製のロッドが生き残る事ができた拘りの価値観を生んだのだと思う。更に、この竹製のフライロッドは、美しさや気品、高級感、また、1竿1竿がハンドメイドである事や、シャフトの色や形、ニッケルシルバーの輝き、メノウを使ったガイド、リールシートの木目の美しさ、等々、無機質な化学合成素材のロッドには無い、古き良き時代を醸し出す魅力を沢山持ち合わせている。当然、それらの美しさは、世のフライフィッシャー達を陶酔させ、満足させ、所有したいと言う欲望やプライドに火を付けるには十分である。だからこそ、今なお世界中でその人気が衰える事が無いのだと思える。
100年前は竹が釣り竿の最高の材料だったが、現在はカーボングラファイトが最高の材料である事は間違いない。つまり、釣果を競うのであれば圧倒的にカーボンロッドが有利である。しかし、ことフライロッドに関して言えばバンブーとカーボンを比較してどちらが勝っているのか?と、一方に軍配を上げる物では無い。とりわけ、フライフィッシングに於いては両者は全く異質の物であって、比較する事自体ナンセンスである。竹のロッドで無理にカーボンロッドの性能を目指す必要も無いし、また、カーボンロッドに勝る必要も無い。よく、バンブーロッドを取り巻く人々の中には、フライフィッシングに於けるバンブーロッドの優位性を切々と説く人を見かけるが、そんな、無理なバンブーロッド擁護の必要は無いだろう。何故ならば、性能的に優位な必要など全く無いからだ。バンブーロッドはそれ自身が持っている雰囲気と、その繊細なキャスティング性能だけで、フライフィッシングの道具としては必要十分以上だし、これまでの歴史の中でも、その独自の世界を継承して来たのは紛れも無い事実だからだ。また、別の角度から観れば、その天然素材であるが故の弱さ、つまり、カーボンロッドに比べれば、明らかに弱い素材である事自体が、その魅力の一部になっている気がするのは私だけだろうか?釣り師である以上、大物が釣りたい!遠くへ投げたい!そして、その夢は入れ食い!である。しかし、この強度限界の低い釣り竿では、無理は出来ない!折れてしまえば元も子も無い!と労わりながら優しく丁寧にロッドを扱わなければならない。そうした矛盾から来る微妙な感覚とジレンマが、使う者を何とも言えないアンバランスな世界に誘い込むのではないだろうか?手荒に扱ってはいけない!雑に扱ってはダメだ!と言う思いが、まるで、弱い者に手を貸す様な、或いは、バカラの薄っぺらいワイングラスでワインを飲む時の様な優しさを要求してくる。例えば、一見、カーボンロッドと同じように扱い、力いっぱいロングキャストしている様に見えても、キャスターの心の奥底では自ずと手加減し、護ろうとしているのではないだろうか?大物を豪快に釣りたい!力いっぱいロングキャストしたい!と言う釣り師の本能とも言える欲望を抑え付けようとする厄介な道具、それがバンブーロッドなのかも知れない。つまり、釣り師の要求を全て満たす圧倒的な強さと性能を持つカーボンロッドとは真逆の、このバンブーロッドの弱さも魅力の一つとなっている様な気がする。アメリカの古い釣り本に、「一人前のフライフィッシャーになるまでには、キャスティング練習でロッドを5本は折るだろう」と言う一節があった。それだけフライキャスティングは難しいと言う意味だが、現在でもバンブーロッド5本と言えば経済的にも大変な事だ。だから当時の入門者は上達するまでの間、ずっと高価なバンブーロッドを使い続けなければならない訳で、それは時間的にも経済的にも今よりも大変だったと思う。その事から、当時のフライフィッシングは今の様な一般的な遊びでは無かった事が容易に想像できる。勿論、現在はタフで安価なカーボンロッドが沢山あるので、キャスト練習も実釣も好きなだけ出来る。カーボンロッドは無理な力が掛かりがちな初心者のキャスティングでも殆ど折れる事は無い。それだけ、実釣を含めたフライフィッシングの上達は昔よりも早くなったと言えるだろう。
日本でも80年代のアウトドアブームと共にやって来たフライフィッシングの一大ブーム。そして、ブームを
助長したのは、その頃登場したカーボンロッドに他ならない。その後アメリカで起きたバンブーロッドブーム、更には、それを自分で作るホームビルダーブーム。それらは例に洩れず、すぐさま日本やヨーロッパなど世界中に広まったのは周知の通りだ。それには1977年にアメリカで出版された一冊の本が関わっていたのだが、それ以来、数多くのバンブーロッドが世に出回る事となった。現在、バンブーロッドを使っているフライフィッシャーも、その多くはグラスファイバーやカーボンファイバーのロッドからフライフィッシングに入ったと思う。その為、それら工業製品である強化プラスティックのロッドとバンブーロッドを性能面で比較してしまうのは必然かも知れない。しかし、全ての製品に均一性のとれる強化プラスティックと、前世紀のマテリアルである竹を比較するのは、先にも述べた通り大きな間違いと言わざるを得ない。比較すべき物では無いと言っても無理な事かも知れないが、素直にバンブーロッドは前世紀の過去の道具だと言う事を十分認識して使うべきだと思う。その上で使うのであれば、バンブーロッドは強度や耐久性、扱い易さの点で明らかに劣っていたとしても、フライフィッシングを十分に楽しむ事が出来るし、また、バンブーロッドならではの雰囲気を味わう事が出来る素晴らしいい道具である。
バンブーロッドは見ているだけでもその美しさに十分満足できるが、その美しい道具を実際にフィールドで使える喜び、そして美しさと機能とが一体化した究極のフライフィッシングの世界を堪能できる道具。それがバンブーフライロッドの世界だ。決して魚を釣るだけが目的では無い何かがそこにある。たった一匹でもいい、納得の行く道具で、毛鉤で、流れで、キャスティングで、狙った魚を仕留める事が出来れば、それは、心から納得できる最高の喜びである。昔から釣りを覚えると一生、幸せになれると言われて来たが、フライフィッシングに出会うと、もっと幸せになれる。そして、更にバンブーフライロッドを手に入れると、釣りに行けない時ですら幸せでいられる・・・・。
ただ、幾ら美しいとは言ってもバンブーロッドは飾り物ではなく、歴とした釣り道具である。道具である以上は実釣に耐えうる剛性や耐久性が求められるのは当然の事で、それは100年以上もの時間を費やして研究されて来た。また、ラインシステムや毛鉤、キャスティングメソッドなどもロッドと同時に研究、改良され、長い時間を掛けて進化して来たのは言うまでも無い。中でもロッドの素材に関しては、竹という最も反発力のある天然素材を見つけ出し、更には最強の竹である中国産トンキン竹を見つけ出した先人達のフライフィッシングに対する情熱には計り知れない物があったと言えるだろう。そして辿り着いた究極の性能と耐久性を持つシックス・スプリットケインロッド、その発明がフライフィッシングを大きく進化させた。では、何故ここまでの耐久性を必要とされ、研究開発されて来たのか?当時の他の釣り同様、木の枝や丸竹でも良かったのではないだろうか?それは、フライフィッシングには他の釣法とは全く違う、独特かつ特殊なフォルスキャストと言う作業があったからだ。フォルスキャストはラインを何度も前後に振らなければならず、そのロッドへの負荷は錘を飛ばす他の釣りとは全く異質の物で、非常に過酷な長時間労働と言わざるを得ない。餌釣りの場合はロッドに掛かる負荷は魚の引きだけだし。ルアーフィッシングならば最初のキャストと魚とのファイトだけだ。しかし、フライロッドはそれらの釣竿とは違い、魚をフッキングする以前からキャスティングによる途轍もなく大きな負荷を負わなければならない。それらフライフィッシング独特のフォルスキャストやラインピックアップ、更にはメンディングなどの独特な操作がロッドに掛ける負
荷は、トラウトとのファイトの何倍もバンブーロッドを痛めつける過酷な儀式となる。1度の釣行でロッドに掛かる曲げの回数や負荷は他の釣りの数倍、数十倍にもなるのだ。つまり、必然的にフライロッドには、曲げに対する耐久性が何よりも求められるのだ。勿論、イギリスやアメリカでもスプリットケインロッドが発明される以前は丸竹のロッドだったし、更にそれ以前は柳、グリーンハートなどの弾力性のある木の枝をそのまま使ったロッドだった。しかし、木製や丸竹のロッドではフライキャスティングの負荷に長期間耐える事が出来なかったので、このシックススプリットケインロッドと言う、より丈夫な革新的ロッドが発明されたのだ。必要は発明の母と言われるが、この軽くて耐久性のあるロッドを必要とし、発明に至らせたのは、実はドライフライの登場に他ならない。それ以前のウェット、ニンフ、サーモンフライの釣りでは、長くて重いツーハンドロッドが主流であったが、アメリカン・ドライフライの進化が軽くて強いロッドを必要としたからである。その結果がH.・L レナードやオーヴィス、或いはペインなどを生み出した。スプリット・ケイン・バンブーロッド、それは、ドライフライフィッシングがロッドの耐久性を最も必要とする釣りだからこそ生み出された特別な工法である。
今でも忘れる事が出来ない、こんな体験もある。それは、関東地方に古くから在る有名な和竿メーカー製のフライロッドで、40年程前に作られた丸竹
のシャフトのロッドに起きた出来事だ。それは、7フィート程の長さで、2ピース、繋ぎはヘラ竿と同じ竹の並み継で、グリップはコルクではなく桐の木を削り出した物だった。シャフトは漆仕上げで美しい竿だったが、実釣に使われる事無く、ずっと手入れをしてコレクションされていた様だ。或る日、珍しいロッドがあるから振ってみるかい?と言いながら、オーナーがそのロッドを出して来て私に手渡した。当時、竹竿には殆ど興味が無かった私は、すぐさま彼の手にそのロッドを戻し御遠慮した。和竿に詳しくなかった私には竹の種類などは判らなかったが、ヘラ竿用の竹で作られているのだろうと大凡の想像は付いた。強度を保つ為だと思うが、バット部分は結構太く作られていて直径1.5p以上はあった様に思う。そして、私が『このロッドは普通の和竿と同じで中は空洞の丸竹だよね?』と聞くと、彼はそうだよ!これは、有名なヘラ竿師が特別に作ってくれたフライロッドなんだ!と言っていた。当時、既にフライキャスティングにドップリと嵌り、最新のカーボンフライロッドを研究していた私には、そのロッドが何と無くフライロッドとして機能しない様な気がしていた。『このシャフト、空洞の丸竹じゃフライキャスティングには耐えられないでしょう!フォルスキャストでバットが折れるんじゃないの?』と冗談交じりに言ったのを覚えている。彼は『これは和竿作りの名人が作った竿だからそれは無いでしょう』と言いながら、徐に#4ラインをセットしてラインを出そうと2〜3回フリッピングし、丁度、ラインが5〜6ヤード出たところでフォルスキャストを始めると、それは突然起こった!バン!と言う、乾いた大きな音を立ててグリップのすぐ上の部分から真っ二つに折れてしまったのだ。私の冗談が現実になった瞬間、二人とも声も出さずに顔を見合わせた。しかし、これ程アッサリ折れるとは正直、思っても見なかった。恐らく、全く使っていないにも係わらず折れた原因は、永い間に竹が乾燥し過ぎていたのと、やはり丸竹そのままの強度ではフォルスキャストの大きな負荷にに耐えられなかったのだと思う。そして、その時オーナーにこう言ったのを覚えている。『バンブーフライロッドの歴史を考えても、丸竹や木だと折れ易かったから、より丈夫な6角形のスプリットケーンロッドが発明されたのでしょう?』 と!するとオーナーは、『そうだよなぁ!丸竹で折れないのであれば、態々スプリットケインのフライロッドを発明する必要は無かったよ!』そんな会話で終わった事件だったが、後の私のバンブーロッド造りに大きな影響を与えたのは確かである。そして今、更に考えてみると、バット部分が簡単に折れた理由は他にもあったと思う。それは、シャフトが丸竹のままで弱かった事の他に、グリップが柔軟性のあるコルク製では無く、桐の木を削り出した、硬く弾力性の無い木製グリップだった事が、バット部分の一部に大きな負荷を掛けた事も要因だと思う。そして、改めて思ったのは、バンブーフライロッドを造る上で最も重要なのは、フライキャスティングと言うハードな行為に長期間耐えられる強度と耐久性を確保する事だと・・・・。
私も30代の頃は
年間300日を超える釣行をしてた時期があった。それが出来たのも、北海道の殆どの河川には禁漁期が設定されていないのと、川漁師が少ないので漁業権も設定されていないからだ。ただし、地域によってはサクラマスの海降時期(4月〜6月前後)だけ山女魚釣りが禁止される所もあるが、岩魚やアメマス、虹鱒やブラウンは通年釣り放題なので真冬でも釣りが可能だ。(一部、サクラマスの自然繁殖を目的とした全面禁漁河川も在ります)。凍った川の氷を割って立ち込む覚悟さえあれば、通年、川釣りができる。また、吹雪と寒さに耐えれば真冬の海でもショアから海降型のトラウトやサーモンを釣る事もできます。特にアメマスやサクラマスは冬場が旬で、ウインターランと呼ばれる海降性の大きく成長した鱒達が冬から春に掛けて川に遡上するのも狙えます。
私も当時から4〜5本のバンブーロッドを所有していましたが、それらを使う事は稀で、殆どはカーボンロッドで大物狙い一辺倒の釣りでした。しかし、年間300日の釣行では流石に最新のカーボンロッドでも折れない訳がありません。年に2〜3本は折っていたでしょう。勿論、全て疲労骨折でしたが、セージに、ルーミス、オービス、スコットに、フェンウィック、ウィンストン、ラミグラス、ハーディ、T&T、ブローニング、ガルシア、ダイワにシマノ、使ったロッドの数と種類は数え切れず、殆ど手当たり次第に使っていた。更には
ヨーロッパのフライフィッシング文化やロッド製造技術のレベルが知りたくて、当時、日本にはまだ紹介されていなかったRSTと言うドイツのメーカーのカーボンロッドまで取り寄せてみました。結局、当時の私の車は道具だらけになってしまい、3#ロッドが3本、4#が3本、5#が2本、6#が2本、7#が2本、8#が2本、更に、2ハンドが1本と言う様に、かなりの数が積まれる事になっていた。勿論、リールも15、6個は常備していたし、フライラインに至ってはDTにWF,シンキングラインにシンクティップと、スプールを含めたその数は数え切れない程になっていた。毎日、釣りをするのでロッドを車から降ろすのが面倒だったのと、早朝は下流域、昼は源流、そして、イブニングライズは中流域のプールと言う様に、一日の間にロッドとラインを3〜4セット取り換えて使う状態だったからだ。そんなハードな釣行を連日繰り返していれば、当然、バンブーロッドの出番は極端に少なく、殆ど飾り物の状態だったのは言うまでも無い。
フォルスキャストやラインピックアップ、フリッピングに大きなメンディング、1日の釣行でこれらの動作を何十回、何百回と繰り返すのがフライフィッシングと言う釣りです。そして、これらの動作は想像以上の労力をフライロッドに課すので、強度と耐久性のあるカーボンロッドでさえ折れてしまう。では、一般的に言われるようにバンブーロッドは本当に弱いのだろうか?フライキャスティングが作り出す大きな負荷に耐えられないのだろうか?ここで言うバンブーロッドとは最高の強度と耐久性を誇る、一般的なシックス・プリット・バンブーロッド、つまり6角形のバンブーロッドの事だ。レナードやペイン、オーヴィスなどの銘稈と呼ばれるロッド達もそれほど弱いのだろうか?いや、私が使って来た限りではそんなに弱いとは思えない。弱いとか折れ易い,
と言う意見はよく聞く事はあるが、折れたロッドに関する真偽のほどは判らないし、況してやカーボンやグラスロッドとの強度比較であれば問題外だ。レナードやオーヴィス、自身のロッドもアメリカ各地やニュージーランドで使って来たが、キャパシティーを越えないレベルの普通の鱒釣りではロッドを折った経験は無い。また、キャスティング中に折った記憶も無い。但し、カーボンロッドと同等の強度を持ち合わせているとは思っていないので、丁寧に優しく扱っていたのは確かだ。ただ、今、ここに来て改めて思うのは、もしかしたらバンブーロッドの製法自体が間違っているのではないだろうか?と言う事だ。私が過去20年以上行って来た普通の製法、つまり現在、世界中で一般的になっているバンブーロッドの製法は本当に正しいのだろうか?それらを全て信用しても良かったのだろうか?果して、現在作られいるバンブーロッドはレナードやペイン、オーヴィスなどの本物と同等の強度と耐久性を持ち合わせているのだろうか?と言う疑問である。そして、それらの製法の真偽のほどを、私自身の中で改めて調べ直す時が来たのだと思った。もし仮に、昔の物、つまりヴィンテージと呼ばれる銘竿達が、現在作られているバンブーロッドよりも優れているとすれば、現在のバンブーロッドは手を抜いて作られているか、或いは、現在のロッド製法自体に大きな間違いがあるとしか考えようが無い。現在のバンブーロッドは同じトンキンケインを使ながら、接着剤は更に進化した高性能な物を使えるのだから、強度も耐久性も明らかに勝っていて当然である。だからこのページの内容は、今までのバンブーロッドの製法に対する疑問とその検証、研究の結果であり、『バンブーロッドの強度と耐久性に関する製法の研究』なのです。
月に一回とか年に2〜3回といった一般的な使用頻度ではバンブーロッドもそう簡単に折れる事は無いので
、その耐久性について論じられる事は殆ど無いと思う。どちらかと言えば、キャスティング性能やロッドアクションに付いて論じられる事が多いだろう。それは、ロッドの耐久性という専門的な事や製造過程は作る側の考える事で、使う側が踏み込める世界では無いからだろう。特にコレクターと呼べるほど数多くのバンブーロッドを所有している人々は、道具に対する見識も高く、釣りの技術もかなりの物だが、コレクションと言う目的とロッドを沢山持っている事から、1本のバンブーロッドを折れるまで使い込む事は殆ど無い。つまり、ファースト・インプレッションが評価の中心になってしまい、その後はコレクションとして仕舞い込まれるのが普通なので、その耐久性について試される事は殆ど無い。しかし、一般のフライフィッシャーの場合はそうは行かない。予算に限りがあるので、それ程多くのロッド手に入れる事も出来ないだろう。当然、毎回、同じロッドを使う事が多くなり、時には1本のバンブーロッドを折れるまで使う事もあるだろう。だが寧ろ、その方が耐久性を含めた、バンブーロッドの真の性能を知る事が出来るのかも知れない。しかし、たとえ週1回ペースの釣行でもロッドは折れない方が良いし、月1回、或いは年数回と言う釣行数の少ない釣り師にとっては尚更である。少ない釣行と限られたチャンスにロッドブレイクと言うのは最悪だ。『信頼できるタフなロッドと釣行する』事が私にとっては最も重要であり、安心してフライフィッシングを楽しむ上で最低限必要な事だと思う。勿論、海外釣行の場合も同じで、荷物を少なくする為に日本からは最小限のロッドとリールだけを持参し、スペアは現地で調達する事にしていた。そして、その現地調達のスペアはそのまま日本へのお土産になっていたし、日本では手に入らない珍しい物や、新作ロッドやリールを探すと言う楽しい目的も兼ねていた。
釣り竿はどんなに見た目が素晴らしくても2〜3年でダメになるような強度と耐久性では釣りの道具とは言え無い。当然、天然素材で作られるバンブーロッドにも、更なる強度と耐久性を求める事が私には重要だった。中でもストリップを張り合わせる接着剤と、負荷を分散するテーパーバランスについて特に重点的に研究して来た。それは、バンブーロッドが折れる原因の殆どはロッドのテーパーデザインとストリップを張り合わせる接着剤にあるからだ。言い換えれば、それは竹を張り合わせる為の最高の接着剤を見つけ出さなければならないと言う事だった。カーボンでも、グラスでも、竹でも、折れないロッドを作る事は不可能だと言えるが、折れ難いロッド、より丈夫なロッドは作る事が出来る筈である。だから、弱く、折れ易いと言われるバンブーロッドを、より強く耐久性のあるロッドにする製法が他にあるのではないだろうか?と考えた。その為には、まず既存の製法を全て一から見直し、その真偽の程を確かめる必要があった。その上で、更に耐久性を増す製法を探す事が目的となった。それも、バンブーロッドの完成形である、トラディショナルなスタイルを継承した上での進化でなければならない。変わったロッドや珍しいロッドを私は必要としていないし、ライトラインのバンブーロッドをこれ以上軽量化する必要も無いと考える。まして、軽量化によって強度を落としたり、折れるリスクが増すのであれば尚の事である。何故ならば、ペインの4#やレナードの5#を今まで重いと感じた事は無いからだ。その使い心地は完璧であり、ロッド重量も適当だと思う。つまり、私がバンブーフライロッドに求める物は、更なる耐久性の向上だけであり、スタンダードで伝統的なバンブーフライロッドの完成されたスタイルを維持しつつ、使い易さと強さを向上させる事が私の目指す処だ。
Hexastyle Bamboo Rod のロッド造りのテーマは『100回釣行に耐える』事だ。天候にも大きく左右されるが、一般的には1年間の釣行で5回程出番があるとすれば、100回の釣行では20年、最低それぐらいは使っても折れないロッド造りが目標だ。更に出来る事なら150回で30年、200回で40年と長生き出来る、そんなロッドを造りたいと思う。カーボンロッドの様に半永久的には使えないだろうが、少しでも耐久性のある、少しでも永く使えるバンブーロッドが欲しい、ただそれだけだ。私にとって一度折れてしまったロッドは全く価値が無くなる。現に
、過去の釣行で折れてしまったロッドは、元通りに修理しても二度と使う気が起きなかった。『可愛さ余って憎さ百倍』では無いが、私にとってロッドブレイクは最悪の出来事である。ロッドが折れると同時に、そのお気に入りのロッドに対する気持ちも一緒に折れてしまうのだろう。ただ、愛着のあるロッドは折れたからと言って簡単に捨てる事が出来ずに、今でも折れたまま持ってはいるのだが・・・・・。ただ、もし折れなかったら、もっと一緒に釣りに行けたのにと、いつも悔やまれる。道具には寿命と言う物があるので、使っている限りはいつか最後の日がやって来るのだが、だからと言って使わずにコレクションするのも私の性には合わない。それと、完全に折れていないまでも、シャフトが接着剥離して曲がり癖がつく様になったロッドも、勿論、折れる前に引退だ。恐らくそのロッドが折れる瞬間の情けない姿を見たく無いからだろう・・・・。何度も言うが、一度折れてしまったロッドは二度と元の状態には戻る事は無い。勿論、カーボンやグラスなどの化学繊維のロッドも同じである。内部の繊維が切れてしまった強化プラスティックは、外側を樹脂で固めるだけでは元の状態に復元する事は出来ない。それはロッドメーカーでも同じで、接着修理は不可能である。だから、折れた部分のティップやバットセクションを丸ごと新品に取り換えるしか無い。バンブーロッドの場合も同様で、折れたシャフトはパワーファイバーが切断され、柔細胞も破壊されている。つまり、接着剤で修復してもファイバーが切れる前の状態には戻る事は無い。これも、元のロッドに戻す為には、折れたセクションを同じテーパーで丸ごと作り直す以外に治す方法は無いのだ。よく、『バンブーロッドは折れても治す事ができるのが利点だ』と言われるが、それは間違いで、見た目だけを一時的に接着修理しても、カーボンと同じく折れる前の竹の繊維に戻る事は無い。切れてしまった繊維は接着しても元通り繋がる訳では無く、逆に接着剤や補強糸の影響で修理された部分が折れる前よりも硬くなって弾力性や柔軟性を失う。その為、修復部分は不自然なベンドカーブを描き、その前後に負荷が集中するので以前よりも折れ易くなる場合もある。また、ロッドのアクション自体も折れる前とは変わってしまうのだ。ティップがショートした場合や、フェルール前後が折れた場合も同じだが、シャフトの長さが変わるだけで、ロッド全体の負荷分散バランスが崩れるので、修復部分の前後や他の部分に異常な負荷が掛かり、同じ様に折れ易くなりる。だから、ロッドは出来る限りオリジナルのまま使い続ける事が望まれるが、もしブランクにダメージを負ったり、折れてしまった場合などは、セクションを丸ごと作り直して、新品に取り換える事をお奨めする。折れた部分を接着修理するのでは無く、新品のセクションを作り直す事によって、バンブーロッド自体も使う側の気持ちも、また新たに出直す事ができるだろう。
また、バンブーロッドは何故2ティップが多いのか?或いは、シングルティップと2ティップのどちらが良いか?と聞かれる事があるります。バンブーロッドはそれが作られた100年以上前から2ティップが基本である。特に3、4、5番のライトロッドに関しては2本のティップを交互に使う事によってロッドの寿命を長持ちさせる事ができたからだ。例えば、前回の釣行ではAティップを使ったので、今回はBのティップを使う。この様にバンブーロッドは2本のティップを交互に使う事によって、バットセクションとティップセクションの耐久バランスをとっている。どんなに丈夫に作ったとしても竹製の細いティップの耐久性や強度には限界が有り、折れ易い物だ。だからと言って、折れ難くする為にティップを太くするとフライキャスティングその物に悪影響を与えてしまう。その為、多少の不安があっても、ある程度細く作らなければならないのはフライキャスティングのロッドとしての宿命と言える。シングルティップのロッドは価格を抑える事が出来るが、基本的には、多少高価であって
も2ティップであるべきだと思う。1本のティップを毎回使って酷使すると、内部で接着剥離やファイバーの断裂が起こり易くなり、先端部がすぐに折れてしまうのだ。ティップセクションもバットセクションも基本的には同じ竹から作られるが、トップの一番細い部分のパワーファイバーの量は、バットの最も太い部分の十分の一程度しか無い。その為、どうしてもシングルティップのロッドでは、先にティップセクションに疲労が蓄積して弱ってしまう。その点、2ティップは交互に使う事によって、その疲労度も二分の一になる。また、仮にどちらか一方のティップが折れてしまっても、替りの新しいティップセクションを製作している間、もう一本のティップで釣りを続けられるのも利点だ。つまり、圧倒的な強度と耐久力を持つカーボンロッドには2本のティップは必要無いが、天然素材であるバンブーロッドにはティップが2本と言うのは必然的な事であり必要な事だ。つまり、贅沢やオマケでエキストラティップが付いていた訳では無い。細いトップの弱さを補う為には2本のティップを交互に使い、バットセクションとの耐久バランスを同じにする必要があるのだ。中には、前回どちらのティップを使ったかが判る様に、フェルール近くに数字や点などで印を付けている親切なロッドもある。ペイン、レナード、オーヴィス、ヤング、ギャリソン、・・・・・・・。どれを取っても銘稈達は全て2ティップが基本であり、価格についても2ティップを基本に考えるべきである。手間と価格を抑える為に1ティップのロッドを作っても、結局、すぐに折れてしまえば修理の手間とコスト、その空白期間などを考えると、2ティップの方が遥かに価値がある。また、アメリカでは1ティップのバンブーロッドをオークションに出品しても値段が付かないのが現実だし、それが、ヴィンテージロッドともなると不完全と評価され、殆ど価値が無くなる。その為、ヴィンテージロッドにはティップを後から作り直した偽物も沢山出回っているのも事実だ。特に4番以下のロッドは細いティップが殆どが折れてしまっている為、どちらか片方、或いは両ティップとも偽物と言うロッドも多い。現在流通しているヴィンテージロッドの中では、4番以下のライトロッドが極端に少なく、また、高値が付いているのもその為である。逆に、ティップが太く、折れ難い6番以上のヘヴィーウエイトバンブーロッドや、サーモンロッド、2ハンドロッドのなどのヴィンテージは今でも沢山生き残っているので、比較的安い価格で手に入れる事ができる。また、それらのヘヴィーウエイトロッドが殆どシングルティップなのは、トップ部分にもある程度の太さがあって折れ難い為、エキストラティップが必要無かったからだ。
バンブーフライロッドを作る事、それは、矛盾との戦いだと思う。硬くて尚且つ柔らかい?柔軟性があって、張りがある?細くて、折れ難い?天然素材に耐久性?この様に、バンブーフライロッドに求められる理想は、全て矛盾とのぶつかり合いに他ならない。しかし、その中から最高の妥協点を見付け出し、耐久性と操作性を両立させなければならないのだ。それらの矛盾点は、細くても折れ難いカーボンファイバーなどの強化プラスティックならば簡単にクリアー出来る問題だが、これらを竹でクリアーするとなると、やはりそれは至難の業である。そして、いつの間にか、こう考えるようになった。自分が欲しいと思えるロッドが造りたい。少しでも永く使えるロッドが造りたい。本当に欲しいバンブーフライロッドとはどんなロッドなのか?バンブーロッドはどうあるべきなのだろうか?そして、それらの疑問の答えを探し、全てを見つめ直した結果は、やはり釣り竿としての耐久性しか無かった
。フライロッドに要求される多くの矛盾をクリアーし、少しでもその本質に迫る事だった。見た目の美しさや仕上げはバンブーロッドにとって重要な要素である事は確かだが、本当に必要なのは、それだけでは無い。また、先進性や特殊性でも無いと思う。単純な思い付きや改造は発明でも無ければ、革新でも無いだろう。100年以上前から現在まで、アメリカのメーカーの間では色々な事が試されて来た。1900年には既に4ストリップのクワッドロッドも作られていたが、ハイラムレナードはその4角ロッドを超える性能を求め、より高性能な6ストリップのロッドを発表したのです。その後の100年間も、五角、七角、八角、十角、十二角形などの多角形ロッドや、中空構造、竹フェルール、グラスファイバーフェルール、カーボンフェルール等々あらゆる事が試されて来た。これらのアイディアはバンブーロッドメーカーならば誰でも簡単に思い付く発想で、別に特別な事では無い。当然、それらは多くのメーカーによって作られ、テストされて来たが、それらがバンブーロッドメイキングのメインストリームになる事が無かったのは、耐久性と言う、釣竿として最も重要な要素を満たす事が出来なかったからだ。だから、今、私が思う事、それは正統派フライロッドとして少しでも永く美しく使い続ける事が出来る丈夫なバンブーロッドが造りたい。自分が造っているのは美術品では無く道具だと言う事。道具である以上は、簡単に壊れて欲しくは無いし、折れて欲しくも無い。出来るだけ永い時間、活躍して欲しい。ただ、それだけだ。そして、いつの日か、一生ものと呼べるロッドを造りたい。つまり、自分よりも長生きするバンブーフライロッドを造る事が夢である。
勿論、私もバンブーロッドを使うフライフィッシャーの一人なのですが、以下のレポートは使う側だけでは無く、ロッドを作る側の経験や反省から、少しでもバンブーロッドの『 真実 』に迫る為、更に深く広く
研究、考察した内容となっています。

Part #2

最も重要な要素、接着剤の研究 - 第2世代エポキシ 〔Second Generation Epoxy〕 )
The most important element is the research of the adhesive. Next innovation..

バンブーフライロッドのアクションや性能、耐久性などを決める要素には、竹の種類やロッドテーパー、ストリップの接着、フェルールの取り付けなど色々考えられますが、それらの中でもとりわけ重要な要素は細く削った6本のストリップを張り合わせる接着技術です。それはフライロッドに最も必要な強度と耐久性を兼ね備えたシャフトを造る技術に他成りません。その創生期から、シャフト内部の接着不良や接着剥離の問題はスプリットケインロッドにとっては避けられない宿命なのですが、誰もがそれについてはあまり触れる事はありません。理由は、外見からではシャフトの内部がどんな状態になっているのか判断できない上、ガイドの取り付けやシャフト補強の為のラッピングスレッドによって、張り合わされたストリップが開いたり、バラバラにはならないからです。しかし、6本のストリップを接着して製作されるロッドシャフトは、バンブーロッドの製作工程の中で最も重要な要素である事は確かです。つまり、ストリップの接着をより完全な物に近づけ、強度と耐久性を向上させなければ、折角のロッドテーパーも、アクションも、デザインも、仕上げも、全てが無駄になってしまいます。勿論、レナード、ペイン、オーヴィスの時代から、いや、それ以前から常にバンブーロッドメーカーは最強の接着剤を求めて研究し続けてきました。それは、如何に優れたテーパーデザインで作られた素晴らしいアクションのロッドでも、その原点であるストリップの接着が完全、或いは強固な物で無ければ、その性能を十分に発揮できずに短命に終わってしまうからです。竹の最も強い部分だけを削り出して張り合わせるスプリットケイン工法は、接着剥離さえ起こさなければ簡単に折れる事は無く、いつまでも素晴らしいアクションを保ち続けます。
現在、一般的に使われている様な化学合成接着剤の無い時代は(1930年代まで)、【にかわ】や【カゼイン(牛乳由来)】などの天然由来の接着剤がストリップの張り合わせに使われていました。勿論、当時はそれらが最高の接着剤だった為、釣り竿以外にもバイオリンやピアノ、ギターなどの楽器、家具や弓矢など、全ての木製品の製造、接着に使われて来ました。しかし、それらの天然接着剤は現在の化学合成接着剤に比べると格段に性能が劣っていたので、特に大きく曲げられる事が多いフライロッドの製作ではシャフトを更に糸で段巻きにして補強していました。しかし、流石に糸で補強しただけでは天然接着剤の内部剥離を防ぐには限界があります。その結果、剥離した部分は折れ易くなり、当時はロッドブレイクが日常茶飯事だったのは仕方の
無い事でした。1930年代に入り、合成接着剤『 レゾルシノール 』が発明されると、木材の接着性能が飛躍的に向上し、丈夫な集成材や合板が大量に作られるようになりました。当時、より強い接着剤を探していたバンブーロッドメーカー達もロッドの耐久性を向上させる為に構造木材用接着剤であるレゾルシノールを使ったのは当然の事でした。その結果として、バンブーロッドの性能と耐久性は格段に向上し、シャフトからは補強の段巻も消えてレナードやペイン、オーヴィスなどをはじめとする、現在見られる様な段巻きの無いバンブーロッドが作られる様になったのです。但し、当時から最も使われて来たレゾルシノールも、元々はバンブーロッドを作る為に開発された物ではありません。それは、家や橋、船などの大きな木材建造物を頑丈に作る為に開発された構造用接着剤で、強い合板を作る為の硬く硬化する接着剤でした。つまり、当時の強い接着剤とは、被接着物が曲がったり歪んだりしない事、更には柔軟性を持たない無い事が大前提であり、真っ直ぐなまま硬く固定させる事が目的でした。そのため、レゾルシノールで接着すると、接着強度は十分確保されるので硬く張りのあるロッドシャフトになりますが、接着剤自体に弾力性を持たないので、ロッドが曲がる度に硬い樹脂が割れたり粉化して、ある時期から急激に接着力が低下し、シャフトの剥離を招くようになります。つまり、最強の構造用接着剤レゾルシノールでさえもフライロッドに最も必要とされるフレキシビリティー(柔軟性)までは兼ね備える事は出来ません。
バンブーロッドが折れる原因の殆どは、シャフト内部の特にストリップの接着剥離に起因しますが、それらの剥離はロッドを通常使用している時の湾曲による接着剤疲労から起こります。接着剤の劣化・剥離は特に接着面の少さなティップ側の細い部分ほど顕著ですが、太いバット部分やグリップとの境目など、大きな負荷が集中する場所でも起こります。後者の様に接着面の大きな部分での接着剥離は、使われている素材である竹やコルク、木、金属などの湾曲率の違いから、その境界部分に異常な負荷が掛かるために起こり易くなります。ロッドシャフトを構成する6本の細いストリップは、互いに接着され、支え合う事によって、ロッドに掛かる負荷を分散・吸収して張りと強度を保持しています。それが内部で剥離すると、丁度、剣道の竹刀のようにバラバラの竹が紐で束ねられているだけの状態になりますが、そのように剥離した状態でロッドが曲げられると、完全に一体化している時に比べて、其々のストリップに別々な負荷が掛かり、それらを上手く分散、吸収する事が出来なくなって切れる、或いは折れてしまいます。また、完全に折れないまでも、内部が剥離する事によって、ロッドの一部に張りが無くなったり、全体的にスローアクションに感じられる事もあります。更には、キャスティング中の腰砕けやパワーダウンを感じる場合も内部剥離の可能性があります。また、魚を沢山釣った後や大物を釣った後に、細いロッドティップに曲がり癖が付く場合がありますが、それも、竹の繊維
が曲がったのでは無く、ティップの内部で接着剥離を起こしている可能性が高いと言えます。指で軽く曲げて、簡単に曲がり癖が付いたり、曲がったティップを簡単に元に戻どせるようであれば、ティップ内部の接着剤が剥離していると考えて良いでしょう。それは、ストリップが完全に接着されている状態ならば、新品時と同じくバネの様に真っ直ぐに戻るからです。
特にストリップ同士の接着面積が非常に小さい中空(ホロービルド)構造では、更に接着強度が不十分なため、剥離する可能性がより高くなります。また、接着面積が少くないと言う弱点を強力な接着剤を使って補ったとしても、その接着力が竹の細胞よりも強ければ、逆に竹の薄い壁面を破壊してしまいます。つまり、強力な接着剤を使ったからといって、十分な強度を得られる訳では無く、寧ろ、薄く削られたシャフトの壁面の竹繊維や細胞が負荷に耐えられずに、裂けたり、破裂し易くなります。ですから、シャフトを中空にする事によるメリットと耐久性や製作コストなどのディメリットを考える事が重要です。ここ数年、本場アメリカでも中空シャフト(ホロービルド)ブームが加熱していますが、中空シャフト自体は100年も前からレナードファミリーがら独立したビルダー達によってテスト、製作されて来ました。有名なところでは、ユースティス・エドワードなどもそうですが、強度や耐久性の問題等で、その後、中空シャフトがメジャーになる事はありませんでした。しかし、近年の接着剤の高性能化と1980年代からのバンブーロッド回帰ブームによって、再度、中空シャフトが作られる様になったのです。特に、最近作り始めた個人ビルダーの間では、ホローでなければバンブーロッドでは無いと言う勢いで、挙って中空ロッドが製作、販売されています。現在の中空シャフトブームには前記の様な接着剤の進化が挙げられますが、更なる理由はカーボンロッドの登場で1970年代に一度消滅し掛けたバンブーロッドを復活させる事と、付加価値を付けてセールスポイントやアピールポイントにする事が目的だと思われます。ただし、これら中空構造のシャフトにつては、その耐久性と強度がどの程度の期間テストされたのかが重要となります
。実際、数年の製作キャリアで作られる中空ロッドは、長期に渡る耐久テストが行われていないのが現状であり、長期間の実釣やタフな釣りに於ける耐久性はあまり期待出来ないところです。釣竿を含め、道具と言うのは、それを作る事を楽しむ物ではありません。道具は完成した時がスタートであって、完成した時点で終わりでは無いのです。つまり、道具は寿命の長さがその価値を決めるのです。流行の中空ロッドですが、特にFull hollow と呼ばれる、完全にパイプ状の空洞シャフトは、誰もが容易に想像できる程度の強度と耐久性しか持ち合わせていません。また、現在、アメリカの中空シャフトブームのメインになっている、Semi-Hollow と呼ばれる中空構造は、空洞のシャフトの中にダム状の隔壁を作り、実際の竹の節と稈の構造に似せる事によって弱さを補強すると言う考え方です。しかし、自然の竹(イネ科植物)に見られる節の存在と空洞構造は、元々、強度を増すの為の物ではありません。それは、成長速度を早くする為に、成長点を複数持つ事が本来の目的であり、他の植物よりも一早く、高く成長して日光を確保するため進化です。つまり、稈と節で構成されている竹の構造自体が他の樹木や植物よりも、特に強いと言う訳ではありません。形成層を作って成長する普通の太い樹木や、木部自体に柔軟性のある柳などの方が強風や台風にも強いのです。実際には、竹の構造を中空ロッドに応用したセミホローロッドも、数回の使用で内部のダム部分の接着部分が剥離する可能性が大きく、隔壁(ダム)自体が補強の為の骨格として機能していない事が多いのです。その強度は空洞部分の大きさや、削り残す隔壁の厚さにもよりますが、隔壁の厚みが薄ければ薄いほど接着面が小さくなるので剥離し易くなります。そして、隔壁の接着部分が剥離すると、補強の全く無いフルホローの空洞シャフトと同じ状態になってしまいます。現在の様に中空構造のシャフトが流行って来た要因には、接着剤の進化、接着強度の向上が挙げられますが、如何に強力な接着剤と言えども接着面が小さければ必要な強度は得られません。ですから、強力な接着剤で作られた隔壁構造のセミホローロッドも、数回の釣行後に内部の隔壁の接着部がどうなっているかを、切断、分解して調べる必要があります。事実、数回使用したセミホローロッドの隔壁部分の接着状態を公開しているサイトもありまが、その結果は、隔壁部分の接着が殆ど剥離している状態でした。ここで、考えなければならない事は、接着剤は永久では無い、絶対では無いと言う事実です。化学メーカーは、より寿命の長い接着剤や少しでも長持ちする接着剤を日々研究していますが、やはり接着には限界があります。時間の経過と共に接着剤自体の接着力が低下する経年劣化や、温度や湿度などの環境によっても接着剤は劣化します。ですから、一度、接着された物は剥がれないと言う思い込みや前提は棄てなければなりません。そして、いつまでも完全に接着されているとは思い込まない事です。接着剤は完全に硬化して、接着が完了した時点から、その劣化が既に始まっているのです。バンブーロッド作りに於いても、一般的に接着剤を過信し過ぎているのは事実です。一度張り合わされたロッドシャフト(ストリップ)の接着面は剥離しないと言う思い込みが前提となっています。セミホロー構造でダムの仕切りが有れば、空洞のシャフトでも十分強度が得られると言うのは、ダム同士の接着部分が剥離しないと言う前提での考え方なのです。そして、数回のキャスティングテストで破裂、破損しなければ、そのまま永久に接着され続けると思い込んでしまうのです。しかし、接着面は釣行を重ねる毎に大きな負荷が掛かり、剥離して行きます。隔壁の小さな接着面はロッドが曲げられる度に上下、逆方向に引っ張られて徐々に接着面が剥離して行きます。ですから、隔壁の接着性や耐久性を考える場合は、最低限どの程度の接着面積が必要なのかを調べる接着強度テストと接着耐久テストが必要になります。これらの事から中空構造にする事で得られる、ほんの数グラムの軽量化と言うメリットと、接着面積が減る事で強度と耐久性を失う大きなディメリットを今一度考え直す必要があります。Hollow Build のブームが去ろうとしている現在では、中空シャフトをラインナップから外したメーカーや、オプション扱いにしているメーカーが増えつつあります。私も、10年以上前は中空シャフトを製作、研究していました。しかし、如何に強力な接着剤を使っても、その少な過ぎる接着面の強度と耐久性に納得する事が出来なかったのは事実です。キャスティング中も常に、この中空シャフトがいつ折れるか?いつ破裂するのか?と不安と不信感を持ちながらの釣りは、気持ちの良い物ではありません。ですから、中空ロッドの耐久性と、それが持つ少ないメリットを考えた場合、ソリッドシャフトのみのラインナップに戻ろう考えました。その為、今も手元に残っているロッド達は、全てトラディショナルなソリッドシャフトのロッドのみです。アメリカでの空洞シャフトブーム再燃から、十数年が経過した現在、そろそろそれらの接着剤が経年劣化して、一斉に中空シャフトの破裂、破損が始まる事が考えられます。
また、バンブーロッドの耐久性と言う点では、ロッドシャフトを真っ直ぐに修正する加熱修正(ストレートニング)加工も、取り分け重要な問題点となります。ストリップ接着完了後のロッドシャフトは多少、歪んでいる物ですが、その歪んだシャフトを真っ直ぐに修正するために熱を加えて曲げ直す作業がロッドシャフトにとって最も危険で、リスクの大きな作業と言えます。接着が完了したシャフトは再加熱すると、内部の接着剤が熱によって劣化するので、張り合わせたストリップが剥離してしまう可能性があります。その接着剤の熱による劣化は、見た目だけでは判らないので、剥離しているシャフトにそのままガイドやグリップを取り付けてしまう可能性さえあります。その為、接着剥離している部分の強度が極端に落ちて、出来立ての新しいロッドや殆ど使用していないロッドでも折れたり曲がったりする事が起こります。
シャフトとして張り合わされる前の細い三角形のストリップ自体は、とても弾力性や復元力に富んでいて、半円以上にまで曲げてもバネの様に元に戻ります。また、
適切にヒートトリーティングされたストリップは、接着前の単体の状態では殆ど曲がり癖も付きません。特に、ティップ部分の細く削られたストリップはパワーファイバーだけの状態に近いので、ほぼ、円を描くまで曲げても折れる事無く元に戻ります。つまり、バンブーのストリップは接着される前までは弾力性も復元力もあり、尚且つ曲がり癖も付かないのですが、接着剤で張り合わされてシャフトになった状態で初めて曲がり癖が付くようになるのです。即ち、ロッドの曲がり癖と言うのは、パワーファイバーなどの竹繊維やストリップ自体が曲がってしまうのではなく、それを張り合わせる接着剤が剥離する事によって、ロッドシャフト内にストリップのズレが生じて曲がり癖が付くのです。
その他にも 、「ロッドに張りが無かったり、腰砕けが起こる原因は製作段階での火入れ(焼き)不足による竹の硬度の問題だ」と言うのも定説になっている様ですが、それも火入れ不足による問題では無く、殆どの場合はシャフト内部の接着剥離が主な原因となっている事が多いのです。この様にロッドシャフトに張りや硬さを感じられない場合、その原因としてはロッドが大きく曲げられた時に起こるパワーファイバーの断裂などが考えられますが、
シャフトの腰砕けやスローアクション化はバットからミドル部分にかけての接着剥離が原因で起っている場合が殆どです。私がこれらのトラブルの原因を改めて考え直すキッカケとなったのは、十数年前に突然、突き付けられた事実です。それは、スプリットケインロッドを製作する上で、最も基本的要素である『ストリップの接着』について再検証しなければならない事件でした。そして、その検証結果は、以前からロッドの製作に使用していた接着剤、当時、強力と言われていた構造用水性接着剤がシャフト内部で自然に劣化し、時間の経過と共にストリップが剥離していたと言う事実です。そのロッドは、製作後も殆ど使われる事無く、3〜4年程経過していました。しかし、キャスティングや取り込みの負荷も殆ど掛かっていなかったにも拘らず、数年と言う時間の経過だけでシャフト内部が接着剥離を起こしていたのです。それに気付いたのは、何気なくティップセクションを持って、手の甲を軽く叩いていた時の事です。通常は手の甲を叩いてもティップからは殆ど音がしません。しかし、その時はカチッ!カチッ!カシャッ!カシャッと小さな音が聞こえて来たのです。一瞬、エッ?と思いましたが、小さな音なので更に耳に近づけて聞いてみると、確かに聞こえてきました。外見を見る限りでは傷や割れも無く、殆ど新品同様の状態です。この音は何だろう?何処から出ているのか?と不思議に思いながらもティップを指で曲げてみると、何と、曲がり癖が付くではありませんか。驚いて更に反対側に曲げると、ティップは反対側に曲ったままでした。それを数回繰り返してみても同じ症状です。もしかしたら、この音はシャフト内部の接着が剥離しているから出るのではないだろうか?剣道の竹刀程では無いが、それに近い状態になっているのでは無いか?と思い、すぐにガイドを外して分解してみました。ティップセクションのフェルールのラッピングをナイフで削り、ライターで加熱して接着剤を劣化させ、フェルールを外して見ると、何と!粉化した水性接着剤がパラパラとこぼれ落ち、6本のストリップが剥離していたのです。まさに、シャフトが剣道の竹刀の様になっていたのです。つまり、ガイドのラッピングとフェルールでストリップが束ねられているだけの状態だったのです。実際に分解して、剥離を確認したのはフェルール部分だけですが、音が出るのはトップ部分なので全てを分解しなくてもティップセクション全体の内部状況はおおよそ見当が付きました。私はそのショッキングな事実から、これではダメだ!使い物にならない。殆ど使っていないにも拘らず時が経っているだけで接着剥離している!これは新たな接着剤と製法の研究しなければならない!と痛感しました。そして、より耐久性のある、より使い易いバンブーロッドを造る為には、ロッド製法その物や、使う材料、素材など全てを根本から見直さなければならないと考えたのです。私自身も20年以上に渡り、ロッドメイキングのテクニックを先人達のHow to本などから学び、研究して来ましたが、当初からストリップの接着法や接着剤については、何の疑問も持つ事も無く、一般的に使われている木材用水性接着剤を使って来ました。バインディングや接着技法については、一応、既存の方法で納得はしていたのですが、接着剤その物についてはロッドメーカーの誰もが使っている事や過去の実績がある事、そこそこ使ってもロッドが壊れない事などから、通常、使われている水性接着剤の性能を疑う事はありませんでした。また、それら水性接着剤の特性や使用方法、本来の用途などについても詳しく調べる事が無かったのは事実です。その為、ロッドブレイクやティップの曲がり癖、シャフト内部のストリップ剥離などのバンブーロッドに良くあるトラブルは、竹竿だから仕方が無い、或いは、天然素材だから避けられない事だと思い込むようにしていたのでしょう。また、ペインやレナードのロッドでさえ、折れたり曲がったりするのが当然だからと・・・。恐らく、バンブーフライロッドを使っている誰もがそう思っているでしょう。しかし、バンブーロッドのトラブルは、その殆どが接着剤の劣化や剥離が原因で起こるのです。ですから、よりバンブーロッドに適した高性能な接着剤を見付け出す事によって、更にロッドの強度や耐久性を向上させる事が出来ると改めて思いました。
接着剤は天然、水性、化学接着剤などの種類を問わず、その殆どが熱に弱く、50℃〜100℃に加熱するだけで熱劣化して
接着力が低下します。また、その接着剤の熱劣化を逆に利用する事も出来ます。例えば、ロッドの修理やレストア、リフィニッシュやリビルドなどもそうです。ガイドやフェルール、リールシートやエンドキャップなど、接着剤で硬く固定されている物であっても、加熱することによって接着剤を熱劣化させて簡単に取り外す事ができます。つまり、完全に硬化した状態であっても、接着剤は少しの加熱で簡単に劣化させる事ができ、それらを破壊する事が出来ると言う事です。バインディング(ストリップ接着)後のロッドシャフトは張り合わせの過程で多少曲がったり捩じれたりしますが、ストリップの接着強度を維持する為には、前記の理由から出来るだけ加熱修正しない事が望ましいと言えます。ですから、多少の曲がりであれば加熱修正しないで、そのままガイドを取り付けて組み上げる方がより耐久性のある丈夫なロッドになります。しかし、商品としてのロッドは初めから曲がっている物よりも、やはり真っ直ぐなロッドの方が好まれるので、殆どのロッドは加熱してシャフトの曲がりを矯正してから組み立てられるのが実際のところです。更に、強化プラスティック製の真っ直ぐなロッドを見慣れている現代では、如何に天然素材とは言え、初めから曲がっている物は精度が低いとか欠陥品だと思われるのが一般的です。しかし、本当の処、バンブーロッドの場合は別で、シャフトが曲がっている事が欠陥なのでは無く、曲がったシャフトを加熱修正する事によってシャフト内部の接着剤を剥離させる方が欠陥品と言えます。また、加熱修正する必要が無い程真っ直ぐなブランクだけを使うには、曲ったブランクは廃棄しなければならないので、製造コストが数倍になってしまう可能性もあります。その為、ロッドメーカーは曲ったブランクも加熱して修正し、真っ直ぐに直してからガイドやフェルール、グリップなどを付けて完成させるのです。但し、そのリスクとして新品、未使用にも拘らず、既にシャフト内部の接着剤が剥離しているトラブルも有り得るのです。特に、初めからロッドに張りが無かったり、或いは、数回の使用でティップに曲がり癖が付いたり、折れるなどのトラブルはロッドシャフトを張り合わせている接着剤への加熱が原因です。
しかし、製作過程で多少曲がってしまうシャフトも廃棄せずに加熱修正する方法としては、接着剤に最新の耐熱性エポキシ接着剤(150℃〜200℃耐熱)を使う方法も考えられます。エポキシ樹脂は種類によって耐熱温度も様々ですが、加熱しても強度が落ちずに剥離しにくい高性能な接着剤も各種あります。それらは第2世代エポキシ(Second Generation Epoxy)と呼ばれる最新の高性能エポキシ系接着剤
で、現在、世界中の接着剤メーカーから様々な用途に使う製品が各種、新開発され提供されています。バンブーロッドに於いても、これらの耐熱性エポキシ接着剤を使う事によって、多少の熱修正であれば劣化せずに曲げ直しする事が出来るようになります。また、カーボンファイバーの原料であるプリプレグ-カーボンシートにも使われている、加熱する事によって更に硬化して強度を増す、特殊な『熱硬化型エポキシ樹脂』や電子部品の接着用の300℃に耐えられる物もあります。
実は、現在でもバンブーロッド専用(張り合わせた竹が常に曲げられる状態にも耐える)に開発された接着剤と言うのは無いのですが、それは、バンブーロッド製作が特殊な少数世界であり、その需要がとても少ないからです。現在、世界中の接着剤メーカーが提供している木材用の接着剤は、固い木の板を張り合わせて頑丈な合板や集成材を作る為の構造木材用水性接着剤と言う物です。これらの木材用水性接着剤は被接着物の平面接着強度やせん断強度、構造強度を追及したもので、被接着物がフライロッドの様にフレキシブルに曲げて使われる前提ではありません。しかし、殆どのバンブーロッドメーカーでは専用の接着剤が無い事から、取り敢えず頑丈に木材(竹)を接着できる木材用水性接着剤をバンブーロッドに流用して来ました。そして、問題となるのは、木材用の強力な接着剤を使っていると言う安心感から、シャフト内部で接着剥離が簡単に起こる事を想像もしていない事です。更には、ロッドの曲がり癖や折れる原因を接着剤の性能では無く、竹の強度や焼き入れ具合、テーパーデザインなど、他の要素に転嫁してしまう事なのです。
Hexastyleも
ここ十数年、バンブーロッドに最適な接着剤の研究に取り組んでいますが、今は昔と違いWebのおかげで世界中の情報が簡単に入手できるようになりました。しかし、アメリカの銘竿と呼ばれるロッドメーカー達は接着剤や塗料なども企業秘密としていたので、当時の最先端技術であったそれらの内容を公表する事はありませんでした。その為、今でもその真実を正確に知る事はできません。現在はプロ、アマチュアを問わず、殆どのアメリカのバンブーロッドビルダー達も木材用接着剤を使っていますが、それらは主に尿素ホルムアルデヒド・ユリア系接着剤 (URAC-185)現在の名称はUNIBOND−800や、レゾルシノール系、水性ビニルウレタン系、イソシアネート系などの水性接着剤です。これらの木材用の水性接着剤は木材工場で合板や集積材、集成材を作る為に開発された物で、価格が安く、木材に対して強い接着力が得られるので使われています。また、硬化時間が遅く、バインディングする時間に余裕が出来るので、取扱いが楽な事もロッドメイキングに使われる理由の一つです。これらの水性接着剤の中では、未だにレゾルシノールが最も強力で、母材破壊(竹の繊維がちぎれる状態)のレベルまで、剥離しないほどの接着力を持っています。私も15年ほど前にレゾルシノールで接着したシャフトを最近になって分解、研究しましたが、15年経っても劣化や剥離が殆ど見られませんでした。但し、トップの最も細い部分に関しては、接着剤が多少劣化している可能性も考えられる程、製作当時の張りや硬さがが無くなっている様に思いました。これらの事から、水性接着剤の中ではレゾルシノールがストリップ接着に最も適した強度を持っていると言えるでしょう。ただし、接着面に赤茶色のグルーラインが残るので、仕上がりの見た目で敬遠される場合もあります。私も初期の頃は、その接着力の強さからレゾルシノールを使っていましたが、シャフトに残るグルーラインが好きになれず、ビニルウレタン系や高分子イソシアネート系などの硬化後に透明になる木材用接着剤に変更して来ました。またその他にも、取扱いが簡単な事から日曜大工に使われる家庭用木工ボンド『タイトボンド、ホワイトボンド』などの酢酸ビニル系の水性エマルジョン接着剤を使っているロッドメーカーもあります。しかし、それらの木工用ボンドは接着樹脂の肉痩せが激しく(家庭用木工ボンドは約60%が水分と揮発成分で構成されている為、乾燥後にシャフト内部に残る残留接着樹脂は40%にまで目減りします)、更に、硬化後もシリコンゴムのように柔軟性(弾性)を保つので、柔らか過ぎてロッドシャフトのような大きな負荷の掛かる接着用途には不向きです。一般的に木工用ボンドがロッドメイキングの中で使われるのは、あまり強度を要求されず、逆に柔軟性が必要とされるコルクグリップの接着が主です。また、木工用ボンドでは約60%の水分などが揮発、蒸発してしまう硬化収縮と言う現象が起こるので、完全に硬化するまで加圧器具などを使って被接着物を加圧し続けなければ、接着面の中に空洞が出来てしまいます。この様に、接着作業に於いて取扱いが楽な水性接着剤や木工用接着剤ですが、これらの水性接着剤は水中での使用は推奨されていません。つまり、完全な耐水性では無く、撥水程度の防水と考えるのが望ましく、カーボンロッドの様に完全に水中に没するのは避けなければなりません。因みに、何故フライロッドのグリップが殆どコルクグリップなのかと言うと、それはグリップ部分にも、ある程度の弾力性が必要だからです。前記の様にフライロッドは他の釣り竿よりも曲げられる頻度が極端に多い為、グリップ部分を木材やプラスティック、金属などの硬くて柔軟性の無い材質で作ると、湾曲率の違いからグリップのすぐ上部のバット部分に極端に負荷が集中してしまい、折れ易くなってしまうからです。つまり、コルクグリップには握り易さや滑り止め効果の他に、グリップにも多少の柔軟性を持たせる事で、ロッド全体のアクションを壊さずに、グリップ部分を含めたロッドシャフトの全長を使って耐久性を向上させる効果があります。
また、硬化後に非常に硬くなるような低弾力性の強力接着剤(瞬間接着剤など)も曲げられる事によって接着樹脂がガラスの様に割れたり砕けたりして粉化し、接着力が低下します。その為、弾力性を必要とするフライロッドのシャフト製造には不向きと言えます。

ロッドシャフトのストリップ接着には、接着強度、※可撓性(かとうせい)、不揮発性、非収縮性、耐熱性、耐水性、耐薬品性、不劣化性、耐紫外線など、実に多くの要素が必要とされますが、これらの互いに相反する要素を全て満たす接着剤はありませんでした。 しかし、近年開発されている第2世代と呼ばれる最新の耐熱性エポキシ接着剤の中には、これらの要素をかなりのレベルで満たす性能を持つ物が開発されています。工業用のエポキシ系接着剤も各種取り寄せて、接着剤のみの硬化実験もしてみましたが、特に可撓性を持たない強力エポキシ接着剤は、硬化後に硬くなりすぎるので1o以下の厚さの樹脂では、薄い板ガラスの様に手でパリパリと割る事ができます。つまり、シャフト内部の接着樹脂の厚さは0.1o程度なので、ロッドが曲がる度に樹脂が粉状に砕けてしまい、ストリップが内部剥離状態になる事は容易に想像できます。ですから、硬く硬化する接着剤を使う事で、より張りのある硬めのロッドシャフトを作れる様な気がしますが、耐久性の向上を目指すのであれば、多少、柔らかいシャフトになっても可撓性(柔軟性)のある接着剤を使う方がバンブーロッドにとっては理想的だと考えます。
また、ホームセンター等で入手できる一般的なボンドと呼ばれる接着剤も、硬化後の硬さがゴムの様に柔らかいのでロッドに張りと強度を出す事が出来ません。この様にロッドシャフトに硬さと柔軟性を両立させる性能を持つ、バンブーロッドに適した接着剤を見付け出すのは容易な事ではありません。
※可撓性とは弾力性や柔軟性ほどの柔らかさではなく、硬化後はしっかりした強度と硬さを持ち、尚且つ、多少の曲がりでは接着剤自体が割れたり砕けたりしない特性(微弾力性)を言います。近年開発されたエポキシ系の接着剤には工業界の新しい要求を満たす為、この可撓性を兼ね備えた物が数種類有ります。

バンブーフライロッド

上の写真は前記の解説の中に有る接着剥離の実例で、1995年頃に製作したロッドの分解画像です。ストリップの接着剤は、当時バンブーロッド用に販売されていた最新の接着剤『 水性ビニルウレタン系接着剤 』を使っています。 ガイドのラッピングスレッドやバーニッシュ、フェルールによって、外見からは折れや割れが全く見えない綺麗なシャフト状態でしたが、爪で軽く叩くとカチカチと響く様な音が聞こえ、同時にロッドアクションに腰が無くなったように思えたので、フェルールを外して見ました。これは、ティップセクションの下部、つまりフェルール内に挿入されている部分です。ご覧の様に水性接着剤の硬化収縮による肉痩せによって完全に内部剥離し、ストリップがバラバラになっている状態です。ストリップを張り合わせている接着剤は完全に粉状に砕けていて、楊枝を差し込むとパラパラと崩れてきました(楊枝の左側に見える白い点は粉状に劣化した水性接着剤の破片です)。6本のストリップは辛うじてガイドのラッピングとフェルール、バーニッシュによって纏まっている状態ですが、バットからティップまでブランク全体が完全に内部剥離していると思われます。製造から15年経っていましたが、いつ頃、接着剤の肉痩せと剥離が始まったかは正確には判りません。恐らく接着後2〜3年目からではないかと思われます。フェルールの強度によって殆ど曲がる事が無い、フェルール内部への挿入部分がこの様に剥離しているのは、ロッドが曲げられる負荷による物では無く、接着剤の肉痩せ、又は劣化による剥離だと思われます。この事実から、私はバンブーロッドビルディングに使われている全ての木材用・水性接着剤に疑問を持ち、その用途、使用法、性能、性質などを改めて調べ直す事にしました。果して構造木材用の接着剤が本当にバンブーロッドの製作に相応しいのだろうか?実は間違った使い方をしているのではないだろうか?それらを根本から調べ直し、実験、研究する必要があると感じたのです。そして、日本国内のメーカーは元より、世界中の接着剤メーカーのWEBサイトから、その使用方法、使用上の注意、接着性能など可能な限り調べました。また、世界のビルダーのWebサイトからは使っている接着剤の種類。そして、個人ユーザーのブログなどからは、バンブーロッドが折れた事例や耐久性について、或いは、クレームや不満などを公表しているサイトなども調べました。また、バンブーロッドメーカー自らが公表する事の無い真実、強度や耐久性などについての研究結果や問題点も探してみました。そして、それらの研究結果がこのページの内容となっています。
偶然とは言え、上の写真の様なストリップの接着剥離を発見し、愕然とした事が全ての再スタート
のキッカケになったのは言うまでもありません。この程度の接着能力しか持たない木材用水性接着剤でフライロッドを作って納得していたのでは耐久性とは程遠い世界だと感じました。「バンブーロッドは竹製だから弱い」と言うのは間違いで、やはり作る側の言い訳に過ぎません。使う側がよりタフなロッドを求めるのは当然の事であり、製作者はそれに応える様、更に耐久性を向上させて行かなければなりません。つまり、接着剤に問題があるのであれば、より、バンブーロッドに適した、強く耐久性のある接着剤を見つけ出さなければならないのです。そして、その後の数年間はロッドの製作を止め、最適な接着剤を見つける為の実験、研究に没頭しました。自分が納得できる性能を持つ接着剤を見つけ出し、納得できる強度と耐久性を持つロッドシャフトを完成させるためです。そして、辿り着いたのが第2世代と呼ばれる高性能エポキシ接着剤です。ただ、果してそこまでバンブーロッドを進化させる必要があるのか?一般的なバンブーロッド用の接着剤で良いのではないか?と自問もしました。実際、「竹竿だから弱いのは仕方が無い」で済むのでは無いか、とも思いましたが、元々、私自身タフな釣りをして来たので、どうしても耐久性の無いロッドを造る事に納得できなかったのです。そして、数あるアメリカのバンブーロッドメーカーを調べる内に、新たな接着剤のテストや研究をしているメーカーが多い事を知り、更にバンブーロッドの耐久性を向上させる為の研究を始めたのです。
実際にストリップの接着がこの様な内部剥離状態になると、ロッド全体に張りが無くなり、アクションがスローになった感じがします。また、ティップ部分なら曲がり癖が付きやすくなり、自然に元には戻らなくなります。指で軽く曲げてみて、曲がったまま復元しなければ、内部が剥離していて折れやすい状態になっています。外見からは内部剥離は全く判りませんが、ティップ部を爪で軽く叩くとカシャカシャとかカチカチの様な小さな音が響きます(完全に接着されていて剥離の無いティップは、弾いても全く音が出ません)。また、バンブーロッドでティップ部分が最も折れ易いのは接着剤の剥離が原因ですが、その剥離の主な原因はキャスティングによる負荷では無く、魚を取り込む際にロッドを立て過ぎてティップを大きく『Uの字』に曲げてしまう事にあります。接着面が少ないティップ部は曲げられる事によって、その内部の接着剤が剥離し易い状態になり、曲げを繰り返えされる事によって完全に内部で剥離して折れる事になります。それを防ぐ方法としては、日頃から魚を取り込む際にはなるべくロッドを立て過ぎずに水平に近い状態に保ち、ティップに負荷を掛けない事です。最も良い方法は取り込みの際にロッドを持つ手の手首を返し、リールを天に向けてそのまま腕を後ろに下げて魚を寄せます。そうする事でロッドティップを下に向ける事ができるので、ティップを大きく曲げずにランディングできます。つまり、ロッドを逆反りさせるのですが、ロッドに掛かる負荷もシャフトの背やガイド側の一方向だけに偏らず、ロッドに与えるダメージを分散する事ができます。更に、柄の長い大きめのランディングネットを使う事もお奨めします。それは、ロッドとラインの角度を直線に近い状態に保つので、ロッドティップを曲げ過ぎない効果があります。しかし、如何に素晴らしい接着剤で完璧に作られていても、バンブーロッドにはカーボンロッドほどの耐久性はありません。大切なロッドを更に永く使う為には、使う側もロッド操作の技術を磨く事が重要です。
(上の写真のロッドは15年間で10回以下の使用です。

ティップが簡単に折れてしまった、曲がり癖が付く様になった、全体に張りが無くなってスローアクションになった、或いは、キャスティング中にバット部分が腰砕けになった、などの経験はバンブーロッドを使っている人なら誰でも経験する事ですが、それをバンブーロッドだから仕方がない、天然繊維の竹製だから仕方がないと思いがちです。また、それらの原因を材料である竹の品質や焼き入れ技術、ロッドのテーパーデザインなどに転嫁してしまう場合もあります。しかし、カーボン繊維よりも引っ張り強度が強いと言われる竹の繊維は、6本のストリップが完全に接着せれていれば、そう簡単にちぎれて折れる事はありません。ストリップが完璧に接着されている限りは、そのアクションと張りを保ち続けます。だから、より強く、耐久性のある使い易いバンブーロッドを作るには現状の接着剤に満足せず、より新しい高性能な接着剤を研究、テストする事が必要です。そして、更なるロッドシャフトの強化と耐久性の向上を実現しなければなりません。この美しい竹製のロッドをより強く耐久性のある物にし、より永く使えるようにする為に、更には竹本来の強さを引き出す事ができる強度と耐久性の向上はバンブーロッドの永遠の課題であると言えます。
以下は、尿素系、ユリア系、水性ビニルウレタン系、高分子イソシアネート系
などの各種、木材用水性接着剤を使って10数年前にバインディングしたテスト用ロッドの分解実験結果です。これら水性接着剤でバインディングされたシャフトの中には、特にTipの細い部分が爪で簡単にが剥がれるほど接着力が低下している物もありました。 と言うよりは、上の写真の様に接着剤が粉状に劣化していて、シャフト内部の接着面に空間が出来ている様に見えました。主な原因は水性接着剤の硬化時に起こる水分蒸発や硬化収縮と呼ばれる樹脂の肉痩せから起こる空洞化だと思われます。また、水性接着剤の樹脂が時間の経過と共に自然に劣化する経年劣化や、硬化した接着剤の樹脂が硬すぎる為に起こる粉砕なども考えられます。丁度、水性接着剤がシャフト内部で硬くて弾力性の無いガラス状に硬化して、それが曲げられる事によって割れを繰り返して粉状になっていたのだと思われます。また、接着面や接着剤内部に小さな空洞が出来るのは水性接着剤の基本的な特性から来る問題であり、構成する成分の約50〜60%が水分と揮発成分で出来ている事が挙げられます(接着剤メーカーのカタログ参照)。その為、硬化後にシャフト内部に残留する有効接着樹脂(不揮発成分)の量は、元の体積(重量)の40〜50%にまで減少する事になります。基本的に全ての水性接着剤は硬化中の水分蒸発によって約50%の硬化収縮が起こりますが、これを水性接着剤の肉痩せと言います。実際に釣には使わずに飾っているだけのロッドが数年後の初めての釣行で折れたという例も聞いた事があります。未使用のロッドが強度不足に陥るのは、これらの水性接着剤が硬化する時に起こる、樹脂の硬化収縮と肉痩せが原因であり、ストリップの接着が不完全であったと考られます。接着剤メーカーや合板メーカーなどは、これらの水性接着剤は木材に対して十分な接着力を持っていると実験データを表示していますが、それは建築用の合板や集成材など、接着面積が1u以上あるような大きな木材を張り合わせる場合の結果です。また、接着時には油圧の大型圧着機を使ってトン単位の圧力を掛け、硬化収縮を計算した上で、接着しなければならないのです。下の『圧締』は水性ビニールウレタン接着剤のメーカーによる業務用の取扱い注意書きですが、加圧機械によって接着剤が完全に硬化するまで高圧で圧着しなければ約50%の肉痩せ、空洞化が起こると言う説明です。特に大きな問題点は、木材工場で巨大な油圧圧着機によって被着材にかけられる圧力は1平方センチあたり約5kgと言う非常に大きな圧力で、更に24時間加圧し続けて完全硬化させなければ水性接着剤の接着性能は十分に発揮できないと言う事です。つまり、バンブーロッドのストリップを接着するバインダーのコードの圧力程度では完全に水性接着剤を圧着する事ができないのです。その為、硬化中にシャフト内部で接着剤の硬化収縮や肉痩せが起こり、接着面に空洞が出来て剥離が起こり易くなると考えられます。

圧締
水性エマルジョン接着剤(水性接着剤)は被着材のすき間に浸透してくさびのように硬化する投錨効果に期待する接着剤です。
したがって圧締圧が不足すると接着面に欠孔部を生じたり、浸透が充分でなくなるため接着力が大幅に低下します。
塗布量、圧締圧、圧締時間に充分な配慮が必要です。(接着剤メーカーのサイトより)

ここで接着のメカニズムについて少し触れますが、『接着』は現在3つの定義に分類されています。@機械的結合(アンカー効果、又は投錨効果) A物理的相互作用 B化学的相互作用 の3分類ですが、木材(竹)の場合は@の接着剤による機械的結合と呼ばれるメカニズムを利用して接着されます。これは、被着物の表面にある穴や窪みに接着剤が入り込んで硬化する事で、錨の様に引っ掛って繋ぎ止める効果を指します。つまり、表面がザラザラ、凸凹している方がより接着力が増すと言う事です。例えば被着物の表面がツルツルの場合などにサンドペーパーを掛けるのはこの為です。但し、接着面を細か過ぎるサンドペーパーで必要以上にツルツルに仕上げると逆にアンカー効果が得られなくなり、接着剤が効かなくなります。現在でもガラス同士を接着する有効な接着剤はが無いのは、ガラスの表面が硬く滑らか過ぎる為、でアンカー効果が殆ど得られず接着できないのです。これらの接着メカニズムはバンブーロッド(竹)の接着工程にも応用する事ができます。ストリップをプレーニングする時に特に注意しなければならない点は、ストリップの削り面(接着面)をカンナの刃でツルツルに仕上げてしまう事です。ロッド完成時の対面幅の精度や表面を均一でフラットに仕上げようとする余り、接着面の凹凸が完全に無くなるまで削ってしまうと、ガラス同様に接着剤の『アンカー効果』が殆ど得られなくなります。その結果、アンカー効果を得られずに硬化した接着剤はストリップ同士の接着力が弱く、キャスティングの負荷だけでも簡単に剥離してしまいます。勿論、手でロッドシャフトを裂いても、ストリップは簡単に剥ぎ取る事ができます。つまり、完璧に接着されている様に見えるシャフトでも、接着面をツルツルに削られたストリップでは、簡単に剥がれる程の接着力しか期待できません。ですからストリップ同士を完全に接着して、ロッドシャフトの強度と耐久性を向上させる為には接着面に確実にアンカー効果を持たせる事が重要となります。有効な方法としては接着面に荒目のサンドペーパーを掛けてから接着するか、或いは、接着面がツルツルになるまで削らない事です。鉋の刃をよりシャープに砥ぐ事には、竹を削り易くする意味や、竹繊維にささくれを作らないなどの効果は有りますが、シャフトの精度ばかりを気にするあまり、切れすぎるカンナで接着面を鏡の様に光るまで削り込むとアンカー接着効果が殆ど得られなくなるので、逆効果と言えます。ですから、より強いシャフトを作る為には、ストリップの接着面に接着剤の入り込むミクロの凹凸や隙間やキズを確保し、接着剤のアンカー効果を最大限維持させなければなりません。特に、中空のシャフトの場合も接着部分が非常に少ないのでシャフトを破裂させない為には、より確実な接着力を確保しなければなりません。
結論として接着面の幅が僅か5mm以下のバンブーロッドのストリップ(Top部のスプリット幅は1本が0.7mm)に使うには、水性接着剤では硬化後の残留樹脂が少な過ぎるので確実な強度と耐久性を得る事はできません。つまり、接着面が細くて小さなバンブーロッドのシャフトの場合、その接着力では不十分だと思われます。また、水性接着剤は木材と金属やプラスティックも接着できますが、被着材の片方は必ず木材でなければなりません。それは、水性接着剤を硬化させる為に接着剤内の水分を木材(母材)に吸収させなければならないからです。そこで、問題になるのは接着剤成分の約50%を占める水分がバインディング後に何処に行くのかと言う問題です。シャフトを構成するストリップはより強度を増す様に極限まで乾燥され、火入れされて水分が抜かれています。その限界まで乾燥させた竹に約50%の水分を含んだ接着剤を塗り、バインディングし、密封すると、接着剤の硬化と同時にその水分の殆どは乾燥させたはずの竹の中に戻ってしまいます。その結果、脱水により強化したはずの竹の細胞が水性接着剤から戻る水分によって脆くなる事が考えられます。(竹や木などの植物の細胞はセルロース、リグニンなど有機物で出来ていますが、それらは加熱する事で脱水し、細胞が縮みながら繋がり合い硬化します。この作業を火入れ・焼き入れと言いますが、もちろん竹だけではなく木材も同じです。そして、更に高温で加熱すると細胞の炭化が進み、炭に近づくほど硬度は増して行きますが、逆に竹が硬くなり過ぎて脆くなって行きます。最近では、アメリカのビルダー達の間でも、竹を焼く事は弾力性を必要とするバンブーロッド製作に不適切である。と言う意見も多く見られます。
これらの点から、曲げに対する強度と耐久性を最も必要とするバンブーロッドのストリップを張り合わせるには、やはり肉痩せずに強度と可撓性を長期間保持できるエポキシ系接着剤が最適だと思われます。できれば耐熱性で強硬度の最新の第2世代エポキシ樹脂を利用するのが良いでしょう。 現在でも世界の接着剤メーカーからはバンブーロッドのストリップを張り合わせる専用の接着剤は開発、販売されていないので、アメリカのバンブーロッドメーカーでも最新の熱硬化型エポキシ接着剤(シェル・エポン828)などでストリップを張り合わせている メーカーが増えつつあります。通常、エポキシ樹脂は100%不揮発成分の樹脂で出来ていますので、完全硬化後も肉痩せせずに強力な接着力を維持します。また、カーボンファイバーの樹脂の様に接着後に再度、加熱する事によって更に接着力と強度を増す、熱硬化型エポキシ接着剤も有ります。 多少、高価ですが、最新のエポキシ系接着剤には耐熱性、熱硬化性、高硬度、高弾性、可撓性などに特化した優れた工業用エポキシ接着剤が各種あり、硬化後10年以上経過しても全く肉痩せせず、接着力の低下も見られない物など、バンブーロッドのビルディングにも適した物が各種開発されています。これら先進技術による工業用第2世代エポキシはホームセンターなどで一般的に販売されているエポキシ接着剤とは違いますが、より高性能な工業用エポキシ系接着剤を使う事で、適度に張りがあり、しなやかで耐久性のある、10年、20年、30年と長期間の実釣に耐えるバンブーロッドを作る事が可能となるでしょう。

【 バンブーロッドのシャフトを強制的に破壊するストリップの接着強度テスト 】

bamboo fly rod バンブーフライロッド

上の2枚の画像は、約80年前に開発された水性接着剤の中では最強のレゾルシノール接着剤と、最新の第二世代エポキシ接着剤でバインディングされたシャフトの接着強度テストです。どちらもバイスに挟み、シャフトの限界強度を超えて折れるまで強制的に加重してみました。片手では全く折る事が出来なかったので、両手でプライヤーを持ち、体重を掛けて折るほどの破壊テストでしたが、流石に接着能力はどちらも完璧で、母材破壊(竹の繊維が引きちぎれる)の状態で折れても接着面の剥離は見られず、ストリップは完全に接着されていました。左のレゾルシノール接着によるオイル仕上げのシャフトは製造後20年程経過した物です。そして、右は現在の第二世代エポキシでバインディングした最近の物で、仕上げ塗装する前のシャフトです。写真に見えるひび割れは接着面の剥離では無く、接着面以外の竹繊維その物が裂けた部分です。どちらもバンブーロッドビルディングに相応しい、素晴らしい接着強度を持っているので殆ど同じ折れ方をしていますが、右の最新エポキシ(S.G.E)で造られたシャフトの方がストリップが完全に一体化しており、更に接着剥離の限界点が高いと思われます。
※折れ方が上の写真の様に『ささくれ』て折れた場合は、竹繊維の強度限界が高く、良く出来たシャフトです。この様な折れ方はロッドシャフトに弾力性と粘りがあり、パワーファイバーや柔細胞が加熱劣化で死んでいない状態の強いロッドの折れ方と言えます。また、ささくれずに『ポッキリ』と一点で真っ二つに折れた場合は、フレーミングやヒートトリーティング(火入れ)、節の曲げ直しなどの製造過程で竹を加熱し過ぎた場合に起こります。原因は竹の繊維や細胞が高温加熱による炭化劣化で弾力性を失い、脆くなっているからです。炎などの高温による加熱処理はシャフトに張りや硬さを出す効果はありますが、竹の弾力性や耐久性を著しく低下さる可能性があります。
※【母材破壊】とは、母材である竹その物の繊維や細胞が壊れる事を指します。この場合は、ロッドシャフトが折れても接着面は剥がれていない状態を母材破壊と言います。竹の繊維や細胞は、熱によって劣化していなければ非常に強靭です。ですから、膠などの昔の接着剤は竹本体よりも強度的に弱いので、竹が折れる前に接着剤が剥離していました。そして、接着剥離が原因でシャフトが折れ易かったと言えます。また、剥離し難い、強い接着剤はロッドのアクションに多少の張りをもたらす効果もあります。

以上の結果から、Hexastyle Bamboo Rod では、現在、木材用の水性接着剤では無く、Second Generation Epoxy 【 第2世代エポキシ接着剤 】と呼ばれる、高次元で強度と耐久性、可撓性を長期間維持する最新の工業用耐熱エポキシ接着剤を使ってロッドシャフトを製造しています。
※日本木材工業会や大学、公共の研究機関、建築業界などで行われている木材や接着剤についての研究、実験の結果などがWebで多数公表されています。水性材接着、耐久性、強度、木材の接着、などの検索で見ることができます。

ここでバンブーロッドの使用環境について触れたいと思いますが、保存に関しては高温多湿を避け、温度が安定していて乾燥した場所に保管すると言うのは御存じの通りです。ロッドの仕上げ塗装に使われるバーニッシュは瞬間的な水濡れには強いのですが、空気中の僅かな水分(湿度)でも長期間晒されるとベタベタに溶けてしまします。ですから湿度の高い季節や地域では、時々ケースから出して乾燥させる必要があります。数年間使わずに仕舞いっぱなしと言うのは塗装に良くはありません。また、実釣に使う場合の気象条件ですが、雨などは使用後に水分をふき取れば問題ありません。但し、ロッドを水没させるのは極力避ける事が望まれます。ディッピングによるバーニッシュ塗装でも完全防水とは言えず、フェルール周りやガイドをラッピングしているスレッドのクラックなどから水が浸入する事もあります。また、シャフトに使われる水性接着剤も被接着物の水中での使用を推奨していませんので、あくまでも防水では無く、撥水の感覚で扱うべきで、水中には沈めない事が重要です。よく、魚とバンブーロッドを並べて水中に沈めている写真を目にしますが、これもロッドには良く無いので避ける事が賢明です。また、気温については10℃〜25℃の間で使用する事が望まれます。屋外で使う道具なのでコンディションを限定するのは難しい事ですが、出来るだけハードなコンディションを避けて使う事が理想的です。それは、高温や低温がロッドのシャフトを張り合わせている接着剤に悪影響を及ぼすからです。竹の繊維や細胞自体は然程、気温の影響を受けませんが、接着剤は天然、化学合成を問わず温度変化に弱いのです。私自身も、実際にラインを通して振るのは、4月〜10月の実釣時に限られます。勿論、それ以外の寒い季節は屋外でキャスティング練習する事もありません。それは、接着剤とシャフトの弾力性を低温環境から守る為ですが、これも、バンブーロッドを守る方法として重要な事です。更に、高温環境に対してですが、よく言われる通り「真夏の自動車内には長時間放置しない」事です。気温が30℃を越える真夏の車内温度は、直射日光が当たると50〜60℃以上にもなります。カーボンロッドの本体を構成する熱硬化型エポキシ樹脂は耐えられますが、バンブーロッドのウレタン塗装はその温度には耐えられない場合もあるからです。また、ここまで気を使う必要は無いと思われるかも知れませんが、真夏の直射日光も出来るだけ避けたい物です。例えば、釣行中の休憩は出来るだけ日陰、木陰で取るなどして、ロッドシャフトに当たる直射日光と紫外線を避けた方がロッドを長持ちさせる結果に繋がります。直射日光による高温や紫外線は目には見えないダメージをロッドに与えてしまうので、ヴィンテージロッドなど特に大切なロッドには、それぐらい気を使って大切に扱って欲しいと思います。
現在、接着剤は原材料や性質、用途や使用環境の違う物が各種開発されていますが、特に使用される温度環境はそれぞれ制限されている場合が殆どです。接着剤は一般的に高温では柔らかくなって接着力の低下を招き、低温では硬化して弾力性を失い劣化してしまいます。バンブーロッドの場合、それら高温、抵温の条件下ではストリップの剥離が起こり易く、それがロッドブレイクの原因にもなります。ですから、冬期間の氷点下の日や雪の日、或いは真夏の30℃を超える日などは、バンブーロッドの使用を控える事が望ましいと言えます。竹の繊維自体を極端な温度変化から守る事も重要ですが、それを張り合わせている接着剤を守る事が最も重要と言えます。即ち、これらのハードなコンディションこそがタフなカ−ボンロッドの出番であり、残念ですがバンブーロッドには家で留守番してもらうのが理想的です。そして、ハードなコンディションを出来るだけ避けて使う事により、大切なバンブーロッドをより長持ちさせる事ができます。出来れば大切なバンブーロッドは、ここぞと言う特別な日に特別な場所で使って欲しい物です。勿論、最高のコンディションで!

Part #3

耐久性を考えたフェルールの取り付け
Fitting ferrules and durability )

バンブーロッドのジョイント部分には、その殆どに金属製のフェルールが使われています。特に高価なニッケルシルバー(洋銀)製の物が多いのですが、それは、バンブーフライロッドのフェルールとして長い歴史に裏付けられた性能を持っているからです。このニッケルシルバーのフェルールは、取扱いや操作性が簡単なのは勿論の事、強度、耐食性、耐久性、柔軟性、加工のし易さ、美しさ等々バランスの取れた性能の良さで使われて来たのです。更に、ニッケルシルバーフェルールは豪華で優美なバンブーロッドの輝きや美しさを増すパーツである事もその魅力の一つです。ニケッルシルバーは銅とニッケルと亜鉛の合金ですが、ニッケルが発見されたのは西暦1.700年代初頭で300年以上の間、様々な合金に利用されてきました。特にその高い耐久性と輝きから世界的には主に通貨に多く利用されて来ました。バンブーロッドへのニッケルシルバーフェルール利用の歴史は100年以上ありますが、フェルールに最適な素材を見つけ出す為に様々な金属や合金が試されて来ました。更に1.900年頃にはアルミニウムの合金であるジュラルミンも登場し、現在、利用されている金属の殆どが出揃っていました。その中でも特に18%ニッケルシルバー合金(洋銀)はその強度、耐久性、耐食性の他、フライロッドのフェルールに最適な柔軟性をも持ち合わせていた為、バンブーロッドのフェルールの主流となったのです。当時のロッドビルダーにはエンジニアや金属加工職人など、金属の専門職が多く、様々な金属がテストされて来たのは言うまでもありません。ニッケルシルバーは合金の割合により15%ニッケルシルバーなどのクラシックな配合のニッケルシルバー合金も使われていますが、強度や柔軟性、また、色などにも多少の違いがあるので、8%、10%などのニッケルシルバーがメーカーによって使い分けられています。勿論、銅や鉄などの金属の他、スプライスジョイントや竹フェルールも昔から数多く試されて来ました。しかし、なぜ最終的に洋銀フェルールだったのでしょう?その最大の理由はやはり耐久性と信頼性に有ります。釣り竿に求められる最も重要な要素は耐久性なので、バンブーフライロッドの中で最も負荷の掛かるフェルール部分に信頼性のあるニッケルシルバーが利用されたのです。また、フェルールはロッドアクションを含めたキャスティング性能を大きく左右する最も重要なパーツである事も確かです。多少コストが高くなってもフェルールには弱い素材を使わずに、丈夫で信頼できる精度の高いフェルールを使う事によってロッド自体の寿命も伸ばす事が出来るのです。個人的には、ペインのロッドを手にした日から、やはりガンブルーに染められたニッケルシルバーのステップダウンフェルールが好きで、それは、シブく、格調く、造り込まれている雰囲気を醸し出しているように感じます。 しかし、近頃は金属であるニッケルシルバーフェルールの重さがだけが取り沙汰され、強度や耐久性を疎かにしたフェルールの軽量化がブームとなっています。そして、その軽量化ブームの中には大きく見逃されている重要な点があります。それは、ニッケルシルバー製のフェルールが寄与している利点は、強度と耐久性、耐水性だけでは無いからです。竹と言う材質でロッドを作る場合、ロッドのアクションはテーパーデザインだけだは無く、フェルールの材質や剛性によっても大きく影響されます。例えば、フェルールの無いワンピースロッドは、ロッドの中心部に硬く芯になる部分が無い為、どうしても柔らかく張りの無いスローアクションになってしまいます。また、ロッドシャフトを直に削って作るスプライスジョイントや竹製フェルールも同じで、綺麗な丸いベンディングカーブは描きますが、ロッド中央部の剛性が不足する為、フライロッドの理想とされる、キャスティングし易いファーストアクションぎみのプログレッシブアクションを作り出す事が難しくなります。つまり、竹と言う柔らかいマテリアルとそのテーパーデザインだけではロッド全体に張りと剛性を持たせる事は難しいのです。つまり、ロッドの中央部分に強度の有るニッケルシルバー製のフェルールを使う事で、そのフェルールの剛性がミディアムアクションやファーズトアクションを生み出すのです。この様に、ニッケルシルバーフェルールを使う利点は耐食性や耐久性だけでは無く、その適度な硬さがロッドの中間部分に剛性を持たせ、ロッドアクションの芯の様な役割を果たしていると言えます。更に、フライロッドが受ける負荷の大部分をニッケルシルバーフェルールが受ける事により、竹と言う材質の弱さをカバーしている事も忘れてはいけません。また、扱いやすく高いキャスティング性能を有するプログレッシブアクションを生み出すのは、ニッケルシルバーフェルールの高い剛性がグリップからのパワーを上手くティップに伝える事によって生み出されていると言えます。精度が高く、薄くて軽いニッケルシルバーフェルールがあって、より高いキャスティング性能と耐久性、軽量化を実現する事ができるのです。実際、ニッケルシルバーフェルールを使った3番、4番、5番の低番手ロッドを重いと感じた事はありません。ですから、これら低番手のロッドに関しては軽量化よりも、寧ろ、その剛性の高いロッドアクションと耐久性向上の為にニッケルシルバーフェルールを使う事が最適だと考えます。また、ニッケルシルバーフェルールは1.000番程度のサンドペーパーや極細コンパウンドで簡単にユーザー好みの差し込み具合に勘合調整できるのもの長所と言えるでしょう。不必要な軽量化や重量軽減の為にロッドの強度と耐久性を犠牲にするのは、釣り竿としては本末転倒と言えます。昔は、フライロッドに必要な強度と耐久性を得る為に、軽量化を犠牲にしてまでスティール・センターと呼ばれる鉄芯入りのロッドさえ作られたほどです。つまり、強度と耐久性こそがフライロッドの命なのです。しかし、流石に鉄芯入りは重過ぎるので、後のグラスやカーボンロッドの登場と共に消え去ったのですが・・・・。 今では、アメリカの歴史ある著名なバンブーロッドメーカーの数社が、日本製の超高精度のニッケルシルバーフェルールを使っている事を公言し、セールスポイントにしています。流石に彼らはバンブーロッドにとって何が重要なのかを良く理解しています。次のテーパーデザインの項にも関連しますが、バンブーロッドのテーパーをデザインする上で重要な事は、ニッケルシルバーフェルールの剛性、或いは柔軟性をも考慮してデザインしなければならない事、シャフトの竹部分のテーパーだけでは無く、フェルール含めた全体のアクションをデザインする事です。勿論、ヴィンテージ銘竿のテーパーデザインも竹製のシャフト部分だけでは無く、ニッケルシルバーフェルールを含めたロッド全体のアクションとしてデザインされているのです。厳密に言うと、銘竿達のロッドアクションを再現するには竹のシャフト部分のテーパーをコピー、複製するだけでは無く、フェルールまで同じ物を使わなければなりません。例えばステップダウンフェルールですが、これも、ロッドアクションに大きな影響を与えます。つまり、ニッケルシルバーフェルール一つ取っても、その形状、長さ、厚さ、重量、そして、柔軟性を左右する合金の配合バランスになどによってロッドのアクションは変わるのです。ですから、シャフトのテーパー値を測定して同じブランクを作ったとしても、フェルールが違うだけで同じロッドアクションにはなりません。即ち、フェルールはそれだけ重要なパーツであり、まさにバンブーフライロッドの心臓部と言っても過言ではありません。
また、昔からグラスやカーボンロッドに使われているスリップオーバーの並み継ぎフェルールに対しても疑問をもって来ました。製造行程が簡略化できる上、コストダウンが可能な為に
多用される並み継フェルールですが、ロッドシャフトを直接差し込んで繋ぐには差し込み部分のテーパーの擦り合わせに高い精度が要求されるからです。シャフトのテーパーによる簡単な並み継ぎフェールールでは、高い精度が得られないので耐久性に問題が生じます。例えば、ほんの僅かでも緩んだり、ガタ付いた状態でキャスティングを繰り返せば、オス側の先端がメスの内側に傷を付け、メスフェルールの端がオスの表面を削って傷つけます。フェルールの重なり合う部分自体は2重になるので壊れ難い物ですが、その差し込み口の削られて傷ついた部分から折れる事がよく起こります。私も過去に数本のカーボンロッドをそれが原因で折りました。そして、それを防ぐために、時々キャスティング中にフェルールの緩みを確認する様になりました。私の場合は、グラスロッドやカーボンロッドを使っていた頃から、フェルール擦り合わせの精度を高め易いソリッドカーボンを削り出した印籠継(スピゴットフェルール)が好みでした。但し、スピゴットは非常に良いフェルールシステムですが、手間とコストの問題で残念ながらカーボンロッドでもあまり使われていないのが現状です。但し、良く作り込まれた高価なカーボンロッドには、今でもスピゴットフェルールが使われているのは嬉しい事です。
話は戻りますが、ニッケルシルバーフェルールに付いても、ロッドアクションや耐久性に与える影響、或いは、その軽さを重視するのであれば、CNC旋盤を使って1000分の1ミリ単位の精度で薄く、軽く、精巧に削り出された超高精度のニッケルシルバーフェルールでなければなりません。精度が低く、肉厚のフェルールを使えば、ロッドは重くなり、アクションンも硬くなってしまいます。更に、肉厚のフェルールは柔軟性にも欠けるので、フェルール前後の竹シャフトに負荷を集中させてしまい、シャフトが折れる原因にもなります。逆に、薄すく削り過ぎると、軽くはなりますが耐久性に欠け、フェルールその物の破損にも繋がります。ですから、フェルールの製作には絶妙な金属の厚さや均一性を作り出す製造技術が必要であり、材質やデザインなども重要になります。高性能なニケルシルバーフェルールはシャフト全体に適度な柔軟性と強度、また、耐久性を与え、絶妙なロッドアクションをも生み出します。バンブーロッドにとって最も重要なパーツであるフェルールには、多少高価でも信頼性の高い高精度の物を使う事で、ロッドの完成度と耐久性をより高める事が出来るのです。
また、フェルールとロッドシャフトの取り付け加工も非常に重要な要素です。例えば、フェルールに差し込む部分のロッドシャフトを丸く削り過ぎない事が重要です。フェルールは内径が丸いので、取り付ける際には6角形のシャフトをフェルールと同じサイズに丸く削らなければ成りませんが、シャフト表面のパワーファイバーは出来るだけ削り取らずに、少しでも6角形に近い状態でフェルールを取り付ける事で接合部分の強度が維持できます。折角、パワーファイバーを極限まで残して6角に仕上げたシャフトを丸く削り取ってパワーファイバーを無くす事は避けなければなりません。ですから、ニッケルシルバーフェルールは勿論の事、それ以外の竹フェルールなどでも丸く削り取らずに出来るだけ6角形の強いシャフトを残す事が重要です。一時期、竹フェルールの研究もしていましたが、竹フェルールの精度を上げるのはニッケルシルバーフェルールよりも難しく、厄介なものです。それは、高精度の旋盤を使って1000分の1oまで調整されるニッケルシルバーに比べると、竹フェルールは手作業で大まかな削りしかできず、完璧なフィッティングや強度の調整が不可能だからです。特にスリップオーバータイプの竹フェルールの場合は、外側となるメス部分では無く、そこに差し込まれるバット側のオス部分が折れる事が多くなります。それは、メス側、オス側双方の強度と柔軟性のバランスを取る事が殆ど不可能だからです。例えば、メス側に柔軟性を持たせるために薄くし過ぎると、ラッピングで補強していても裂けてしまいます。また、逆にメス側を厚く作り強固にすれば、オスの刺し込み部分に負荷が集中し、折れ易くなります。竹フェルールを研究していた当時は、取敢えず、ティップ側、つまり、薄いメス側が割れない様にラッピングなどで強度を持たせたり、厚く作ってテストしましたが、どうしても差し込む方のオス側が強度や耐久性に欠け、折れてしまいました。一般的には、メス側の壁面が薄い事から割れそうに思えますが、キャスティングの曲がりで負荷が掛かり易いのは、寧ろ、差し込む側のオスの方です。短期間の使用やテストでは、それらの耐久性について判断するのは難しいのですが、メス側を補強しす過ぎるとオスが折れ、また、メスを薄くすれば裂け易くなります。つまり、出来上がった時点ではそれなりの性能を示しますが、長期の使用による耐久性やその強度のバランスを割り出すのは殆ど不可能と言えます。ロッドの繋ぎ目であるフェルールには、オス・メス共にシャフトその物よりも強い事が最低限必要とされ、それが、ロッド本体を守る事にもなります。即ち、フェルールは軽くて強度があり、その上、信頼性が高く、尚且つ、ロッドのアクションに悪影響を与えない適度な柔軟性を持ち合わせる事が必要です。その結果生み出されたのが、12%、15%、或いは18%ニッケルシルバーと呼ばれるフェルール用の銅合金なのです。これらは、強度、耐久性、柔軟性に於いて、最もバンブーロッドのフェルールに適している素材として研究、開発されて来た物です。現在、最も多く使われているのは18%ニッケルシルバーですが、それは、軽くて強度がある為、薄く加工して重量を軽減できる利点の他、錆び(銅の酸化)にも強く、より銀色輝くからです。因みに、昔からアメリカで使われて来た12%や15%ニッケルシルバーは、18%よりも多少柔軟性があり、色もシャンパンゴールドと呼ばれるほんの少し金色がかった高級感のある色になります。ただし、銅の比率が多いので、多少、曇り易く、錆び易いところが難点なので、時々コンパウンドで磨かなければなりません。例えば、軽さよりも格調の高さや高級感を重視しするメーカーなどではバンブーロッドだけでは無く、カーボンロッドのリールシートに使っている所もあります。
ニッケルシルバーフェルールを使う場合には、サイズの選択も非常に重要になります。見た目のスマートさや軽量化の為にロッドシャフトより細いサイズのフェルールを選択すると、シャフトの差し込み部分を細く削る必要が出て来ます。その為、パワーファイバーを削り取られたシャフトは細く弱くなり、結果としてフェルールへの挿入部分が折れ易くなります。ですから、ある程度、余裕のある太さのフェルールを使う事で、シャフトのパワーファイバーを少しでも多く残す事によって本来の強度と耐久性を維持出来るのです。
よくあるフェルールへの挿入部分が折れるトラブルは、金属製のフェルールが硬過ぎて起こるのでは無く、フェルールに差し込むシャフト部分を細く削り過ぎると起こります。例えば、現在、生き残っている銘稈と呼ばれる有名ロッドの中にも、フェルールへの挿入部分を極端に削り過ぎていると思われる物も多数あります。それらは一目で判りますが、フェルールの外径とシャフトの外径がほぼ同じで、段差の殆ど無い物、つまり、フェルールとシャフトが面一の物です。または、フェルールの外径よりも差し込まれているシャフトの方が太い物など。これらは、細いフェルールにシャフトを無理に入れるために削り過ぎた結果です。この様なロッドは、細く削り過ぎたシャフトがフェルールの接合部分で折れなかった事が不思議なくらいです。特にヴィンテージロッドなどにはフェルールよりもシャフトの方が太くなった物も見られます。それは、フェルール部分で折れたシャフトを修復するために、折れて太くなったシャフトを無理にフェルールに入れなければならないからです。この様な修理は、シャフトのパワーファイバーを大きく削り取ってしまうので、竹の内部の柔細胞と呼ばれる柔らかい部分だけがフェルール内部に挿入される事になります。その結果、外見は修復出来た様に見えますが、この状態では、挿入部分がまたすぐに折れてしまいます。ですから、フェルールのバットセクション側が折れた場合は、フェルール自体を折れた部分のシャフトに合わせ、径の太い物に替えなければなりません。しかし、フェルールの太さをサイズアップすると、今度はティップセクションのシャフトが細過ぎて遊びが大きくなり、がふがふになってしまいます。これらの不具合は、テーパーが掛かっているロッドシャフトでは仕方の無い現象です。つまり、フェルール部分でシャフトが折れてしまった場合は、完全にオリジナルの状態に修復するのは不可能だと思わなければなりません。
また、フェルールに挿入する部分を削る場合も、旋盤とサンドペーパーを使って高速で削ると摩擦熱でロッドシャフトが高温になり過ぎ(200℃を超える場合もある)シャフト内部の接着剤を熱劣化させてしまう可能性があります。その為、ヘキサスタイルバンブーロッドでは、シャフトのフェルール挿入部分の加工は旋盤を使わずに、ナイフとサンドペーパーのハンドシェイプで行っています。それにより摩擦熱によるシャフト内部の接着剤剥離を起こさないようにしています。更に、フェルールに挿入する部分を丸く削り過ぎない方が良い理由がもう一つあります。フェルールとシャフトの接着をより強固にするには、
接着剤にある程度の厚みを与える必要があります。接着樹脂の種類にもよりますが、接着剤メーカーの発表によると、接着剤の厚さが0.1mm以下だと接着剤としての機能を果たさない場合が多いからです。例えば、シャフトの差し込み部分をフェルールの内径と同じギリギリの太さに削ると、隙間が全く無くなってしまうのでフェルール内に残留する接着剤の量が減り、強い接着効果が得られ無くなります。理想的なシャフトの加工は表層のパワーファイバーを出来るだけ多く残す意味でも、シャフトの6角形の角は軽く削り落とす程度に留め、フェルールとシャフトの間に接着剤が留まる空間を作ることです。Hexastyleでは丸く削り落とさずに、12角形に加工したシャフトをフェルールに挿入しています。更に、フェルールの接着には肉痩せの少ない最新エポキシ系接着剤が良いでしょう。粘度の高い個形接着剤などでは、フェルール内部に溜った空気か抜け難く、空洞が出来易くなります。ですから、中の空気を完全に抜いて強固な接着力を得る為には、粘度の低いエポキシ接着剤をお奨めします。しかし、最新の強力な接着剤を使ってもフェルールは抜き差しが多く、また、キャスティング中の負荷が最も掛かる部分なので、壊れ易いパーツである事は確かです。その上、シャフトの挿入部分が緩んだり抜けたりすると、ラッピンッグもし直す必要があるので簡単なトラブルではありません。ですから、接着剤だけに頼らずに、昔ながらのフェルールピンを打って確実に固定する方法が、ロッドを抜く時にも気を使わずに済むので最良の方法だと思います。かなり昔の事ですが、バンブーロッドのフェルールに対する不信感を持つ事になった事例を紹介します。当時ではまだ珍しい日本製のバンブーロッドが釣り具店に置かれていた時の事のです。その新品のロッドは既にフェルールのラッピング部分にクラックが入り、少し抜け掛かっていました。勿論、実釣には使われず店頭に飾られていただけなのですが、それだけでフェルールが壊れていたのです。恐らく、お客さんが店頭で試しにセッティングしただけだと思いますが、その抜き差しだけで壊れたのでしょう。私は店主に「フェールールが壊れて抜け掛かっている」と言うと、店主は「じゃぁ、ビルダーに送り返して修理してもらおう」と返答しました。その時の返答を聞いて、こう思ったのを覚えています。まだ実釣にも使われていないのに、店頭に展示しているだけで既にフェルールが壊れているなんて、バンブーロッドのフェルールは何て弱いのだろう?勿論、丈夫なニッケルシルバーフェルール自体が壊れる事は無いが、これは接着剤を塗って差し込んでいるだけなのか?抜き差しだけで壊れるようじゃ釣りにならないだろう!こんなシステムでは使い物にならないと・・・・。また、こうも思いました。金属と竹の接着では接着力に限界がある。現在でも金属と竹を確実に固定する接着剤が無い事に加え、常にグニャグニャ曲げられるのだ。フライキャスティングやロッドの抜き差しは、まるで、接着固定したものを態々壊すか、外そうとする行為その物である。では、他に丈夫にする方法は無いものか?と色々考えたが、やはり接着剤だけに頼るには限界がある。結果は100年以上前から行われている最も原始的な方法、そう、ピンを貫通させて固定する物理的な方法だった。現在の様に自分がフェルールピンを打ったロッドを造るようになるまでは、いつも釣りの終わりのフェルールを抜く瞬間が恐怖でした。ロッドを仕舞う度にフェルールが壊れるかもしれないと言う恐怖が常に付きまとって来たのは確かです。特に勘合がきつくなったフェルールを抜く時は、フェルールから竹のシャフトが抜けて来るのではないか?と、いつも気が気ではありませんでした。その他にも、二度とあって欲しくは無い、こんな思い出もあります。銘竿と呼ばれる、ある有名ブランドのロッドを使っていた時の事です。そのバットエンドにはマークが刻印されている恰好いいエンドキャップが付いていて、とても大切にしていたロッドです。或る日の釣りの最中、それも少し流れの速い中で魚を掛けた時の事です。私がリールに手を伸ばした瞬間、既にそれは起こっていました。リールはスライドリングだけで辛うじてぶら下がっているだけで、エンドキャップが無くなっていたのです。勿論、流れが早い場所だったのでリールを巻けずに魚はバラしましたが、同時にその恰好の良いエンドキャップもその早い流れに呑み込まれていました。それは、魚を逃した何百倍も悔しくて、その早い流れの中に眩暈で倒れ込みそうになった記憶があります。そう、やはりエンドキャップは接着剤で付けられているだけだったのです。今でもカーボンロッドを含め、殆どのフライロッドのエンドキャップはエポキシ接着されているだけです。しかし、それは接着剤を過信し過ぎていると言わざるをえません。当然、その失ったキャップは入手不可能な物なので、それ以来、出番が来る事はありませんでした。そして思ったのは、どんなに強力な接着剤を使っても、河原の石に軽くぶつけた衝撃だけで外れる事もある。如何に強力なエポキシ接着剤でも、金属と木材の接着には限界がある。ならば、何か他に外れない方法は無い物だろうか?最も現実的な答えは、昔ながらのピンを打つ方法が一番でした。最新の化学を持ってしても、百年前の単純なピンで止める物理的方法には勝てないのです。美しいニッケルシルバーのパーツは、ロッドメーカーにすればただの金属キャップだが、そのロッドに思い入れのあるユーザーにしてみれば、エンドキャップ一つでも大切な宝物なのです。まして、ビンテージロッドや銘竿と呼ばれる物なら尚更です。それは2度と手に入れる事はできません。それからは自分用のロッドのエンドキャップやフェルールには、ツーハンドも含め、全てニッケルシルバー製のピンを打って止めています。フェルール部分はピンを打った所に後でスレッドを巻くので傷は見えなくなりますが、エンドキャップにはピンを打った痕跡が見えます。しかし、ピンが見えている方が、実用性のある本物のバンブーロッドと言う気がして、敢えてピンの痕を隠そうとは思いません。昔ながらのその方法が最も確実であり、安心して釣りに集中できるのは間違いありません。
バンブーロッドにはニッケルシルバー製のフェルール、リング、エンドキャップなどの輝きや美しさが不可欠だと思いますが、7#ライン以上のロッドやツーハンド、スペイロッドなどの高番手ロッドには金属フェルールを使わずに、昔ながらのスプライスド・ジョイントにするのも一つの方法です。高番手のロッドやロングロッドはシャフトも太く、長いので重量もかなりの物です。その為、キャスティング中にジョイントに掛かる負荷は大きく、精度の高い金属フェルールでも固着し易く、抜け難くなる場合もあります。また、強度や耐久性に問題が出る場合もあります。スプライスドジョイントは構造も簡単で強度的にも問題は無いので、高番手やロングロッドなどは重量を軽減する意味でも昔ながらのスプライスド・ジョイントにする事も効果的だと思います。ただし、竹のみで作られるロッドのアクションはニッケルシルバーフェルールの様に中央部の強度が出せない為、どちらかと言うとスローアクションに仕上がります。

bamboo rod ferrule bamboo fly rod

フェルールと共にバンブーロッドにとって重要なパーツと言えば、スネークガイドやストリッピングガイドが挙げられます。トラディショナルなヴィンテージバンブーロッドなどは、スネークガイドやトップガイドも小さく、特にメノウ製のストリッピングガイドは穴の径がとても小さな物が使われています。それは、当時のロッドが細いシルクラインを使う前提で作られていた為で、現在使われている径の太いPVCラインではガイドとの抵抗が非常に大きくなります。ですから、ヴィンテージロッドのラインにはPVCラインではなく、シルクラインを使うのが正しい選択と言えます。逆に、現在のバンブーロッドはPVCラインを使う事が前提なので、全てのガイドをヴィンテージロッドのガイドよりも大きな物にし、ラインとガイドの抵抗を少なくする必要があります。私も以前はPVCラインを使う前提だったので、遠投性やシューティング性を考慮して、抵抗の少ない最新マテリアルのガイドや内径の大きな物を使ってキャスティング性能の向上を図っていました。 しかし、現在、私がバンブーロッドに求める物は、キャスティング性能やシューティング性能では無く、ロッドの耐久性とほんの少しの美しさだけになりました。そして自分がシルクラインを使う事もあって、大型ガイドや最新のガイドは廃止し、よりトラディショナルなガイドやパーツに拘る様になりました。見た目の美しさと言う点でもバンブーロッドに大き過ぎるガイドは似合いません。細くて繊細なロッドシャフトには小さなガイドが良く似合うと思います。現在、使っている小径のファインワイヤーやメノウのガイドはシルクライン専用と言う訳ではありませんが、もし可能ならば、高価ではありますがシルク製のフライラインを使ってもらい、優雅にフライフィッシングを楽しんでもらいたいと思っています。シルクラインの良さは沢山有りますが、ダブルホールの度にシュッ!シュッ!とシルクラインとストリッピングガイドが擦れる音もまた良い物です。チャンスがあれば是非、手に入れる事をお奨めします。シルクラインもまた、PVCラインと比較する物ではありませんが、強いて言えば同じラインウェイトならばシルクの方が細く、風の影響を受けにくいのは確かです。更に、驚きはラインにパーマ癖が付きにくい事です。暫く使っていないラインをリールから引き出した時、真っ直ぐでしなやかなラインが出てくる事には感動さえ覚えます。リールから引き出したPVCラインのパーマ癖とは明らかに違う事を実感できるでしょう。また、PVCラインは2〜3年で表面の樹脂が劣化して割れ始めますが、それは、プラスティックの宿命です。その点、シルクラインは手入れ次第で100年以上も使える素晴らしい道具です。メンテナンス性を考えれば多少面倒ではありますが、バンブーロッドを持ったなら、一度はシルクラインを使ってみるのも良いと思います。気が付くといつの間にかシルクラインばかり使っている自分がいますが、今ではPVCラインの極端な太さとや派手な色に違和感さえ覚える様になりました。バンブーロッドでシルクラインを振ると、フライフィッシングの歴史と伝統に直接触れる事ができる様な気がするのは私だけでしょうか・・・?究極の自己満足に浸る喜びは至福の時間と言えるでしょう・・・。序でに、日本語のテグス(天蚕)の元々の意味ですが、絹製(シルク)の釣り糸の事です。
また、フェルールのデザインについてですが、昔ながらのステップダウン型フェルールのスマートさもバンブーロッドの魅力の一つだと思います。更にステップダウンフェルールについての考察ですが、何故、態々製作工程が複雑なステップダウンを作ったのだろうか?ステップダウンフェルールの製作には手間や時間も掛かります。しかし、レナード、ペイン、オーヴィス・・・・銘竿達には全てステップダウンフェルールが使われています。何故、単純なストレート構造のスーパースイスタイプではダメだったのだろう・・・?実はステップダウンフェルールの構造は、スーパースイスタイプよりもパーフェクトなロッドアクションを実現する為のデザインなのです・・・・・。

Part #4

ロッドのテーパーデザインは耐久性に大きく係る
Rod tapers for durability of bamboo rods )

テーパーデザインの前に竹の繊維と曲がり強度についての考察です。ここで確かめておくべきなのは、ストリップの本来の強度です。それを確かめる方法としては、ヒート・トリーティング完了後の強化したストリップを思い切り折り曲げて、その曲がり方や強度、折れ方などを実際に知る事です。テーパーが付けられる前、つまりプレーニングされる前のストリップを曲げて行くと、太さや部分にもよりますが、丁度、半円を描くあたりから竹の繊維が切れていくのが判ります。竹はミシッ!ピキッ!と音を立てながら弱い繊維から順に切れて行きますが。完全に折れるまでの強度や折れ方は、竹の種類や個体差よって多少の違いがありますが、確かな事は、如何に弾力性のある竹と言えども、大きく曲がる度にその繊維が切れて行と言う事です。カーボンロッドならば半円を超えて円に近い状態までの曲げにも耐えられる物もありますが、実はそのカーボン繊維でさえ大きく曲げられると内部のカーボン繊維は少しずつ断裂します。つまり、ロッドが折れるのは、或る時、突然折れるのでは無く、長い間に蓄積された繊維の断裂が限界を超えた時点で折れる事になります。それは、必ずしも大きな負荷が掛かった場合だけに限られる事ではありません。断裂した繊維の数が多くなればなるほど、極めて小さな負荷でも折れる可能性があります。この様に、竹繊維の場合は半円程度が曲がりの限界ですから、それを張り合わせて作られるバンブーロッドのシャフトも半円程度が限界だと思わなければなりません。そして、完成したロッドも同じで、シャフトが描く弧が半円を越える時点から徐々に内部の繊維が切れて行くのです。実際の釣り場やキャスティング中には竹の繊維が切れていく音は聞こえませんし、もちろん見た目でも判りません。しかし、大きく曲げられる度に内部で切れた繊維が再び繋がる事はありません。キャスティングや魚の引きによる負荷が無くなった時点で竹竿はその復元力で真っ直ぐに戻りますが、シャフトの内部は常に変化しているのです。つまり、大きく曲げられたロッドのファイバーは、数本、時には数十本単位で繊維が切れているのです。そして、切れずに残った繊維がロッドを元の状態に戻しているだけなのです。外見からは何も変わらない状態でも、或いは真っ直ぐに見えるロッドでも、内部では明らかに繊維の切断が蓄積されて行き、そのダメージがロッドシャフトを弱らせて行きます。永く使う間に徐々にアクションがスローになったり、腰が抜けたり、張りが損なわれるのはその為です。そして、それはバンブーロッドに限った事では無く、全ての釣り竿の宿命とも言えます。当然、バンブーロッドの製造にも出来る限り多くのパワーファイバー持つ強い竹を使い、更にはそのパワーファイバーを1本でも多く残すテーパーデザインや製法を目指さなければなりません。それには、負荷を一点に集中させずに、ロッドシャフトに掛かる大きな負荷を上手く分散させて繊維を守る構造のテーパーをデザインする事が重要となります。また、竹の繊維(ファイバー)は切れる物だと知り、出来るだけ無駄な負荷や大きな負荷を掛けない使い方をする事が大切なバンブーロッドを長持ちさせる唯一の方法です。
永い間トンキンケインを触っていると、トンキンの丸竹を手に持っただけで
その竹の強さや性質が判る様になります。例えば、同じ長さや太さの竹でも、その個体ごとに重さが全く異なるからです。太いからと言って必ずしも重い訳では無く、また、細いからと言って軽い訳でも無い。しかし、それらの中にはバンブーロッドの材料として特に適している細くて重い竹と言うのがあります。その細くても重い竹と言うのは繊維密度が高く、その断面を見ると細い割には肉厚でパワーファイバーも太く、密度も十分なので、強くて丈夫な良いロッドになる事は一目瞭然です。また、1本のトンキンケインでも竹の下部と上部とでは、肉厚やパワーファイバーの数と太さ、密度などに大きな違があります。また、トンキンケインの中にも真竹と同程度の肉厚や繊維密度しか無く、非常に軽い物もあります。その為、全く同じテーパーデザインで削っても、出来上がるロッドのアクションや強度、重量などに多少の違が出て来るのです。つまり、目的のロッドアクションを実現するにはテーパーデザインだけでは無く、それぞれの個体が持つ特性も合せて選ぶ事が必要になります。例えば、低番手のロッドには軽くて柔らかい竹を、また、高番手のロッドには重くて繊維密度の濃い、硬い竹を選ぶのが一般的な選択です。また、ロッドのバットセクションには強い張りと硬さを求めるので竹の下部の硬い部分を使い、ティップセクションにはしなやかさを出す為に竹の上部の柔らかい部分を使う方法もあります。更に、目指すアクションによっては、バットもティップも竹の下部の硬い部分を使って作る、或いは、両セクションとも竹の上部を使って柔らかいロッドを作る、と言った方法も考えられます。つまり、素材の竹を選ぶ事は、テーパーデザインと共にロッドアクションを決める重要なファクターとなります。この様にバンブーロッドに最適なトンキンケインでも、その個体によっては強度や張り、耐久性などに大きな差が出るので、昔からパワーファイバーの密度が濃く、重い竹が良質とされ珍重されて来ました。これらの事からテーパーデザインやその数値よりも、寧ろ、原材料である竹の選択やロッドの製法その物がロッドアクションに大きな影響を与えると言えます。
今では世界のロッドテーパーアーカイブズもWEBで簡単に見る事ができる様になりました。そこにはペインや、レナード、ギャリソンなどの銘稈をはじめ、あらゆるバンブーロッドの実測データが公開されているので、実物を手にする事無く全く同じテーパーのロッドを簡単に作る事ができます。しかし、ここまで述べて来た通り、同じテーパー数値を使ってコピーロッドを作ったとしても、使う竹の性質や接着剤、塗装などによっても強度や硬さ、耐久性、更にはロッドアクションまで全く違う物になってしまう場合もあります。極端な場合には、使うラインウェイトまで変わってしまう可能性さえあります。例えば真竹など、トンキンケイン以外の竹を使う場合は竹の種類が違うだけで、全く同じテーパーを使っても、全く違うアクションとラインウェイトのロッドになります。以前、真竹を使ってレナード39テーパーの5#ロッドを造った事がありますが、やはり、そのロッドは柔らか過ぎて張りが無く、4番ラインを乗せて丁度良い程度のスローアクションなりました。また、同じ種類の竹で作った場合でも、例えば本物のレナードロッドの同じモデルでさえ1本1本微妙にアクションが違います。勿論、それは当然の事であり、バンブーロッドはロッドごとに別の個体で作るからです。つまり、材料自体に全く均一性の無い天然素材で作られるバンブーロッドに、工業製品であるカーボンロッドの様な均一性を求める事は不可能なのです。言い換えれば、全く同じテーパーで作られた同一モデルであっても、比べてみれば其々アクションが違い、適合するラインさえ微妙に違ってくるのがバンブーロッドであり、それが天然素材の面白さと言えるのかも知れません。ですから、ロッドのラインの指定はあくまで参考程度に考るべきであり、実際にどのラインを使うかはユーザーが状況に合わせて自由に選べば良い事になります。よくある間違いは、バンブーロッドを評価する上で、ロッドが指定している番手のラインを使ってキャスティングし、ループが綺麗にできないとか、ショートキャストでのコントロールし難い、或いは、ロングキャストがし難いなどと評価される場合です。また、4番ロッドなのに、4番ラインの乗りが悪いとか、ターンオーバーし難いなどと評価される場合もあります。この様なロッドとラインのミスマッチはロッドの出来や性能に問題があるのではなく、寧ろ、画一性の無い天然素材で作る場合、当然起こり得る事だと言えます。それらの多くは、指定されているラインウェイトよりもロッドの強度が勝っている場合が多く、ラインを1番重い物に変える事でそのロッドの本当の性能を引き出す事ができます。4番指定のロッドで4番ラインが軽く感じられ、キャスティングし難い場合は、そのロッドの素材である竹自体が良すぎるか、ロングキャストを主眼に置いたロッドだからで、その場合は、ロッドのパワーに合わせて、素直に5番ラインを使うべきです。逆に、4番指定ロッドで4番ラインを振った時にロッドが負ける様であれば、それは竹が弱く、柔らかいロッドと言う事になります。その場合は3番ラインを乗せれば良いだけで、ロッドの出来具合について評価すべきではありません。勿論、これはらはキャスターの技術や経験にも左右されるので、一概にダメなロッドの決めつけるべきではありません。抑々、フライフィッシングはフライラインが主体では無く、使うロッドが主体なのです。最も重要なのはフライキャスティングであり、使うロッドの方が優先されるべきなのです。そして、このロッドでこのコンディションならば〇番ラインと言う様に、ロッドにラインを合わせるべきなのです。
この様に原材料である
其々の個体が微妙に違う特性を持つバンブーロッドには、絶対的なテーパー数値やラインウェイトの基準が無い上、製作側が考えるキャスティングレンジによっても違って来ます。実際、今、世界中で作られてバンブーロッドは、その殆どが伝説の銘竿達のテーパー数値を参考に作られています。多少は変更されていたとしても、基本となっているのはそれら銘竿と呼ばれるロッドのテーパーであり、そのキャスティング性能の素晴らしさから参考にされているのは事実です。しかし、ここで重要な点は、それらのヴィンテージロッドのテーパーは、その殆どがシルクラインが使われていた時代のロッドテーパーであり、現在、主流になっているPVCラインの規格に適合したものではありません。瑪瑙のストリッピングガイドの内径は、太いPVCラインが引っ掛るぐらい小さく、細いシルクライン用の物である事は容易に分かります。また。当時はシルクラインの工業規格自体も定かでは無く、手作りのメーカーによっても様々だったようです。更に、シルクラインの重量は大量に塗られているフローティングワックスの量によっても変わるので、実際に使うラインはロッドの指定番手と違っても当然であり、コンディションに合わせて自由に選択するべきなのです。特に、レナードやペイン、ギャリソンなどのヴィンテージロッドを参考に作られた現代のバンブーロッドは、ライン指定その物が、今のPVCラインにそのまま適合しているとは言えません。ですから、キャスターが実際にキャスティングした上で、そのロッドに合う重さのラインを自由に選んで使う事が正しい選択と言えます。因みに、ギャリソンが後から追加した『E シリーズ』は、丁度、その頃登場したPVCラインの為に、それ以前のシルクライン用ロッドのテーパーを若干、強化変更した、PVCプラスティックライン用モデルのテーパーである事が知られています。
この様にバンブーロッドのテーパーデザインは非常に複雑で難しい物ですが、現在、バンブーロッドのテーパーデザインについて論じられる場合、その殆どがキャスティング性能を重視した内容になっている様に思います。例えば、ファーストアクションなのか、ミディアムアクションなのか、或いは、ティップアクションなのか、スローアクションなのか?と言う具合です。しかし、バンブーロッドのテーパーデザインにロッドアクションやキャスティング性能だけを求めるのは間違いと言わざるを得ません。強度や耐久性について殆ど問題の無いカーボンやグラス、ケブラーなどの強化プラスティックであれば、キャスティング性能だけを求めてティップを極細にデザインする事も出来ます。しかし、バンブーロッドのテーパーはそれだけでは不十分なのです。バンブーロッドのテーパーデザインに必要とされるのはキャスティング性能だけでは無く、寧ろ強度や耐久性を重視したデザインが求められます。ですから、ロッドに掛かる負荷を上手く分散して、竹を守り、折れ難いシャフトを作るデザインが加味されなければ成りません。つまり、テーパーデザインがその物が
ロッドの強度や耐久性、更には寿命にも大きく影響するからです。
また、バンブーロッド製作に於いてロッドの太さやテーパーなどを完全に数値化して管理、製作するのは多少、無理が有ると言えます。それは、これまで記述してきた通り、天然素材の竹を使って全く同じアクションのロッドを作るのは殆ど不可能と言えるからです。強化プラスティックなら均一性が保てるので、同じ肉厚、同じテーパーならば同じアクションのロッドになります。しかし、各個体ごとに肉厚やパワーファイバーの密度、太さ、本数、強度、更には、弾力性や弾性率、反発力までが全く違う竹で作っても『大体、似ているロッド?』しか作る事ができません。時には全く違ったロッドになる可能性さえあります。ですから、銘竿を含めた、現在入手可能なテーパーの数値データは、あくまでも参考程度に捉えるべきであり、その数値データを使ってコピーロッドを作ってもラインウェイトさえ合わない事も有り得るのです。逆にロッドシャフトになる前のストリップの時点で曲がり方や、張り、強度などを手の感覚で確かめ、『 この竹ならば、この太さ(テーパー)で○番ロッドに仕上がる 』、と言う様に、ある程度のキャリアを持つ
製作者の感覚と経験に頼る方が、より適正なラインウェイトや使い易いアクションのロッドに仕上げる事が出来るのです。即ち、よりファジーでアバウトに捉えて作る方が、思い描いたアクションに近づける様な気がします。実際のところ、その竹の個体が持つ本当の硬さや張り、弾力性などは、ロッドになって初めて判る事なのです。強化プラスティックが発明されていなかった時代に、竹製のロッド製作のデータを数値化し、フライロッドに均一性を求めようとした努力と発想は理解しますが、それは、強化プラスティックや金属など均一性のとれる素材にのみ当てはまる事であり、個体ごとにバラバラの特性を持つ天然素材に当て嵌める事は出来ません。つまり、竹竿とは限りなくアバウトな物であり、また、ファジーな物だと言えるでしょう。しかし、裏を返せばそのアバウトな世界を真実に近づける、それが職人技であり、手作りの良さ、面白さとも言えるところです。そして、それもまたバンブーロッド人気の秘密なのかも知れません・・・。
90’当時、ロッドを造り始めた頃、海外向けに何か特色のあるバンブーロッドをと思い、真竹製のロッドも造り始めました。『日本の竹を使った変わったロッド』と言うのがコンセプトでしたが、どうしてもバットに腰が無く、柔らかなスローアクションのロッドになってしまいました。バット部分を太くする程度の改造では、トンキンケインの持つ硬さや張りを出す事は出来ません。その為、源流域の小さなトラウト【ブルックトラウト】の為のロッドと言う事で誤魔化してはいましたが、フライキャスティングのレベルでその性能や耐久性を考えると、やはりトンキンケインの適正には程遠い物があるのは事実です。つまり、真竹で作る場合もまた既存の銘竿達のテーパーを流用する事は出来ないのです。真竹のロッドにトンキンケイン製ロッドのテーパーをそのまま使うと、前記の様に張りも腰もないフニャフニャのロッドになってしまいます。当然、それは軽く柔らかいだけのロッドで、トンキンケインロッドのスローアクションとかミディアムアクション、またはパラボリックアクションと呼べるレベルではありません。極端に言えばフライキャスティングとは言えないロッドになってしまいます。つまり、真竹でフライロッドを作る場合は、トンキンケインロッドのコピーでは無く、全く新しいオリジナルのテーパーをデザインしなければなりません。特に、バットからフェルールの上部までをパワフルで腰のある太めのデザインにしなければ、メリハリあるキャスティングはできません。また、使う真竹についてですが、現在、私がFeather Weight Series を造る場合には、直径75o、節間450o、肉厚7o以上の極太の真竹を使っています。しかし、その選ばれた真竹のパワーファイバーの強度を持ってしても、やはり、真竹は真竹であり、トンキンケインの様な張りと強度を出す事はできません。敢えてスローアクションロッドだと割り切って使うのであれば良いのですが、フライロッドとしての性能は明らかにトンキンケインには及びません
。真竹ロッドからトンキンケインロッドに持ち替えると、それは、まるでバンブーロッドからカーボンロッドに持ち替えた時の感覚に似た物があります。タイトで、シャープなキャスティングフィールはやはり、トンキンケインに勝る物ではありません。物流が発達した現在では、アメリカやヨーロッパでも日本の竹を手に入れる事は簡単ですが、今なお世界のバンブーロッドメーカーがトンキンケインでロッドを作っているのはその為です。
実際、フライロッドのテーパーデザイン、特に、バンブーロッドのテーパーに絶対的な答えを見付け出す事はできません。それは、材料の持つ特性の他にも、釣りのスタイルや好みのアクション、キャスティング技術、対象魚やフィールドなどの違いによってロッドのテーパーや長さが様々に変わるべきだからです。カーボンロッドの登場以後、フライロッドには以前にも増してロングキャストとナローループが求められる様になりました。特にカーボンロッドのテーパーデザインについては、キャスティング性能がメインになって当然だとは思いますが、ことバンブーロッドに関しては、それとは違った考え方や切り口が必要となります。今時の強化プラスティック製ロッドには無用な心配ですが、天然素材から作られるバンブーロッドにとって最も重要な要素は
、ロッドテーパーと強度、耐久製との関係です。それは、ロッドテーパーで『如何に効率良く負荷を分散させるか?』と言うテーマであり、言い換えれば、『如何に丈夫なロッドを作るか?』と言う事になります。それは、百年前も現在も全く変わる事の無い、バンブーロッドの不変のテーマと言えるでしょう。ロッドに掛かる負荷を最も効率良く分散できるテーパーは?魚を取り込む時はどの部分に最も負荷が掛かるのか?また、ロングキャスト時の負荷は何処に掛かる?そして、それらの負荷を何処で、どの様に吸収、分散、処理するべきなのか?それらを細かく分析してロッドテーパーに反映させて行かなければ成りません。それらのコンセプトは、『ロッドを守る為のテーパー』、『折れ難いロッドテーパー』をデザインすると言う事になります。ですから、キャスティングトーナメント用などの特殊なロッドを除けば、通常使用に於いてはキャスティング性能よりも寧ろ耐久性を重視すべきであり、一回でも多くの釣行と一匹でも多くの釣果を実現する事が望まれます。勘違いすべきで無いのは、昔のロッドが全般的にスローアクションなのは、テーパーデザインが悪いとか、テーパーに対する考え方が遅れていたとか、研究不足だった、とかでは無く、当時の接着剤の性能が現在のそれよりも格段に劣っていただけなのです。それよりも、折れ難いロッド、丈夫なロッド、長持ちするロッドを作る為に、敢えてスローアクション、パラボリックアクションなどの胴調子のテーパーデザインを使っていたと言う事が言えるのです。それらは当時の竹竿の限界を追求した結果だとも言えます。現代の多くのバンブーロッドメーカーは販売目的で、必要以上の先進性や特殊性、独自性を求めますが、竹は竹でしかありません。特殊な加工を施したとしても強化プラスティックの様な強さや、それに勝る性能を作り出す事は出来ません。やはり、天然素材の限界は低いのです。まして、悪戯にロッドの耐久性を失う様なデザインや加工を施してもロッドが折れ易くなるだけなのです。
また、バンブーロッドとカーボンロッドが同じ目線で捉えられ、評価されている点にも問題があります。キャスティング性能やロッドアクションにばかりに気を取られるあまり、現代に於けるバンブーロッドの本当の意味と役割を理解していない様に思えます。出来れば、バンブーロッドを考える上で、今一度、頭の中からグラスファイバーとカーボンファイバーの存在を排除し、それらが無かった時代に戻って考えなければ成りません。そうする事によって、自ずとバンブーロッドとは何か、その意味や存在価値が解かってくるような気がします。
銘竿と呼ばれる評価の高いヴィンテージロッドに、なぜ胴調子のミディアムアクションが多いのか・・・?それは、そのテーパーデザインがロッドに掛かる負荷をロッド全体を使って上手く逃がし、耐久性を上げ、簡単には
折れないように研究されて来たからです。天然素材のバンブーロッドは、特にシャフトの極端なテーパー差(太さの違い)には対応できません。最新の高弾性カーボンロッド様なファーストアクションに近づけようとティップ部分を極端に細くすると、そのテーパーの段差部分に負荷が集中して折れ易くなります。更に、細いティップ部分が折れるのは、そこに繋がるミドル部分が太過ぎる為にテーパーに大きな段差が生じるからです。また、ミドル部分が折れるのは、それに繋がるバット部分とのテーパー差が極端過ぎるからです。そして、バット部分が折れるのはグリップ部分の材質や構造に弾力性が無く、硬過ぎて曲がらないからです。つまり、上手く負荷を分散する様にテーパーバランスを繋いで行くと折れ難いロッド、耐久性のある丈夫なロッドを作る事が出来るのです。そして、そのバランスの良いテーパーとは、ストレートテーパーに近いミディアムアクションのテーパーと言う事になります。それらのミディアムアクション、パラボリックアクションのテーパーデザインにほんの少しだけキャスティング性能の向上を加味してデザインされて来たのが、銘竿と呼ばれるヴィンテージバンブーロッド達です。そして、それらのアクションを更に進化させた物が後にプログレッシブアクションと呼ばれる様になりました。
バンブーロッド製作でもカーボンロッドの様なナローループを作り出す為の細いティップを持つファーストアクションテーパーを作る事は簡単です。しかし、キャスティング性能の為にティップ細くし過ぎて強度を犠牲にしてしまうのはフライロッドとしては問題があります。近年はバンブーロッドも出来る限りカーボンロッドに近づけようとする考え方が主流のようで、強度を無視した細いトップが多く見られます。この様にファーストテーパーを追求した細いティップは耐久性が極端に落ちるので折れ易くなる事も事実です。釣り竿として本来の機能を突き詰めて行くのであれば、やはり、トップ付近はその限界点(細さの限界)よりも太く作らなければなりません。トップ部分には最低限の強度と耐久性を持つ太さが必要であり、更にそれをコントロール出来るパワーのあるミドル部分、そして、それらをコントロールできるバット部分と言う様に、トップの太さに連動したテーパーをデザインして行く事で、結果として
ミディアムファストアクションやパラボリックアクションと呼ばれる銘竿達のテーパーに近づいて行く事を理解します。ジム・ペインは1930年代に、97、98、100、などの既に伝説となっている数々の銘竿と呼ばれるロッドのテーパーとアクションを完成させていました。しかし、その後の1950年頃にはシャルル・リッツの助言で、今までの方向性に逆行するようなパラボリックアクション(放物線)のペインロッド〔7’09”Para〕を製作し始めました。既に高いキャスティング性能を持つプログレッシブアクションを完成させていたジムが何故、後になってパラボリックのロッドを製作したのか、その真意は判りませんが、恐らくはキャスティング性能だけでは無く、実釣用ロッドとしてロッドティップの耐久性を求めての事だったと考えられます。つまり、ジムが作っていた伝説的なミディアムファーストアクション、プログレッシブアクションのロッド達は、ティップをほんの少し太くする事で折れ難くなり、耐久性が向上したと考えられます。その結果、ロッド全体がストレートに近いテーパーとなってパラボリックなアクションへと変化したと思われます。それは、ティップを太く変更した結果のテーパーデザインですが、そのパラボリックアクションは負荷をロッド全体で分散・吸収する能力が高くなるので、ロッド全体の耐久性が増すのは当然の事と言えます。実際、アメリカのロッドテーパー・アーカイブで、ペイン214パラボリック7’09”のテーパーを見ると、ティップセクション全体が他のペインロッドよりも少し太めに作られているのが解かります。そして、それと殆ど同じ事がH.L Leonard のロッドにも見られます。レナードも1960年代にACMシリーズ(アーサー・C・ミルズ)と言うパラボリックテーパーを作っているのです。レナードもそれまではキャスティング重視の先進的なプログレッシブテーパーを追及して来たのですが、ペインと時期を同じくして、後からパラボリックアクションテーパーのロッド作ったのは、ただの偶然とは言えないところです。現在、残っているレナードメーカーも自社のWebページの中で、当時のACMシリーズはそれまでのロッドの様にティップを細くせずに、先端まで太さをキープしたロッドだと明かしています。この時期、各社が一斉にパラボリックアクションテーパーに回帰して行ったのは、耐久性の重視が目的だと考えれば必然的と言えます。より速いラインスピードとナローループを求めて細くなり過ぎたティップは、当然、弱い物になり、耐久性に欠ける物となったのでしょう。その後、耐久性を向上させる為に、再度ティップを少しだけ太くする事によって、結果的に負荷に対して湾曲する部分を自動的にロッドの中央部に移動したのです。そして、そのアクションとテーパーこそが、パラボリックと呼ばれるロッド全体で負荷を分散、吸収させる耐久性の高いロッドアクションなのです。ですから、この新しくデザインされたパラボリックアクションは、それまでの古い時代のスローアクションや胴調子とは、そのコンセプトが全く違い、限りなくプログレッシブアクションに近いテーパーでありながら、更に耐久性を向上させたミディアムアクションを実現したロッドと言えるでしょう。また、当時これらのバンブーロッドのアクションとテーパーに変革をもたらしたのは、何と言ってもPVCライン発明と一般への浸透、更にはグラスファイバーロッドの発明などが挙げられるでしょう。高性能なPVCラインの登場によって、キャスティングレンジは格段に伸び、遠投が可能となりました。その為、フライラインによるロッドへの負荷や加重がシルクライン時代よりも大きく増加したのは事実です。特にラインのピックアップやリフト時の大きな負荷は、それまでの細いロッドティップにとっては相当の負担になったと考えられます。その為、トップを太くする事によって、PVCラインの使用に耐えるバンブーロッドを作らなければならなかったと考えられます。これは想像ですが、この時期のPVCラインの登場で、それまで作られて来た細いティップを持つシルクライン用のビンテージロッドが、相当数、折れてしまって消滅したのではないかと考えられます。
※Hexastyleのパラボリックアクションは、パラボラアンテナの曲線の様な弧を描くロッドアクションで、耐久性向上のために負荷が一部分に集中する事無く、ロッド全体、或いは、最も強度のあるフェルールを含むロッドの中心部分で負荷を吸収するようにデザインされたアクションです。ミディアムアクションに近いパラボリックなアクョンは、ティップの細いファーストアクションよりもナローループが作り難くくなりますが、それらはタイミングの取り方やキャスティング技術によって克服する事ができます。また、水の抵抗が大きく掛かるダウンクロスのウェットフライやヘヴィーウエイトニンフの釣りに対しても、ロッドを扱う動作をゆっくり、大きくする事によって、ティップが細いロッドよりも扱い易く、ロッドに対する負荷の集中を軽減できると言えます。ですから、より耐久性を重視したパラボリックアクションのロッドを自在に使い熟す事が出来れば、バンブーフライロッドをより永く使う技術を会得したと言えるでしょう。(リッツが命名したパラボリックアクションと言う言葉は、パラボラ曲線、放物線、とは無関係な造語のようです。)
また、ロッドの長さについても同じ事が言えますが、これも耐久性に大きく関係しています。古い時代のバンブーロッドでは5〜6番ラインでもシングルハンドの9〜10フィートと、今よりも長めのロッドが多く、重量もかなり重い物でした。当時はウェットフライとロールキャストやスペイキャストを多用する釣りだった事もあ
りますが、ロッドの重量が増すのを覚悟でロッドを長く作らなければ成りませんでした。理由はシャフトの強度と耐久性を向上させる事が目的だったのですが、それは現在の様な高性能の接着剤が無かったからです。ストリップの接着力が比較的弱くても、ロッドを長くする事によってショートロッドよりも負荷を分散し易くする事が出来たからです。つまり、ロッドの耐久性を向上させるためのロングロッドだったのです。そんな時代の中から、レナードやペインが3〜4番の軽いラインを使うライトウェイト、ショートロッドを発達させて来たのですが、それらは更に繊細なドライフライの釣りを発展させました。その実現には強くて張りのあるトンキンケインや新しい接着剤の登場によるところが大きいと言えます。しかし、軽く短いロッドは折れ易く、耐久性に欠ける物だった事は確かです。3〜4番のライトウェイトのロッドは6フィート以下まで短くされ、軽量化されましたが、ロッドシャフトは長さを短くする程、曲がりに対する負荷やキャスティングの負荷を分散、吸収する事が出来ずに折れ易いロッドになってしまいます。この様に当時のドライフライ用ライトロッドは、リスクを覚悟の上で開発されて来たと言えるでしょう。
ロッドの長さ以外にもロッドの耐久性を落とすアンバランスなテーパーデザインの要素が幾つか考えられます。これも昔の事ですが、アメリカの某有名メーカーの新作バンブーロッドを見て、そのコンセプトに感動し、
すぐに買って研究した事があります。そのロッドはスウェルバットと呼ばれる、グリップのすぐ上の部分が極端に太く広がっているシャフトでした。初めて見るそれは、レナードやペイン、ギャリソン時代のストレートやパラボリックテーパーとは明らかに違っていて、太くスウェルしたバット部分はバンブーロッドのスローなアクションをカーボンロッドの様なファストアクションに変える事ができる画期的なデザインだと思いました。グリップからストリッピングガイドにかけてはガッチリと硬いため、ロッドを振っても持ち重りせずに手の力を確実にロッドに伝えてくれる様に感じたのです。その後、暫くはスウェルバットのロッドを作ってテストしましたが、初めて振った時とは違い、使えば使う程そのアクションに違和感を覚える様になりました。その違和感とはロッド全体の曲がりや、しなりがグリップを握る手に直接伝わって来ないと感じられた事です。つまり、バットから上の部分とグリップ部分とが全く別々に作動してるかの様で、パワーの伝達が不自然だと思えたからです。そして、このスウェルバットデザインにはロッドアクションやキャストフィール以外にも大きな問題点がありました。それは、ロッドの耐久性に関する構造的な欠陥です。ファーストアクションに近づける事に囚われ過ぎてスウェルバットを更に太くして行くと、手元がより硬くなる分、力は入れ易くはなりますが、バット部分とミドル部分、ティップ部分とのテーパー差が大きくなり過ぎて、負荷がロッドの中間部分に集中してしまいます。その分、本来はロッド全体で分散すべき負荷を、殆ど曲がらないグリップとスウェルバット部分を除いた、ミドルからトップにかけての部分だけで吸収しなければならなくなります。つまり、それは全長が7フィートのロッドであっても、実質的に負荷を分散・吸収できる部分の長さは、バットエンドからスウェル部分までの全く曲がらない部分を除いた6フィート以下のロッドと同じ事になります。その為、負荷分散能力に欠ける結果となり耐久性に問題が生じるのです。また、強風時や向かい風、ロングキャストの時には手元が硬くて強い分、力が入り過ぎてオーバーパワーでロッドを振リ回す可能性もあります。そして、その無理な力の入ったキャスティングがシャフトに大きなダメージを与えてしまうのです。そうです、まるで最新のカーボンロッドを振るようにバンブーロッドを振ってしまうのです。この様に極端に太いスウェルバットよりも、ストレートテーパーに近く、ほんの少しだけナチュラルに太くなって行くバットの方が、ロッドの負荷分散能力を低下させずに済むのでより耐久性のあるロッドを作る事が可能になります。極端に言えば、ロッドの先端からリールシートのスペーサーまで、特にコルクグリップ部分も含めたロッド全体の長さをテーパーデザインとして考えるべきだと思います。この様なナチュラルなテーパーのデザインは、大切なロッドを守ると共に、ラインコントロールとロッドの挙動をより正確に手に感じる事が出来るので、キャスティングの上達にも寄与する物と思います。即ち、それが銘竿と呼ばれるロッド達のテーパーなのです。キャスティングが上達したからなのか、或いは、フライキャスティングを本当に理解出来たからなのか、やはり銘竿と呼ばれるロッド達のスタンダードなロッドテーパーとアクションの方がキャストし易く、微妙な力の伝達が判り易いと感じたのは確かです。
ロッドの耐久性の中でその長さが重要である理由に、ラインウェイトや長さの違いに係らず使われる素材が同じ竹である事も挙げられます。それは、7フィート3番のロッドも8フィート6番のロッドも同じ様な竹で作られる事です。即ち、シャフトに求められる強度が違っても、パワーファーバーの数や太さをなどを自由に変えられないと言う事実です。カーボンロッドやグラスロッドならば、繊維シートの巻き数を増やしたり、太い繊維のシートを使う事によって強く丈夫なシャフトにする事ができます。しかし、竹の場合はロッドに必要な強靭な部分が表層部分のパワーファイバーだけであり、それを故意に増やしたり強くする事が出来ないからです。但し、その性質を補う為に昔からダブルビルド、トリプルビルドと呼ばれる多重構造(パワーファイバーを2段、3段に重ねた物)のシャフトもありましたが、その構造は接着面の数が増えるので接着剤の性能に依存する部分が多く、接着剥離のトラブルの可能性も高くなります。

私が近年造っているパラボリックロッドとは、『一部分に負荷が集中せずに、ロッド全体が均等に近いカーブを描きながら負荷を分散するロッド』と言う事になりますが。この様な一般的にミディアムアクションと呼ばれるロッドに傾倒して行った理由は、勿論、細すぎるティップを太くする事によって、バンブーロッドの耐久性を向上させる目的もありますが、もう一つ理由があります。それは、私自身も行う事が多いニンフフィッシングです。ダウンストリームのウェットフライや、ストリーマーは海降性のサーモンや、シーラン・トラウトを狙う場合に限られるので、今は殆どやらなくなりましたが、アップストリームのニンフィングは今も私のトラウトフィッシングにとって重要な釣法です。勿論、バンブーロッドをニンフフィッシングで使う上での使い易さや性能は重要であり、無視する事はできません。これも細いティップを太くさせた理由であり、ウェイテッドニンフをキャストするパワフルでトルクのあるキャスティングが出来るパラボリックロッドへの回帰と言えます。
誰もが初めてフライフィッシングを目にした時に体験する事になる、ドライフライに飛び付くトラウトの姿に今までに無い衝撃を覚えるのは当然だと思う。そして、私も含め、誰もがその衝撃の体験が忘れられずに『純粋ドライフライ主義』に傾倒して行くのも、また必然的な事の様に思えます。中にはその影響が大き過ぎて、ドライフライ以外は使わないと決めつける頑固なフライフィッシャーもいるでしょう。私自身もドライフライの繊細なキャスティングフィールを目指して、ロッドトップの太さ(対面幅)を1.5oと言う極限の細さまでトライした事もあります。つまり、ストリップ一片で言うと、半分の0.75oです。それは、小さなドライフライをキャストする為に造ったショートロッドでしたが、
その細さは明らかに竹の強度の限界を越えていて、非常に弱い物でした。此処で考えなければならないのは、ドライフライのみで使う場合のロッドと、ウェイテッドニンフや大型のドライフライ、ウェットフライを使う場合のロッドでは同じライン番手でもロッドアクションやテーパーが其々違わなければならない事です。また、フライが水面に浮いている場合と水中にある場合では、ラインのリフトやピックアップに必要なロッドティップのパワーも明らかに違って来ます。つまり、軽くて小さなドライフライを繊細にプレゼントする為に作られたロッドティップはニンフやウェットフライなどのパワーが必要な釣りに使うには細くて弱過ぎると言えます。
『ショートロッドのリスク!』、ラインウェイトとロッドの長さには密接な関係があるのは前記の通りですが、例えば7番ライン用のロッドを、軽量化目的で7フィートと言う短さで作ったらどうなるでしょう?結果から言うと、それは現実的なロッドではありませんが、仮に作ったとしても使い難く、トップの折れ易いロッドになってしまいます。7番ライン用のロッドを7フィートの長さで作るには、シャフトをかなり太くしなければなりませんが、その太く短いシャフトは硬過ぎて弾力性が無く、キャストし難い物になります。そして、その硬いロッドをキャストし易い様に変更するとなれば、柔軟性を出す為にティップ部分を細くしなければならず、結果として、細いティップと太いミドルセクションが極端なアンバランスになります。その結果、細いティップ部分に大きな負荷が集中して折れ易くなるのです。つまり、ロッドが負荷を上手く分散する為の柔軟性や弾力性を得る為には、負荷が大きな重いラインのロッドほど長く作らなければならないのです。逆に、軽い3番ライン用のロッドを9フィートの長さで作ればどうなるでしょう?今度はロッドの自重だけでフニャフニャ曲がり、張りも腰も無い超スローアクションなキャストし難いロッドになってしまいます。また、シャフトが全体がより細くなるので、これもまた耐久性に問題が出て来ます。つまり、キャストし易く、耐久性のあるロッドを作るには、ラインウェイトに合った適切な弾力、反発、剛性が必要で、その為には適切なロッドの長さとテーパーのバランスが必要になります。これらの事から、ロッドを軽量化するために、長さだけを短くするのは間違いで、ラインウエイトに合ったロッドの長さとロッドテーパーのバランスが、より良いキャスティング性能と耐久性を生み出すのです。また、ラインウェイトとロッドの長さの適正については、カーボンロッドにも存在します。カーボン素材の特性を活かして3番ウェイトのラインをキャストするには、7’06”の長さのロッドがベストでしょう。4番ラインならば8’00”、5番以上は9’00”と言う様に、シャフトの素材の強度や耐久性、反発力や重さなどの特性によって、自ずと最適な長さが決まってきます。それは、カーボンでもバンブーでも同じ事で、ティップの細さや素材の厚さには限界があり、極端に自由なデザインや調整はできません。ですから、シャフトの強度や柔軟性、重量などは素材の持つ特性の範囲内で調整、デザインしなければならないのです。例えば、ロッドにもっと柔軟性を出したいと思っても、素材の強度を考えると極端に薄く作る事はできません。例えば、カーボンで4番ライン用のロッドを作る場合でも、強度を考えると素材の厚さやティップの細さは既に決まってしまうので、そのティップに合わせてロッド全体のテーパーと長さを決めて行かなければなりません。そして、その結果が8’00”になるのです。私も、7’06”、8’00”、9’00”と3種類の4番ラインロッドを使っていましたが、やはり、キャスティング性能や取り回しを考えると実釣では8’00”がベストでした。7’06”では硬過ぎるし、9’00”では全体に柔らかく、グラスファイバーの様なスローアクションになってしまいます。その9’00”4番はニンフや、ウェットフライを使う前提のロッドなので、ラインのリフトやメンディングでの取り回しは扱い易いのですが、ドライフライのピンポイントキャストやロングキャストには不向きでした。また、スティールヘッド用のシングルハンド8番ライン、9’06”のロングロッドは必要以上に重く、メンディング以外では9フィート以上の長さにする利点がありませんでした。つまり、メンディングを多用するなどの特殊なロッドを除けば、キャスティングや強度、耐久性能を満たす理想的で適正なロッドの長さは、それは使う素材などから自動的に決まってくるのです。カーボンロッドもバンブーロッドも素材の違いや強度の違いはあっても、基本的にはフライロッドとしての使い易さを突き詰めると、テーパーバランスには其々共通した部分が多く、両者ともロッド長さとラインウェイトの理想的な関係があると言えます。
また、小さな流れや藪沢では6フィート前後のショートロッドが取り回しの点で使い易いと思われがちですが、3番、4番のバンブーロッドで5〜6フィートのショートロッドを作るとなると、これもまたキャスティング性能を考えると極端にティップを細くしなければなりません。つまり、テーパーが急激に変化する無理なテーパーデザインになってしまうので、この場合も細すぎるティップに問題が出て来ます。ですから、昔から4番ラインのロッドには7フィート以上が圧倒的に多く、また、5番ラインはその殆どが7フィート6インチなのはその為です。それがバンブーフライロッドとしての強度と耐久性を維持する理想的な長さとラインウエイトとの関係と言う事になりなります。更に、
6番ラインなら8フィート以上、7番ラインは8’6”以上、8番ラインは9フィート以上が適正と言う事になります。前にも触れた『バンブーロッドのトップの限界』、これは、バンブーロッドのテーパーをデザインする上で考えなければならない最も重要な点であり、バンブーロッドの耐久性を上げるにはティップを太く作るしか方法は無いのです。そして、この最低限のトップの太さと言うのがテーパーをデザインする上での基本となり、ロッドアクションを決める重要なファクターとなります。この様にトップに安全な太さを確保した上で、バットに向かってテーパーの数値をデザインして行く手法で作られたロッドは、トップに強度と耐久性を持っているので、ティップだけがすぐに折れてしまう事が無くなります。つまり、ロッド全体の耐久性が向上するのです。ビルダーの考え方にもよりますが、現在、実釣用として使われているロッドの中で、折れずに生き残っている銘竿達のテーパーこそが、まさにバンブーロッドに最低限必要なティップの太さを確保していると言えるでしょう。更に逆の見方をすれば、現存数の少ないロッドほどティップを細くし過ぎた為に折れてしまったとも言えます。今ではカーボングラファイトなどの軽くて丈夫なロッドが沢山あります。ですから、6番ライン以上のロッドを必要とするコンディションやロングキャストを強いられる場面、或いは、対象魚が大きな場合などには、敢えてバンブーロッドで挑むのはリスクが大き過ぎると言えます。それよりも、寧ろ、日本のフィールドの様にライトライン、ショートキャストに適したコンディションでバンブーロッドを使用するのが現代のバンブーロッドの使用価値を最も見出せる場面だと思います。即ち、日本の小渓流こそが、まさにバンブーロッドの為のフィールドであり、最も活躍できる場面なのです。元々、ペイン、レナード、オーヴィスを始めとするライトウエイトバンブーロッド(3番・4番・5番)を開発して来たメーカーは、アメリカ東部のキャッツキルやマサチューセッツ、バーモントなどの小渓流をフィールドとして開発して来たもので、ドライフライや小型のニンフの使用を前提としています。ターゲットもブルックトラウトや渓流に棲む小振りのブラウントラウト等で、それらは、まさに日本のヤマメや岩魚、アメマス等と同等のターゲットと言えるでしょう。ですから、アメリカ西部の大河に生息する大きなトラウトを釣るには、バンブーロッドでは無理が生じます。テストの為だったとは言え、私が過去にニュージーランドの60pを超える大鱒やアメリカ各地の鱒達にバンブーロッドで挑んだのも、実はナンセンスだと思っていました。ですから、日本の渓流で通常使用するのであれば、7’00”の3番〜4番のミディアムアクション辺りがベストな選択だと言えます。また、対象魚が40p程度の場合や強風時は7’6”の5#を使う場合が多く、また、ターゲットが50p以上の場合やキャスティングレンジが20ヤード以上の場合などは、敢えてバンブーロッドを使わずに9フィートのグラファイトロッドを選択します。また、過去にはツーハンドやスペイ用のバンブーロッドも作りましたが、やはりテスト以外の実釣ではグラファイトのツーハンドを使っています。これらの事から、現在のHexastyle Bamboo Rod のラインナップは3番ウェイトラインの6’6”から5番ウェイトラインの8’00”までが中心となっています。蛇足ですが、私も普段からファイティングによる魚のダメージを極力抑える為、必要以上に柔らかいロッドや細いティペットの使用を避け、フッキング後は短時間に速やかにキャッチし、リリースするように心掛けています。その為には対象魚の大きさに合わせたロッドの選択が重要で、私の場合は多少、ロッドパワーが勝っている状態を選択します。魚を掛けてからのロッドが曲がるのを楽しむと言う事は殆どありません。それは、カーボンロッドですべき事であり、大切なバンブーロッドには不必要な負荷を出来るだけ掛けない事が重要だからです。それに、元来フライフィッシングとは、自作のフライを魚に喰わせる瞬間までが全てであって、喰った瞬間に私のフライフィッシングも完結します。ポイントの選択から、キャスティング、プレゼンテーション、フッキングまでの過程が重要であり、その後の寄せや魚をキャッチする動作は素早く、短時間にと言うのが今の私のフィッシングスタイルです。また、偶然、途中でバレてくれればリリースの必要もありません。今では写真も撮らず、魚にも触らない、魚を水から揚げる事も無く、フライのフックを掴んで即リリース。そして、私のフライを待っている次のライズに素早くキャストする事です。
因みに、一時期カーボンロッドでブームになった1番、2番など超軽量ライン用のロッドをバンブーロッドで作るのも現実的とは言えません。前記の様にバンブーロッドのトップ部分には細さの限界がありますが、超軽量のラインを的確にキャストする為には、トップ部分を竹の強度限界を超える細さにしなければならないので、実釣での耐久性を確保できないのです。私自身もカーボンロッド用に2番ラインは持っていますが、実戦で使う事はありません。カーボンロッドやグラスロッドを使っていた当時も、山女魚釣りには3番を使っていました。現在では対象魚が小さくても、殆ど4番のバンブーロッドを使います。それは、ロッドを守る為に不必要な負荷を掛けない事と、キャスティングの正確性を重視するからです。つまり、必要以上にロッドを曲げたり、痛めつける事を極力避ける様にしているからです。
ジム・ペインがシャルル・リッツの影響で敢えて作った、後のパラボリックアクションは、当時の流れに逆行するテーパーデザインでした。しかし、彼が何故それを作ったのかは、その理由に関する記録が無いので知る事はできません。当時の
銘竿と呼ばれるロッド達はも、キャスティング性能を向上させる為にトップを極限の細さにまでデザインするのは当然の流れだったと思います。その為、現在、残っている物の多くは、細いティップが折れてその殆どがショートしています。やはり、当時のロッドのテーパーデザインもキャスティング性能がメインであり、耐久性を最優先にする事は無かった様に思います。それに、彼らも、まさか100年後まで自分達の作ったロッドが残り、使われようとは予想しなかった事でしょう。恐らく、その寿命や耐久年数は10年か20年程度と考えていたかも知れません。ただ、故意にせよ、偶然にせよ、今現在、生き残っている銘竿達のテーパーは非常に耐久性のあるデザインだった事はその存在が証明しています。つまり、耐久性のあるテーパーデザインだけが生き残って来たと言う事です。当時、最先端だったライトロッド、ライトラインによる繊細なドライフライの釣りが、3番、4番ロッドの開発を一気に加速させました。それは、それまでの6番ライン以上のウェットフライの釣りとは明らかに違うものだったのです。セオドア・ゴードンがキャッツキルで発達させたアメリカンドライフライフッシングは、それまでイギリスやヨーロッパで発達してきたウエットフライが中心の釣りとは全く違うもので、新しいロッドの登場が望まれたのです。ウエットフライの時代は、細いラインや、繊細なロッド、軽く小さなドライフライを水面に音も無くソフトにプレゼンテーションするライトロッドは必要ありませんでした。ですから、当時のウエットフライ用ロッドには、6番や7番ライン用の長くて太い物が多く、特にトップ部分もそれなりに太く作られていたので簡単に折れる事も無かったのです。その為、接着剤の性能が悪い時代にありながら、インターミディエイトラップ(段巻き)でも十分な耐久性を持たせる事ができたのです。現在でも有名、無名を問わず、イギリス製のヴィンテージロッドが数多く残っているのはその為です。しかし、アメリカでのドライフライの発展は、限りなく細いラインで限りなく小さなフライを静かにキャストする事を要求した為、それに合ったロッドが必要となりました。その頃、ドライフライ用のライトウエイトロッドを作り始めた、H,L レナードや、その後のオーヴィス、ペインなどは、ライトラインをナローループでピンポイントキャストする性能を作り出そうと、バンブーロッドのティップに限界の細さを求めたのです。そして、レゾルシノールと言う強力な接着剤の登場が、その細さを実現させました。しかし、如何にレゾルシノールが強力だとは言え、3#のショーロッドのトップ部分は、最細の物で対面幅が僅か1.3oしか無く、1本のストリップの太さは0.65oしかありませんでした。軽い3番ラインを使い、小さなドライフライをキャストする繊細な釣りは、そこまでティップを細くしなければならなかったのです。しかし、100年後の今、改めて考えても竹で作るには余りにも細過ぎます。私がリスぺクトするペインやレナード、それに多くの銘竿と呼ばれるロッド達。それらのテーパーデザインを全て否定する訳ではありませんが、海外のテーパーアーカイブズなどでそれらのテーパー数値を見る限り、その殆どがトップから下、5インチにかけて極端に細そ過ぎるのは確かです。恐らく、当時のメーカー達は、より繊細なキャスティング性能の為に、耐久性を犠牲にしてまで細さを競ったとしか思えません。竹と言う素材の強度限界を考えて、ある程度の耐久性を確保するのであれば、トップの最も細い部分でも対面幅で1.8o、出来れば2.0oは確保したいところです。その太さがあれば、簡単には折れない、強く耐久性のあるトップを確保する事が出来ます。しかし2oと言えば、5番や6番ロッドのトップの太さであり、彼らが目指した3番4番の繊細なライトウエイトロッドの太さではありません。現在のカーボンならば3番ラインの細いティップでも強度と耐久性は十分です。しかし、当時はバンブーロッドでそれを実現しなければならず、その為にはどうしても対面幅が1.3oと言う極細のトップが必要だったのです。勿論、竹のトップが折れ易くなるのは覚悟の上だったでしょう。ただ、そこまでナローループとファーストアクションに拘らなければ、トップをほんの少し太くしするだけでロッドの耐久性は維持出来たのです。
ドライフライ用の繊細なティップを持つロッドがキャッツキルで作られ、ドライフライフィッシングが流行してからも、ウェットフライを使ったダウンクロスの釣りやウェイテッドニンフの釣りが全く無くなった訳ではありません。後にイギリスやヨーロッパでもアメリカンドライフライは広まりましたが、相変わらず伝統のウェットフライ、ダウンストリームの釣りが廃れる事はありませんでした。中でもヨーロッパを代表するハーディー、ペゾン、などのスローアクション(胴調子)のロッドは、ラインに掛かる水の抵抗が大きいダウンストリームの釣りに適したロッドであり、それに耐えるロッドティップを持ち合わせていたと言えます
。つまり、逆に言えば、ドライフライ用の極端に細く弱いティップは、ダウンストリームのウエットフライやニンフフィッシングには適していないと言う事です。ヨーロッパのバンブーロッドとアメリカのバンブーロッドを比較する場合、キャスティング性能やロッドアクションだけが比べられる事が多いのですが、それらの釣法やフィッシングスタイルの大きな違いも考慮しなければなりません。つまり、ドライフライフィッシングの繊細なキャスティングを生む極細のトップ部分は、抵抗の大きなダウンストリ−ムの釣りには細すぎるので、ウエットフライやニンフにに使う事自体に問題があると言えます。出来れば、水の抵抗が大きく掛かるダウンストリームの釣りには、ティップの太いミディアムアクションロッドを使う事が望まれます。もしかしたら、ジム・ペインが後になってパラボリックアクションを作ったのは、それが理由なのかも知れません。結論としては、過去の銘竿達のテーパーデザイン、つまり、トップが細すぎるデザインは、当時のキャスティング優先の最先端デザインであり、耐久性を考慮したロッドでは無かったように思えます。敢えて言えば、耐久性を犠牲にしてまで、キャスティング性能を優先させたとさえ思えます。ですから、当時の流行のテーパーをそのままコピー、或いは真似しても、それはトップが細過ぎて折れ易いロッドになってしまうのです。
私もフライキャスティングが大好なので、何とかカーボンロッドの様なキャスト性能とフィーリングを実現できないかと、色々なテーパーや長さのロッドを試作して来ました。しかし、如何せんバンブーロッドは天然素材です。カーボンロッドの様なファストアクションやティップアクションは簡単に作れますが、それに耐久性も兼ね備えることは出来ませんでした。昔の偉大なビルダー達も、ありとあらゆるテーパーのロッドを作り、テストして来た事でしょう。そんな中からダメなロッドも沢山折って来たと事と思います。そして、私も今まで折れずに生き残って来た銘竿と呼ばれるロッド達の意味を知りました。テーパーデザインとロッドアクションの本当の意味が理解出来ました。正確な製作本数は分かりませんが、ヴィンテージの超ショートロッドなどは現存数が少なく、殆ど幻になっています。理由は、細すぎるティップが折れてしまったからなのですが、竹で作られるバンブーロッドには適正な長さや太さなどの許容範囲が決まっているからです。そして、許容範囲内で作られた耐久性のあるロッドは折れる事なく生き続け、ニッケルシルバーが錆び、バーニッシュが剥げ、コルクグリップが痩せても、リフィニッシュされる度に生まれ変わり、使い続けられ、その美しさを維持し続けます。それは、まさにロッドシャフトにダーメジが無いからできる事なのです。勿論、私もバンブーロッドにカーボンの使い勝手や性能を求める事は無意味だと知りました。バンブーロッドは、それ自身の竹繊維を守る為に、折れないようにする為に、ミディアムアクションであるべきだと理解しました。つまり、竹の限界強度を知った上での適正なロッドの長さやテーパーバランスは、現存する銘竿達によって、既に完成されていたのです。
良いロッドは昔から折れずに残ってきました。いや、今まで折れずに残ってきたロッドが良いロッドなのです。そしてこれからも折れずに使い続けられる事こそが良いロッドの証です。
例えばペイン、レナード、ギャリソンの三社には、殆ど同じ長さで同じテーパーデザインと言えるロッドがあります。それらはほんの少しテイストが違う程度で、共通するテーパー部分が多いのです。結局のところ、それはメーカーやビルダーは違っても、性能や耐久性を突き詰めると理想的なテーパーデザインが存在すると言う証明です。また、別な言い方をすれば、それは折れない太さのティップを持ったロッドと言えるのです。例えば、少々乱暴な手法ではありますが、銘竿と呼ばれる上記3社の酷似したテーパー値を使って、その平均値で作ったロッドは万人に受ける究極のテーパーデザインである可能性も高いのです。
その他にも、銘竿と呼ばれるロッドのテーパーで色々作って研究して来ましたが、それらの中でも、或る有名なロッドのテーパーで作ったテストロッドについての感想もあります。それは、ショートロッドにしては素晴らしキャスト性能を見せるティップアクションの4#ロッドなのですが、実釣テストでは魚を寄せる時にTopから3番目のガイド前後(15インチあたり)が極端に曲がり、その部分に負荷が集中しているのが判りました。つまり2番〜4番目のガイドの間が折れるだろう事を簡単に予測させるベンディングカーブを描いていたのです。そのロッドは、キャスティング性能を最優先にデザインされた物であり、竹の限界や耐久性を無視したテーパーデザインだと思われました。その極端に曲がる細いティップが何匹の魚に耐えられるかは解かりませんが、トップから15インチのエリア内だけで負荷を吸収している様にみえました。結局、その危険なロッドテーパーは私を納得させる物では無く、作ったのはその1本だけで終わりにしました。後は態々折れるのを見たく無かったので全く使っていませんが、ロッド性能に於いて、キャスティング性能と実釣性能では理想的なテーパーは違うと言う1例です。恐らく、この銘竿と呼ばれるロッドの現存本数が少ないのは、今まで使われて来る間にティップ部分の2番〜4番ガイドの間が殆ど折れてしまったのでしょう。最近、あるオークションに、誰もが憧れるその銘竿がオリジナルとして高額で出品されていました。リフィニッシュされてはいますが、2本のティップの内の1本は明らかに後から作られた物でした。そのニューティップは竹のブランクの色も明らかに違い、シリアルNO.の筆跡や書かれている位置も全く違うので、それが幻の銘竿のオリジナルティップでは無い事が直ぐに判りました。実際、強化プラスティックのロッドが発明される以前は、バンブーロッドに極限のチューニングを試みたと思います。PVCラインが登場した1950年代には、まだ、グラスファイバーロッドも一般化していなかったので、バンブーロッドで高性能なビニールラインを使っていたのです。そして、より飛距離を求められたバンブーロッドは、そのロッドテーパー自体も大きく変わる必要に迫られたのです。その為、それ以前のシルクラインを使っていた銘竿達はパワフルなビニールラインによるロングキャストの大きな負荷に耐えられず、かなりの数のロッドが折れて行った事は容易に想像が付きます。その結果、現存している銘竿であっても、その殆どがリビルドされた物が多く、また、偽物も多数出回っています。基本的には完全オリジナルの完品は、ほぼ残っていないと考えた方が良さそうです。ラングズオークションなどの有名なオークションでは、当時の関係者などによる鑑定済みのロッドが、その出所を証明して出品されますが、個人売買のオークションなどでは、偽物が多いのは事実です。
Fusion Progressive Taper Hexastyle Bamboo Rod のテーパーデザインは『 キャスティングテーパー 』と『 ファイティングテーパー 』と言う考え方に基づいています。『 キャスティングテーパー 』とは文字通りキャストし易いテーパーの事で、『 ファイティングテーパー 』とは魚とのやり取りに耐えるテーパーの事です。フライロッドのテーパーデザインにはこの両方を高い次元で融合させる必要がありますが、具体的な意味は、『キャスティングテーパー』とはグリップに入れた力を上手くトップ側に伝え、よりキャスティングし易くするテーパーで、簡単に言えばティップの細いファーストアクションに近いロッドテーパーです。 また、『ファイティングテーパー』とは、逆にトップガイド側が引っ張られる負荷を細いティップだけで処理せずに、バット、グリップ側つまり、手元の太い方に向かって上手く分散、吸収するロッドテーパーの事です。そして、この細いティップだけで負荷を処理しないシステムがロッドの耐久性に深く関係して来るのです。ただ、この2つのテーパーには相反する部分が存在する為、両方の考え方を上手く融合(fusion)させて、進化、向上(progressive)しなければ、キャスティング性と耐久性と言う両極を満たすロッドを造る事ができません。『キャスティングテーパー』はキャスティングを優先に考える為、どうしてもティップセクションが細くなり、トップガイドからフェルールまでの間に細く、柔らかく、弱い部分が出て来ます。そして、その部分がトップ側からの負荷を上手くグリップ側に流せずに、弱い部分だけが極端に曲がって負荷を処理しようとします。そして、前記のショートロッドの様にティップが折れ易くなります。また、『ファイティングテーパー』はそれとは逆に、トップ近くをある程度太くして強度を保ち、魚の引きや寄せ、取り込み、ラインピックアップ、メンディングによる負荷をロッドの中心部分からバット側に分散して耐えるテーパーなので、ナローループが作り難いミディアムアクションのロッドになります。これらミディアムアクションやパラボリックアクションではループコントロールやラインスピードのコントロールが難しくなるので、よりキャスティングがし易いファーストアクションと
の間で最善の妥協点を見い出し、それらをバランス良く融合したテーパーをデザインする事によって、キャスティングし易く、コントロール性が高い上、耐久性をも兼ね備えたロッドをデザインする事が出来ます。そして、これらの相反する2つのテーパーを融合させたテーパーをプログレッシブアクションと呼ぶ事が出来るでしょう。つまり、限りなくミディアムアクションに近いプログレッシブアクションがバンブーロッドの理想と言えるでしょう。Hexastyle Bamboo Rodのテーパーデザインは、全て、この【 Fusion Progressive Taper 】と呼べるオリジナル・プログレッシブテーパーでデザインされ、キャスティングのし易さと耐久性の両立を可能にしています。 誰にでも使い易いロッド、永く使えるタフなロッドは、適切なテーパーバランスと耐久性のあるシャフトから生まれます。バンブーロッドのテーパーやアクションを決定するには、実際にフィールドでキャストし、魚を釣り、数年の時間をかけた耐久性と強度のテストをクリアして、初めてそのロッドの本当の性能を知る事が出来ます。
また、ロッドのアクションや耐久性を考える上で、ロッドテーパーと共にもう一つ重要な点があります。それは、ガイドの位置や材質などです。フライロッドに通常使われているスネークガイドはフット部分が2ヶ所あり、丁度、金属製のブリッジの様に取り付ける為、シャフトの強度を上げる補強的な役目を果たします。その為、スネークガイドが取り付けられている部分は、ガイドの無い部分よりもかなり硬くなり、殆ど曲がりません。その結果、ロッドに掛かる負荷(ストレス)はガイド間に掛かる事になるので、ロッドブレイクはガイド間で起こるのが殆どです。特に細いティップ部分はガイド取り付けの影響を大きく受け易く、ガイドが付いている部分と無い部分ではシャフトの強度が大きく違って来ます。つまり、ガイドの取り付け位置がティップを折る大きな要因にもなるのです。
また、バットやミドル部分では、ガイドの取り付け位置がロッドアクションや耐久性に大きく係ってきます。この様に、ガイドの取り付け位置はシャフトに大きな影響を与えるので、ロッドのテーパーと共に考えられるべき重要なファクターである事は確かです。この様に、ロッドアクション、強度、耐久性などを考える場合は、ロッドのテーパーと共にガイドの数や位置も十分に考慮しなければなりません。例えば、銘竿と呼ばれるロッドのテーパー数値だけをコピーしても、ロッドシャフトは似た様な物になりますが、銘竿と同じロッドアクションを作り出す事は出来ません。ロッドテーパーと共にロッドアクションに密接に関係しているのは、ガイドの数や大きさ(重量)、材質、取り付け位置、また、フェルールの重量や硬さなどですが、同じアクションのロッドを目指す場合は、これらの要素がロッドテーパー以上に重要となる場合もあります。更に、ガイドの位置が悪ければ、アクションが全く違ったり、折れ易くなる場合もあります。その他にも、スネークガイドの片方のフットをフェルールに乗せてラッピングする事によって、最も負荷が掛かるフェルールへのシャフト挿入部分を補強し、耐久性を向上させる事もできます。それは同時に、シャフトのミドル部分に張りを持たせる効果も期待出来るので、ロッドアクションに影響を与える重要なテクニックと言えます。
竹には竹の釣りがあり、竹のキャスティングがあります。まずはそれを知り、習得する事もバンブーロッドを使う楽しみの一つであり、ロッドを永く使うコツだろうと思います。折れ難いロッドを作る技術と、折らないキャスティング技術、ビルダーと釣り師の絶妙のテクニックバランスで良いバンブーロッドは永く使えます。恐らく
、バンブーロッドで釣りをしている上級者たちはその事を知っています。何故ならば、弘法は筆を選ばないからです。バンブーロッドを握ればバンブーのキャスティングを、グラスを握ればグラスのそれを、カーボンロッドを握ればカーボンのキャスティングをやってのけるからです。2〜3投でそのロッドの特性やアクションを理解し、使い熟してフライフィッシングを楽しめるからです。また、使用するフライラインのウェイト(番手)や種類はキャスター自身が決める事です。フライキャスティングの基本として言える事は、必ずしもそのロッドが指定している重量のラインを使用する必要は無いと言う事です。特にビンテージロッドはPVCラインが作られる以前のロッドなので、基本的には指定するラインウェイトはシルクラインのウェイトとなります。ですから、敢えて、ヴィンテージロッドでPVCラインを振る場合はラインウェイトなどを変えて、適正なラインを探し出す事も必要となります。例えば、7フィート4番ウェイトのロッドなら、PVCの3番のWFラインを使う事も出来ます。この様にロッドとフライラインの関係は無理に指定ウェイトのラインを使う必要は無く、例えば、源流域で5ヤード以下の超ショートキャストを多用する場合などは、初めからラインウェイトを2番手上げてセットしても構いません。3番ロッドに5番ラインと言う様に、その方がロッドのパワーをリーダーやティッペット、フライまで伝える事が出来て、綺麗にターンオーバーさせる事が出来るからです。つまり、ラインウェイトを決めるのはロッドメーカーではなく、その場の状況なのです。一応、参考のラインウェイトはありますが、キャスティングレンジが5ヤード、10ヤードなのか20ヤードなのか?リーダーとティペットの長さは?風の強さは?対象魚の大きさは?フライのサイズは?ドライ?ニンフ?ウェット?それらをキャスターが総合的に判断し、その日のコンディションに合ったベストなウェイトのラインを使う事によって、よりロッドのテーパーやアクションが活きるからです。また、キャスターの癖や技術、キャスティングスタイルによっても自分に合ったラインを選ぶべきでしょう。つまり、ロッドに4#と書かれていても4#ラインを使う必要は無いと言う事です。特に、ヴィンテージロッドなどには、ラインの指定が無い物が数多くあります。私の場合、ヒゲナガなどの大きなフライや重いニンフ、ウェットフライなどを使う時はラインの番手を上げて、ターンオーバーとコントロール性を確保します。
また、フライロッドのアクションや性能についても、ティップがぶれるとか、跳ね返る等と表現される場合がありますが、殆どの場合、それはロッドの問題では無く、ラインが軽すぎたり、ロッドのパワーが勝っている場合に起こります。つまり、ロッドに合ったラインを使用すれば、ロッドを止めた時に適正なライン重量で引っ張り続けられてティップが跳ね返らずに綺麗に弧を描き続けます。また、それによって乱れの少ない綺麗なループを作る事が出来ます。但し、適正なラインウェイトと言うのはキャスティングレンジ(ロッドから出ているラインの長さによるライン重量の変化)によって変わりますので、そのフィールドがショート、ミドル、ロングレンジのどのレンジなのかで変えなければなりません。
キャスティングレンジが短ければラインの番手を1つ上げ、長ければラインを一つ下げると言うように。その日のフィールドによってラインを選択します。Hexastyle Bamboo Rod のラインウェイトは、10〜15ヤードのキャスティングレンジを参考ウェイトにしていますが、これは渓流釣りで最も多用する重要なキャスティングレンジのコントロール性を重視しているからです。勿論、対象魚が大きい場合などは、キャスティングレンジに関係なく、ロッドもラインも重い番手を使います。当然、ロッドに余計な負荷を掛けない事がロッドを守る事になるからです。竹と言う材料の性質上、繊維の強度には限界があり、1本のラインで5ヤードのショートレンジからフルラインまでの全てのキャスティングレンジをカバーする事はできません。無理をすれば出来ない事もありませんが、ロッドの寿命を縮める大きな原因にもなります。ですから、バンブーロッドをフィールドで気持ち良く使い熟す為には、その日のキャスティングレンジや対象魚の大きさによって、適切なラインを選択する事が重要になります。そして、忘れてならないのは、バンブーロッドキャスティングの神髄は『 ワイドループとスローラインスピード 』にあると言う事です。つまり、それがロッドに最も負担を掛けない方法であり、長持させる方法なのです。その中で正確なラインコントロールとプレゼンテーション、ロングキャストを身に付ける事がバンブーロッドを振るべきキャスターの技術と言えるでしょう。カーボンロッドのスピードで振ったり、強烈なダブルホール加えれば、その大きな負荷がロッドを痛め付けるだけです。ここで、少し、バンブーロッドのキャスティングに触れますが、例えば、多少のロングキャストでも、『 ロッドから風切音を出さない 』程のスローなロッドストロークとラインスピードのテクニック。つまり、『 ロースピード・ローラインテクニック 』を実戦すればよいのです。ハイスピード・ハイラインと言うテクニックや考え方もありますが、バンブーロッドの耐久性を考えれば、極端な話、フライが水面や地面に落ちずにターゲットまで届けば、鱒を釣る事は出来るのです。即ち、最低限の力でフライを正確にプレゼンターション出来れば、それ以上の無駄な力は要りません。ロッドやラインからビュン!ビュン!と風切音が出る程の無駄なパワーはバンブーロッドには必要無いのです。ですから、出来るだけ少ない力で正確にキャストする、ロースピード・ローラインキャストのテクニックをマスター、実践する事をお奨めします。時々、バンブーロッドをカーボンロッドの様に振っているのを見掛けますが、それは見ているだけでハラハラします。バンブーロッドでもカーボンロッドには負けないぞ!と言わんばかりの強烈なダブルホールを入れてのパワフルなキャスティング。ダブルホールはラインの慣性以上の負荷をロッド掛けてロッドを曲げ、更にラインスピードを上げるテクニックです。そこまでロッドに負荷を掛けてラインスピードを上げたり、ロングキャストを求めるのであれば、もう少しターゲットに近づいて、短く静かなプレゼンテーションをすれば良いのです。また、そこまでラインにパワーを必要とする強風のコンディションであれば、素直にカーボンロッドを使うべきです。そんな無理なキャスティングをしていると、どんなに丈夫なバンブーでも折れますよ!バンブーロッドは無敵の強化プラスティックとは違うのです。と言いたい処ですが、大きなお世話なので助言はしませんでしたが・・・。しかし、ロッドが可哀そうなのでチャンスが有れば助言したいところではあります・・・。また、バンブーロッドでフルラインキャストしたとか、数十センチの大物を釣ったとか、更には、60cmを掛けてへし折られたとか、そんな意味の無い自慢を耳にする事もありますが、そんな事は最新のカーボングラファイトに任せておけば良い事で、大切なバンブーロッドですべき事ではありません。折ってしまったら、ロングキャストも、大物も悲しいだけです。増して、それがビンテージの銘竿ならば悲劇と言うよりほか有りません。帰路は後悔と自責の念でいっぱいになります。鱒の代りは幾らでもいます。また釣ればいいし、更に大物を狙う事もできます。しかし、そのバンブーロッドは一本しか有りません。唯一無二の存在なのです。ムキになって力いっぱいロッドを振り、キャスティングだけで折ってしまう様な滑稽な姿は見たくはありません。それは笑い話にもりません。だからこそ、より大切に使う様に心掛けて守らなければならないのがバンブーロッドなのです。
釣竿には鱒を釣ると言う仕事が最も重要ですが、現代のバンブーロッドが持つ意味や目的はそれだけではありません。優雅にキャストして、完璧にフライを送り込む、ゆっくりと合わせて魚を捕り込み、素早くリリース。或いは、忍者の様に気配を消してストーキングし、極限まで魚に近づいたらショートキャスト一発でフライをフィーディングポイントに落として決める。そんな、全く無駄の無い動きとテクニックでフライフィッシングを完結させる上級者の道具です。そして、永く使い熟してフライフィッシングを楽しむ。宝物は宝のごとく扱われるべきであり、現代のバンブーロッドはそんな道具だと思います。私も永いことペインやレナード、オービスに代表される銘竿と呼ばれるロッドで実釣して来ました。そして、それらのトンキンケーンのソリッドロッドに対する強度や耐久性などの不満は全くありません。キャスティング性、コントロール性も勿論の事、ロッド重量に関しても8フィート以下のバンブーロッドを重いと思った事は一度もありません。逆に、その適度なロッド重量がキャスティング時のロッドのブレを防ぎ、真っ直ぐに振る効果をもたらします。グラファイト製のフライロッドはテーパーデザインによっては素晴らしいキャスティング性能を実現できるのですが、特に3番ロッドなどの低番手では魚のバラシが多くなります。それは、ティップが硬く、強過ぎるので、元に戻ろうとする強い力が
フライラインを引き戻してしまうからです。その結果、ロッドティップは真っ直ぐに伸び切り、フライラインは弛んでテンションが掛からない状態になります。そして、魚の動きにロッドティップが追従できなくなりバラシてしまうのです。それは、テーパデザインだけでは解決できない、避けられないカーボンロッドの弱点でもあり、キャスティング性能優先のカーボンロッドの宿命でもあります。特に軽さと強さを追求したハイモデュラスカーボンほど顕著になります。ただし、高番手のラインやロングレンジキャストの場合は、フライラインの重さでロッドティップには常にテンションが掛かるので魚をバラシ難くなります。ですから3、4#の低番手ロッドや、特にショートレンジの釣りでは、バンブーロッドやグラスロッドの柔らかいティップがフライロッドに向いていると言えます。また、カーボンロッドの様に中空構造で硬すぎるティップをソリッド構造に変える事でも、柔軟性(フレキシビリティー)を持たせる事ができます。ソリッド構造にすると、多少、重量は増しますが、曲げに対する限界点も高く、耐久性も格段に向上します。海釣り(船釣り)用のロッドには耐久性と強さを考慮したソリッド構造のロッドが数多くあります。船の底物釣りでは大物に対応できる能力と、キャスティングしないと言う前提が有るので、ロッドの軽量化よりも寧ろ強度と耐久性が要求される場合が多く、漁師さんは昔から信頼性の高いソリッドグラスのワンピースロッドを使っています。
また、Hexastyle bamboo rodにはフライロッドのラインナップだけで、ルアーロッドは作っていません。その理由も『竹の強さとロッドテーパーの限界』から来る物であり、フライフィッシングだけに拘っているとか、ルアーフィッシングが嫌いだから、などの理由ではありません。20年以上前からバンブー製ルアーロッド製作のリクエストも有りましたが、敢えて断ってきました。私自身も、ルアー釣りのキャリアは長く、子供の頃から数十年もやってきました。特に渓流や源流ではウルトラライトタックルを使い、軽くて小さなスピナーや5g以下の小さな昆虫のプラグを使って釣るのが大好きでした。ルアー釣りの場合は、小さく軽いルアーをピンポイントで打ち込む繊細なキャスティングを要求されるのに対して、釣れる魚が大きいと言う傾向があります。つまり、ティップは限りなく細く、繊細にして、バットは魚を速やかに寄せるために、強く硬くしなければなりません。その極端なテーパーのロッドを竹で作ると、細いティップ部分に極端な無理が生じます。更に、軽くて取り回しが利く、6フィート以下のロッドを作る場合は尚更です。ロッドテーパーは極端なファーストテーパーになり、その細くなって行く部分に負荷が集中し、細いティップが折れ易くなるのです。つまり、小さく軽いルアーの投げ易さと、魚を寄せるロッドパワーをバンブーロッドのテーパーだけでは両立できないからです。実は、この事に竹製のフライロッドが生き残ってきた理由の一つが隠されています。昔は、餌釣りもルアー釣りも、フライフッシングも全ての釣りで竹製のロッドが使われていたのは周知の通りです。しかし、グラスファイバーや、カーボンファイバーの登場で最も恩恵を受けたのは、フライロッドでは無く、実は、餌釣りや、バス釣りを含むルアー釣りなのです。それは、グラスやカーボンファイバーは軽く強い素材なので、細くて繊細なティップと太くパワフルなバットを両立させた、短くて耐久性のあるシャフトにする事が出来たからです。しかし、フライロッドは長くしなやかなロッド全体を使ってキャストする物なので、ロッドを細く、短くする必要性が無く、竹と言う素材でも十分に製作が可能だった事が、今でも第一線で活躍している理由です。つまり、ルアーロッドとして理想的な「超ファーストアクション」のロッドテーパーは、竹では無くカーボン素材が最も得意とするところだからです。その為、現在でも竹でルアーロッドを作る必要性は見当たらず、短かければ折れ易い、と言う竹のリスクを無理に背負ってまで作ろうとは思えないのです。また、ルアー釣りの中でも、特にバス釣りなどでは、大きく太いフックやトリプルフックを使う事もバンブールアーロッドを作らなかった理由の一つです。フライフィッシングでは、大型のストリーマーを使う特殊な場合を除き、殆どが昆虫を模す為に、非常に小さなフックを使用します。その小さなフライフックは、柔らかいフライロッドでも、
ほんの少しのテンションでフッキングしますが、ルアーの大きく太いフックで口を貫通させてフッキングさせるには、大きく強い力で合わせる必要があるります。その為、テンションの掛かり易い硬いロッドが要求されるからです。ですから、基本的に竹でルアーロッドを作るのは非常に不利な点が多く、カーボンロッドの方が、より実用的だと思えるからです。
バンブーロッドを造る上で、自分がどれだけキャストしても、どれだけ釣りに行っても、どれだけ魚を釣っても、自分のフライフィッシングが上達すればする程、銘竿と呼ばれるロッド達の性能の素晴らしさを思い知らされるばかりです
。勿論、使う側が未熟であれば、それら銘竿の素晴らしさを理解する事はできないかも知れません。まずは能書きは要りません。できれば、世界的な銘竿と呼ばれるロッドを使ってみる事です。そこから、フライフィッシングやフライキャスティングの本質が見えて来るでしょう。何故ならば、それら世界的銘竿を評価している世界のフライフィシャー達は、日本人よりも遥かにフライフィッシングに精通しているからです。Hexastyle Bamboo Rod はそれらを超えるロッドテーパーを造れるとは考えてはいませんが、求めて来たのは、それらの素晴らしいキャスティング性能を有するバンブーロッドに、更なる耐久性と強度をプラスして、よりタフで実釣なバンブーロッドを造る事です。そして、研究開発して来た結果がオリジナルテーパーデザイン『 Fusion Progressive Taper 』や『 Second Generation Epoxy 』と呼ばれる工業用ハイテク接着剤の使用です。
バンブーフライロッドの製作工程の研究はこれから先も続いて行くとは思いますが、私自身、カーボンロッドを否定する事もありません。今迄に数多く世の中に出回ってきたカーボンロッドですが、それらの中でも特に忘れる事が出来ない1本の銘竿があります。それは、’90年代初頭に発表されたG.Loomis GLX 9'00 8# のロッドです。当時、アメリカで話題になっていたこのロッドがどうしても欲しかったので、日本の輸入代理店がジャパンモデルを輸入発売する前に、アメリカからUSAモデルを取り寄せて使ってみました。かのスティーブ・レイジェフがデザインと言う触れ込みのこのロッドにラインを通し、初めて振った時の感動は今でも忘れる事は出来ません。全く力む事無く、軽くキャストしただけでフルライン以上のラインがいとも簡単に飛び出して行く、まさに別世界のキャストフィーリングでした。ハイモデュラスカーボンの軽さも驚異でしたが、その完成されたロッドテーパーは完璧としか言い様がありません。それと、フライロッドに付き物だったスネークガイドではなく、ラインが擦る抵抗が少ないシングルフットのガイドになっていた事も驚きでした。強度が十分のカーボンロッドだから、シングルフットガイドの方が良いのは当然です。世界一のキャスターだからこんなロッドがデザイン出来たのだと、つくづく思い知らされました。まさに魚釣りよりもキャスティングその物の方が楽しくなるロッド、それが繰り出すナローループを見ているだけで幸せになれるロッドでした。サーモン釣りや海のアメマス釣りで大活躍したロッドですが、残念ながらもう15年以上も遠ざかっています。その後、新しいカーボンロッドに触れる機会は殆どありませんでしたが、当時はこのロッドの性能に十分満足し、カーボングラファイトロッドにこれ以上の物を求めようとは思わなかったからだと思います。また当時、実釣で良く使っていたのは、’80年代後半のThomas & Thomas のロッドでヘリテイジシリーズのベイティスと言うモデルでした。ベイティスは7’06”の#3で、カーボン素材にしては少し柔らかく、硬過ぎないアクションが好きで使っていました。当時のカーボンロッドはハイモデュラスカーボンによる軽量化とファーストアクション化が進んでいて、低番手のロッドにも山女魚釣りに使えるロッド殆どありませんでした。そんな中で唯一、繊細な釣りが出来るロッドとして使っていたのが、このベイティスでした。また、
この頃はバンブーロッドも併用していたので、同時にライトラインに於けるバンブーフライロッドの優位性も知る事になりました。3#・4#などのライトタックルでは、チューブ構造のカーボンシャフトを如何に細く作っても反発が強すぎるのです。キャスティングだけなら圧倒的にハイモデュラスカーボンに軍配が上がるのですが、それが実釣となると、硬過ぎるティップがどうしても魚の動きに追従できない弱点を露呈してしまいます。岩魚釣りならばまだ良いのですが、特に山女魚の細かい動きや鋭い走り、ローリングなどには硬いティップが追従できずに跳ね返り、ラインテンションが緩んでフックが外れ易くなります。その結果、山女魚釣りにはバンブーロッドが最適だ、いや、山女魚釣りだからこそバンブーロッドの出番なのだと思う様になりました。それと、バンブーロッドは虹鱒釣りにも最高です!あの虹鱒の高いジャンプ!虹鱒のジャンプでフックを外されない為には、高くホールドしているロッドをジャンプと同時に下げて前方に送り出さなければなりません。つまり、フライラインを鱒の動きに追従させなければフックを外されます。それには、硬いカーボンロッドでは都合が悪く、ジャンプ一発、すぐに逃げられてしまいます。ところが、バンブーロッドはと言うと、そのロッド自身の柔らかさがラインのテンションを緩める事無く追従させるのです。だから、ジャンプでバラす確率も断然低くなります。但し、あまり大き過ぎる虹鱒は避けた方が良いでしょう!竹竿で寄せるには手強すぎるし、大切なロッドを折ってしまえば元も子も有りません。

Part #5

竹と熱の真実を検証する。竹を殺さない製法 - Non flame method 非炎製法 )
Truth and secrets of bamboo. Bad influence to the bamboo cells.

ジム・ペインが完成させた【 Brown Tone 】と呼ばれる、かの有名な赤味を帯びた濃い茶色。フライフィッシャーの羨望の的であるあの美しいロッドシャフトの色は、実はフレーミング加工と言う火で焦がす着色方法による茶色ではありません。また、仕上げのバーニッシュ(ワニス)の色でもありません。勿論、茶色い塗料を塗っているのでもありません。それは、ナチュラルカラー(ストローカラー)の竹をアンモニアガスを使って濃い茶色に染色した物なのです。それは、植物に含まれるフラボノイドの一種である「タホキシリン」と言う物質が、アルカリ性のアンモニアガスによって濃褐色に変色する性質を利用した、化学染色(着色)と呼ばれる方法です。化学染色は特殊な着色方法の一つで、水や液体、火などを使わないので、被染色物である竹の組織や繊維、細胞に変質や分解、過度の硬化などのダメージを殆ど与えずに着色できるメリットがあります。因みに、火で焦がす着色方法(フレーミング)では、焦げ方に斑ができてしまい、ジム・ペインのブラウントーンの様にシャフト全体を完全に均一な赤茶色にする事はできません。また、フレーミングでは無く、オーブンによる加熱でペインのブラウントーンレベルの色合いまで焦がすと、シャフトを硬くし過ぎると同時に細胞を熱で劣化させるので、竹その物の柔軟性や弾力性を低下させてしまいます。現在、ロッドの着色方法として一般的に行われているフレーミングと呼ばれる、「炎で竹の表面を焦がして茶色に変色させる」方法は、竹(植物)の細胞にとっては、非常に危険な着色方法であり、色を濃くしようと高温で焼き過ぎると、表面近くのパワーファイバーや、それを結束している柔細胞を炭化劣化させ、弾力性や結合性をを破壊する可能性があります。その為、ジム・ペインは、熱が植物細胞に及ぼす悪影響を考慮して、唯一、竹の細胞にダメージを与えない、このアンモニア染色と言われる化学染色を選んだと思われます。バンブーロッドの製法については、昔からメジャーなロッドメーカーが企業秘密としていた為、殆ど公開される事はありませんでした。しかし、近年になって一部のHow to 本などでバンブーロッドの製法が紹介されましたが、それは大手バンブーロッドメーカー達が企業秘密としていた製法ではなく、個人で作る個人の為のバンブーロッド製法、つまり、ホームビルダーと呼ばれる自分の為のロッドを作る人々の製法でした。ただ、実際にバンブーロッドを作るとなれば、その製法はごく少ない情報から学ぶしか無く、世界中の誰もがその少ない情報からバンブーロッドを作って来たのは仕方が無かったとも言えます。これは有名な話しですが、ジム・ペインはバーニッシュを含めたロッドシャフトの最終仕上げを、一人、鍵の掛かった部屋で行い、社員や友人すら、その工程を見る事が出来なかった事が伝えられています。これは、当時からペインロッドの美しいバーニッシュ仕上げを多くの著名なフライフィッシャー達が称賛していた事実を伝える伝説ですが、恐らく、この極秘にされていたペインロッドの仕上げの中には、アンモニア・タンニングも含まれていたと考えます。その為、この製法は一般に知れ渡る事無く、ペインのオリジナル製法として彼のロッドにのみ与えられた美しい色だったのだと思います。当時の顧客を含め、彼の周囲の人々はこの真実を知り得なかったので、ペインのBrown-Toneをバーニッシュ技術の賜物、神業などと、塗装技術の高さとして評価していたのは今に伝えられている通りです。
フレーミング加工でシャフトをマダラ模様に焦がされたバンブーロッドを初めて見た時は、その茶色い模様の美しさに衝撃を受けた記憶があります。それは、アメリカの東部の有名メーカーのロッドでしたが、当時、一般的だったブロンドのナチュラルカラーのロッド達が色褪せて見えた程です。それ以来、私の中ではフレーミング加工によるムラのある茶色こそがバンブーロッドの美しさだと思い込み、ロッドを作り始めてからも、当然のごとくフレーミングで表面を焦がしていました。しかし、事件は起こるべくして起こった様に思います。或る時、シャフトカラーを更に濃い茶色に、そう、ペインのBrown Toneの様な茶色に近づけようと、表面をいつもより長い時間バーナーで炙ってみた時の事です。真っ黒に焼け焦げた表面のエナメル質を剥がし、竹の地肌を出してから更に表面を平らに削っていると、何と表層近くのパワーファイバーがパラパラと剥がれてバラけてしまったのです。シャフト全体を茶色にしようとする余り、表面のエナメル質を焼き過ぎて下のパワーファイバー繊維まで加熱し過ぎていたのです。それは、パワーファイバーを纏めている竹の柔細胞を加熱によって炭化させ為、結束力を壊してしまったのだと解かりました。バンブーロッドで最も重要なパワーファイバー繊維を纏めている細胞(柔細胞)は、それほど高くない温度で劣化(熱分解)するのです。更に、パワーファイバーの繊維その物も、茶色に変色するまで加熱するとファイバー自体も炭化硬化して弾力性を失い切れ易くなります。この様に細胞を熱で硬化劣化させる行為を、一般的にはロッドを硬くする、或いはロッドに張りを出すと表現しているのですが、いったい何度まで加熱しても良いのか?表面をどの位、焼いても竹の細胞が壊れないのかと言う、確実な情報は有りませんでした。そして、それ以来、表面をフレーミングするのは最小限に留め、竹の繊維と細胞を炭化から守るように心掛けました。しかし、トーチで竹の表面を焼きながら、何時も心の中では不安に思っていました。もしかしたら、この黒焦げのエナメルの下で茶色に変色した竹の細胞は炭化しているのではないか?もしかしたら細胞が壊れて繊維が切れているのではないだろうか?パワーファイバーは結束が壊れてバラバラになっているのではないか?格好の良い茶色のシャフトにしようと耐久性を犠牲にしているのでは無いだろうか?そう思うと、どうしてもストリップが茶色になるまで竹を焼く事が出来なくなっていました。因みに、フレーミングに使うトーチ(ガスバーナー)の炎の温度は約1.500℃あります。竹の本体を茶色にするには表面のエナメル質を真っ黒に焦がす必要がありますが、そのエナメル質が燃える温度は1.000℃近くです。また、ストリップの曲げ直しをするアルコールランプの温度も最高点で約1.000℃に達します。また、良く使われるヒートガンの温風も500℃前後です。つまり、どれを取っても竹の細胞が炭化劣化を始める温度(170℃)よりも遥かに高温で加熱する事になるので、竹の細胞を破壊してしまうのです。フレーミングや火入れによる高熱で竹を焦がして茶色に変色させる方法は、表層のパワーファイバー繊維とそれを束ねる柔細胞を熱劣化(炭化)させる事になり、竹を硬くしたり、反発力を増す効果は多少あったとしても、同時に弾力性や柔軟性、耐久性を損なうリスクが大きくなります。フレーミング加工されたロッドシャフトは、短期間の使用であれば、硬さと張りをが増したと感じさせますが、逆に熱劣化(炭化)による竹細胞の柔軟性、耐久性の低下によって長期間の使用には耐えられないと考えられます。アメリカなどで公表されているペインロッドに関する資料や伝記などには、『フレーミングでBrown-Toneに仕上げているペインロッドは・・・・』、と平然と書かれている物もありますが、恐らく、それは『茶色=焦がす』と言う、著者の勝手な思い込みと思われます。事実、フレーミングによる表面処理では茶色に濃淡ができ、斑が出来てしまいます。つまり、実際のペインロッドの様な焦げ斑の無い、均一なBrown-Toneには仕上がらないのです。更には、ペインロッドの実物と同じ程度の茶色になるまで焼いて焦がすと、前記の様に竹の柔細胞が完全に熱劣化で脆くなり、パワーファイバーがバラバラに剥がれてしまいます。
では、レナードを始め銘竿と呼ばれるロッドの、その殆どがブロンドカラー(ナチュラル)なのは何故でしょうか?世界的な銘竿を輩出して来たイギリスのハーディー、フランスのペゾン、その他ギャリソン等々、その殆どがナチュラルのブロンド・ストローカラーです。そのフレーミングを施さないナチュラルブロンドのロッドシャフトこそが、レナード、ハーディー、ペゾンを初めとする銘竿達を現代まで数多く残してきた最大の要因と考えられます。フレーミングによるカラーリングがブームになって来たのはここ30〜40年程の事ですが、竹を炎で焦がすフレーミング着色の技術自体は決して新しい発明でも無く、最近のテクニックでもありません。竹を火で焼けば硬くなる事は世界中で千年以上前から知られている事であり、釣り竿以外の道具作りに誰もが使って来た技術です。では、レナードに代表される100年以上前のロッドメーカー達はフレーミングの技術や効果を知らなかったのだろうか?いや、そんなことは無いでしょう。恐らく全てのロッドメーカーは、当然、その知識も持っていて、フレーミングされたロッドのテストも行われたと思います。但し、一般向けに製品化されていたかどうかは、フレーミングロッドが殆ど現存していないので知る事は出来ません。ただ、それらのフレーミング仕上げが現在、殆ど残っていないと言う事実は重要です。竹を火で焼くと、硬さと張りは出せるが、弾力性と耐久性に欠けた折れ易いロッドになると解かっていて作らなかったのか?或いは、作ったロッドが殆ど折れたので現存していないのか?その答えは、作られなかったと理解する方が正しい様な気がします。現在の様に素晴らしい性能を持つカーボンロッドが発明され、フライキャスティングやロングキャストが容易になった環境では、誰もがフライロッドにその扱い易さを求めるのは当然の流れだったと思います。その結果、必然的に前世紀の道具であるバンブーロッドにも、カーボンロッドの様な扱い易さが求められ、より強く、軽く、キャスティングし易いバンブーロッド、カーボンロッドにも引けを取らない様なバンブーロッドを目指す必要があったのは理解できます。しかし、言い換えれば、カーボンロッドの登場と共に消え行く運命にあるバンブーロッドを延命させるための措置だったとも言えるでしょう。カーボンロッドが全盛の今、扱い難いバンブーロッドが唯一、生き残る方法として取られた措置。それが、近年のアメリカに於けるフレーミングや中空構造の広がりだと思います。つまり、現在作られているバンブーロッドの殆どは、過去の銘竿達の様な耐久性が全て、と言う釣り竿の原点では無く、寧ろキャスティング性能を含めた、一時的にでもカーボンロッドに匹敵する能力を持たせたいと言うコンセプトで作られているのです。つまり、バンブーロッドの釣り竿としての本来の使命である耐久性を犠牲にしてまで、軽く、硬く作る事を目指して生き残ろうとした結果だと言えるでしょう。
話は戻りますが、ロッドシャフトのカラーは好みの問題だけでは無く、その加工や製法がバンブーロッドの耐久性に大きく係ってくるのは前記の通りです。簡単に言えば、フレーミング(焦がす)=炭化=硬化、と言う事になりますが、硬化させてロッドに反発力を出そうとすると、同時に弾力性と柔軟性を失い、曲がりに対する耐久性を著しく低下させてしまいます。レナードはそれを重視していた為、炎による竹細胞の炭化・熱劣化を避けて、その殆どをヒートトリーティングのみのブロンドカラーにしていたと考えられます。それも、シャフトの色を見る限りでは、あまり高温、長時間の加熱は避けていたと思われます。因みに、現在もアメリカのメジャーなメーカーの中には、最初から最後まで全く竹に熱を加えずに製作しているところもあります。勿論、それらのロッドは表面を火で焼く事はないので、シャフトのカラーはナチュラルのブロンド・ストローカラーのみです。10年以上の時間を掛けた長期間の自然乾燥のみで竹を硬くし、更にそれをマシンカットでストレートなストリップに切り出してロッドシャフトを作っています。特筆すべきは、初めから大きく曲がっている竹は、焼いて曲げ直して使うのでは無く、廃棄しているのです。そして、残った約10%の真っ直ぐな竹のストリップのみがロッドになるのです。また、接着後のシャフトは、接着剤の劣化防止と耐久性を維持するために加熱による曲げ直しはしないので、シャフトが多少曲がっている物も多いようです。つまり、あらゆる点で、竹の柔細胞やファワーファイバーを熱によって殺す事無く、更には、バインディング後の接着剤まで熱劣化させない事で、強度と耐久性を維持しているのです。
幸いにも、竹と言う植物を日常生活の中で普通に使っている日本人ならば、他にも判る事が沢山有ります。例えば、焼き鳥の串です。誰もが馴染みの竹串ですが、御存じの通り直径が1〜2o程度の竹製です。それも、硬さを出す為に竹の外側の部分、つまりパワーファイバー部分を使って作られています。プロの焼き鳥屋で食べる場合はあまり見かけませんんが、自分で焼いた場合などには、よく、肉から出ている部分の串が焦げて折れてしまう事があります。真っ黒に焼け焦げてしまうと、焼き鳥を持ち上げる前に折れてしまい、持てなくなってしまいます。また、真っ黒とまでは行かなくても、少し焦げて茶色に変色した状態でも、食べている最中に手元が折れたり、曲がったりする事もあります。つまり、焼き鳥の竹串ほどしか無いバンブーロッドのトップ部分が如何に熱に弱いかと言う事がが良く解かります。自分のバンブーロッド先端部分が焦げた焼き鳥の竹串と同じだとイメージするのは実に恐ろしい事です。因みに、竹串メーカーも竹の強度と耐久性を増す目的で、バンブーロッドと同じ行程のヒートトリーティングを行っています。但し、温度はバンブーロッドのそれよりは、かなり低く約60〜70℃のようです。高温にしない理由としては、竹串を明るい竹色(ブロンド)に保つためで、高温加熱による変色を避ける為に70℃以下に抑えているのです。
また、ロッドメイキングでは普通に行われている火入れと呼ばれる作業も、バンブーロッドにとっては非常に危険な一面を持っています。元々のバンブーロッド用語では、『火入れ』では無く『熱処理(Heat Treating)』なのですが、日本では和竿の製造方法の中で、竹を直火で炙る事から、火入れと言う用語が使われています。ヒートトリーティングとは直火などの高温に晒す事では無く、オーブンなどを使って一定時間、一定の温度を保った状態で熱処理・加工する事です。そもそも、何故ヒートトリーティングをするのか?それには、幾つかの目的がありますが、一つは竹(植物)に含まれている水分を抜く行程です。それには2種類の水分があり、一つは【自由水】と呼ばれる普通に竹の中に含まれる水分で、もう一つは、【結合水】と呼ばれ、植物の細胞壁を構成しているセルロース、ヘミセルロース、リグニンなどを結合させている水分です。ヒートトリーティングはこの中の【自由水】と呼ばれる水分を竹から強制的に蒸発させる工程です。自然の竹は中に豊富な水分を維持する事によって弾力性を持ち、強風でもしなやかに撓み、折れる事無く成長します。しかし、竹で釣り竿を作る場合には、青竹は重く、しなやか過ぎて張りが足りない為、乾燥させる事で水分を抜き、張りを持たせます。確かに、水分を抜く事によって、水の重量だけ竹は軽くなりますが、自然乾燥だけでは強度や耐久性に限界があり、十分乾燥させて張りと硬さを出した竹でも、折れ易く曲がり癖が付き易い物です。そこで、強度の限界を高め、竹を更に強い素材に変える為に、昔から強制乾燥や加熱による竹の細胞の強化が研究されて来ました。オーブンによる自由水の蒸発後に、更に加熱する事によって結合水まで蒸発させて細胞を炭化させると、竹が更に硬くなり、張りを出せると言う考え方もあります。しかし、これもフレーミングと同じで、加熱するほど硬くなりますが、同時に細胞の弾力性が失われて行きます。まだヒートトリーティング(熱処理)が竹に及ぼす影響を研究していた頃の事例ですが、電気オーブンで火入れ作業を行っていた時に、180℃で15分加熱の予定が、気付いた時には既に200℃で30分以上加熱していた事がありました。勿論、そのスプリットは茶色く焦げている程ではありませんでしたが、多少、暗色に変色していました。そして、そのエナメル質を剥ぐと、やはり下のパワーファイバーがバラバラに剥がれて来ました。それは、オーブンによるヒートトリーティング(火入れ)でも、ストリップの色が変わるまで加熱すると、柔細胞(木質細胞)が熱によって劣化してパワーファイバーの結束力を低下させる事が解かります。竹の細胞を構成するセルロース、ヘミセルロース、リグンンなどは、約170℃から熱分解と呼ばれる炭化が始まり、細胞の結合が壊れ始めます。その為、竹の強制乾燥や強化の為のヒートトリーティング(火入れ)は170℃を越えない範囲で行われる必要があります。つまり、パワーファイバー同士の結束を維持する為には、柔細胞が炭化する温度以下で熱劣化を防ぎながらストリップの強化をしなければなりません。即ち、170℃以下でヒートトリーティングする事は、竹を強制乾燥する作業であり、細胞を熱分解で劣化させる事無く水分を抜き、竹の強度と反発力を高める事なのです。これらの事から、見た目よ良くしようと行われる、着色の為のフレーミング、つまり、シャフトの表面を炎で焦がして茶色にする方法は、竹を硬くする効果以前に、パワーファイバー同士を繋ぎ止めている竹の木細胞を熱によって破壊し、脆くしていると言えます。次に挙げる例は、ロッドビルダーでなければ解からない症状かも知れませんが、ストリップを削って行く工程の中で、鉋の刃が少し深く入った際にパワーファイバーが束で剥がれて来る事があります。これは、鉋の刃をどんなに鋭く砥いでいても、刃がパワーファイバーを切削する前に、少し大きな力が加わった時点でファイバーを結束している木細胞が壊れてしまうからです。その為、鋭い刃で削ろうとしているにも係らず、パワーファイバーが手で裂かれた様に割れて、剥がれてくるのです。多くの場合、ロッドビルダーはこの状況を、鉋の刃が切れなくなっていると思い込み、より鋭く砥ぎ直そうと考えます。しかし、これは、刃が切れないからファイバー剥がれたのでは無く、ストリップ(竹)を170℃以上の高温に加熱しすぎた為に、パワーファイバーを束ねている木細胞(柔細胞)が劣化して壊れ易くなっていたから起こったと考えるべきでしょう。
地域にもよりますが、竹は北海道のような空気が乾燥した土地では、10年の自然乾燥でかなりの水分が抜けて硬く乾燥します。また、梅雨が無いので、カビが生える事も殆どありません。因みに、アメリカ、ニューヨークのキャッツキル地方の気候・風土は北海道のそれにとても良く似ています。冬は雪が降り、空気もかなり乾燥します。実際、丘陵地帯であるキャッツキルの山々見ていると、まるで北海道の山に居るような錯覚さえ覚えます。話は戻りますが、ヒートトリーティングの時間に関しては、竹に残存している水分(自由水)の含有量によって変わるので、何分が良いと言う正解はありません。やはり、答えを求めるのであれば、乾燥強化したストリップを折ってみる事で、強度を調べる他はありません。一般的に植物細胞の炭化とは炭(カーボン)になる事で、例えば、木を炭化させた木炭は硬くて全く曲がりません。また、伸び縮もしません。極端に言うと折れるか割れるかのどちらかです。折れると言うのは道管など維管束(ファイバー)と呼ばれる縦方向の繊維が切れる事で、割れるとは、縦の繊維をを束ねている柔細胞が壊れる事を指します。ですから木や竹を炭化(熱分解)させても、竹の細胞が強くなるのでは無く、逆に硬くなって弾力性や伸縮性が失われるのです。例えば、カーボンロッドに柔軟性や弾性をもたらすのは、カーボンの繊維ではありません。カーボン繊維自体にはゴムの様な伸縮性は無く、それを包み固めているエポキシ樹脂に柔軟性や可撓性があるのでカーボンロッドに弾力性が生れるのです。
バンブーロッドと加熱の関係を調べて行くと、全く『火入れ』をしない製法、つまり、乾燥した地域で長期間自然乾燥させた竹は強制的に『火入れ』する必要は無い。或いは、寧ろ加熱しない方が細胞も劣化ない分、耐久性もあ伴う。と言う研究結果を欧米のメーカーが発表しているのを目にします。そして、私も様々な研究や経験から『火入れ』と言う作業その物に疑問と不信感を持ち、納得できない部分と、その本質をより深く追求しようと考えました。やはり何処か変だ。竹を高温で焼く事で、本当に竹を乾燥する以上のメリットが有るのだろうか?一般に言われて来た、加熱して炭化させる事で竹が強くなる、カーボン化する、強度が増す、ヤング率が向上する、弾力性が増す、などは本当なのだろうか?そして、そのディメリットは・・・・?いつ、誰が言い始めたのだろう?いつ頃から、煙が出るまで真っ黒に焦がしても良くなったのだろう?世界的に有名なロッドメイキングのHow to 本だろうか?私を含め、世界中の殆どのビルダーが少なからず影響を受けた、その伝説のHow To 本の製法を全て信じ切っていたからなのだろうか?或いは、あまりにも情報が少な過ぎたのか?そして、何度、実験しても結果は変わりません。加熱して炭化するほど硬くなって脆くはなるが、弾力性や耐久性を維持する事は出来ないと思いました。これらの竹の硬化はカーボンロッドの強さに対する憧れなのか、バンブーロッドの弱さを払拭したいのか?或いは、和竿の影響なのか?竹は焼くと強くなる、と言うのが実しやかに語られ、誰もが疑う事は無かったのは確かです。これらの加熱や焼き、焦がしなどの加熱は、竹を強くしているのでは無く、硬くしているだけなのです。これこそがバンブーロッドの釣り竿としての耐久性を落とす最大の原因となっているのです。WEBサイトを調べていると、釣り好きな欧米の大学教授がバンブーロッドメイキングに於ける竹と熱に関する科学的実験や研究のデータを公表しているサイトもあります。結論としては、やはり、竹の細胞は加熱する事によって多少、硬くする事はできるが、ある温度以上になると逆に竹の柔細胞やファイバーが熱分解(炭化)するので、竹の細胞自体が劣化して脆くなり、壊れ易くなってしまう。過度の加熱はバンブーロッドメイキングにはお奨めできないと言う物です。つまり、ある程度、加熱する事はバンブーロッドを硬くする効果はあるが、どの程度まで加熱するのかが重要で、加熱し過ぎると逆効果になると言う事です。ヒートトリーティングの温度や時間については好みや、考え方によって色々な意見があります。しかし、反発力を求めて硬くすると、当然、同時に弾力性や耐久性が失われて行くので、耐久性を落としてまでキャスティング性能の為に硬くするのか、或いは、実釣の為に弾力性を残して耐久性を向上させるのかは、意見や考えが分かれるところです。但し、それらの両方をクリアーするポイントは、科学的にも確定できないと言うのが、天然素材に対する答えでもあります。ヒートトリーティング(加熱処理)は、やはりバンブーロッドにとって重要不可欠な処理である事は確かです。その本当の目的と効果は、竹が炭化し過ぎない程度の温度処理で竹から水分を抜き、細胞を多少硬化させる事によって、ストリップの【復元力、反発力】を高めて、曲がり癖を付き難くするのが目的です。竹を硬くして反発力だけを増すのは、ロッドが折れるリスクを高めるだけで、硬いロッドほど短命に終わります。ですから、バンブーロッドにキャスティングのし易さや、好みのアクションを求めるのであれば、竹を焼いて硬くするのでは無く、テーパーデザインや竹質で作り上げるべきだと思います。
私事ではありますが、ペインのロッドを手に入れた時の衝撃は今でも忘れる事ができません。当時はまだ、詳しく調べる以前だったので大きな疑問ではありました。この美しいシャフトの色はどうやって付けるのだろう?フレーミングで焼いているのだろうか?しかし、シャフトには斑や濃淡が無く、ティップからバットまで均一に美しい赤茶色で仕上げられているのでフレーミングで無い事は判りました。では、ペンキが何か、塗料で着色しているのだろうか?いや、それも違う。竹の表面にはパワーファイバーのラインが見えているし、透明感もある。色々考えてはみましたが、その時は全く判りませんでした。後になって、Webの発達と共に少しづつ情報を集められる様になり、色々と判って来ました。ジム・ペインも、その後継者であるウォルト・カーペンターも Brown Tone についての詳細は公開していませんでしたが、アメリカのWebサイトには、それらしき秘密を公開しているサイトも幾つかあったので、少づつ調べ上げ、分析・研究して知ったのがアンモニア・タンニングによるBrown Tone でした。更に、それを研究・分析している内に、シャフトのブラウンカラーについて、全く違う視点からも考える様にもなりました。もしかしたらBrown Toneはシャフトの色を美しい茶色に仕上げる為だけでは無いのでは?ペインもレナードも、基本的にフレーミングによる表面の焦がしを行っていないのは、加熱による竹の劣化を防ぐ為であり、耐久性のあるロッドシャフトはナチュラルブロンドカラーが当然だったからだと思います。また、これも研究途上ですが、アルカリ性の薬品には木材を茶色く変色させる性質の他に、木材の細胞を柔らかくする性質があります。それを使って行われている『アルカリによる木材の曲げ加工』と言う技術は、古くからヨーロッパなどでも家具作りや木工業界で行われていました。ただし、ジム・ペインがその技術をバンブーロッドに応用して、シャフトの曲がりを矯正したかどうかは、当時のロッドメーカーの企業秘密だったので今では知る術はありません。残念ながら偉大なロッド、偉大なメーカー達はその製法を全て公開する事無く逝ってしまいました。グラスロッドやカーボンロッドが発明される以前は、それらのバンブーロッド製法が企業秘密にするだけの価値のある最先端の技術だったからです。今でも、当時のメーカーを受け継ぐビルダーが多少残ってはいますが、彼らも、それら当時の製法を全て公開する事はありません。
また、『熱が竹に与える影響』に関する研究の中で、更に重要な問題点もあります。これもバンブーロッドメイキングで普通に行われている作業で、鉈で割った竹の節の曲がりを、火やバーナーやヒートガンなどで加熱して、曲がりを直す『節の曲げ直し(ストレートニング)』と言う作業です。実は、これが竹のストリップにとって最も危険な行為と言える作業なのです。アメリカのバンブーロッドメーカーの中には、この作業を、竹にとっての『 Torture (拷問)』と表現しているビルダーさえいます。ハンドスプリッティングと呼ばれる、鉈や竹割り器を使って繊維に沿って割る工法で割られたストリップは、節ごとに大きく左右に『ジグザグ』に曲がっています。そして、それを真っ直ぐにする為に『くの字』に曲がっている節の裏側を真っ黒に焦げる程の温度で焼いて曲げ直します。1度の加熱で真っ直ぐにならない場合は2度3度と焼いて直します。勿論、その時点で節の前後は軽く170℃を越え、節の前後の細胞は熱分解(炭化劣化)してしまいます。更に、ストレートにならない場合には、節を曲がりとは逆方向に曲げるので、ピキピキ!ミシミシ!と音を立てて節内部の繊維が断裂(Crack)して行くのが判ります。バイスなどのプレス器具を使って節を曲げると、仮に音がしなくても節内部の繊維の接合部は確実に分離し、中にクラックが出来ています。その為、竹の中で最も強い部分である節が稈の部分よりも弱くなる事もあります。20年以上前からですが、バンブーロッドを作り始めた頃から、既にこの事には気付いていました。鉈で裂いた竹の節を火で炙って曲げ直すと、節の内部からミシミシと小さな音が聞こえてくる事でした。また、それを誤魔化す為に、手で曲げるのを止めて、万力(バイス)で挟んで伸ばしたりもしていました。しかし、それは、節が断裂して行く事に気付いている自分を誤魔化していたに過ぎません。柔かくなるまで焼いて曲げ直しても、明らかに節の細胞は、その結節を壊していたのです。恐らく、その事はバンブーロッドを作るメーカーの誰もが気付いているでしょう。しかし、How to 本に書かれているから間違ってはいない、或いは、皆がその製法で作っているのだから間違ってはいない、と言い聞かせているのかも知れません。そして、その事については今も封印され、殆ど誰も触れる事はありません。また、アメリカの有名ロッドビルダーの中には、『竹の中で節が最も弱い』と勘違いし、Webで公表しているビルダーもいます。しかし、元々節が弱いのではなく、焼かれて弱くなっっただけなのです。重要なのは、もっと竹の事を良く知る事です。真実を確かめる事です。それは、簡単な実験で解かる事なので、ビルダーでなくても、周りに竹が有れば誰でも実験する事ができるのです。まずは片っ端から竹を折って実験し、その強さと熱による影響の真実を知る事です。トンキンケインは高価なので、代わりに真竹などを使うと良いでしょう。まずは、ナイフなどで竹を半分、そして半分、半分と割って幅1p程度のストリップにします。そして、ジグザグに曲がっている節の部分を火で炙り(ヒートガン、アルコールランプ、無ければライターでも構いません)曲げ直しをしてみます。竹の裏側が黒く焦げる程度に焼くと、節や、その前後部分が柔らかくなり簡単に左右に曲がるようになり、曲げ直しできる様になります。そして、曲がり直した竹の節を挟んで30〜40cmの所を持ち、折れるまで曲げてみます。初めに竹の表面(エナメル側)を表にして曲げて折ってみます。折れるのは殆どの場合、節その物では無く、節の前後1〜2pの稈の部分が折れます。次に裏返して折ってみると、更に簡単に節の前後1〜2pの部分が折れます。これは、節を曲げ直す時に同時に熱っせられた、節前後の『稈』部分の細胞が熱分解により劣化して弱くなる為です。更に、節を焼いて熱っしながら左右に水平に曲げてみます。そして、そのまま力を加えて折れるまで曲げると、曲げ初めのほんの少しの力で節部分にクラック(ひび)が入り、簡単に折れるのが解かります。釣り竿と言うのは360度、特にフライロッドはバックキャストが重要なので、全方向の曲げに対して耐えなければならないのですが、これらの熱劣化した竹を細く削ってロッドを作った場合の強度は容易に想像できると思います。特にバックキャスト時のロッドシャフトの状態を意識して、ストリップを裏返しに曲げるテストも重要です。そして今度は全く節を曲げ直していない(炎で焼いていない)、乾燥しただけの竹のストリップを同じ様に曲げて折ってみると、その強度の違いが明確にわかります。特に、炎で焼いていない竹は、節や節の前後は全く折れない事が解かります。殆ど、節と節の中間の稈の部分の細胞がちぎれてささくれ、折れて行くのが解かります。つまり、竹の節は弱いのではなく、最も強い部分なのですが、焼かれる事によって熱劣化して弱くなるのです。少しだけ炙る 、竹から煙が出る程度まで炙る、更に縁に火が付いて燃え出す直前くらいまで炙る、など数段階に分けて加熱して試すと、更に良く解かります。ミシミシと竹の繊維が切れて行くのが分かっても、折れる前に止めてしまっていけません。完全に折れるまで曲げて、加熱の度合いとその限界点を確かめる事です。そして、節を焼いていない乾燥しただけの竹と、焼いた竹の強度や弾力を比べる事によって、焼いていない竹のストリップは非常に強く、また弾力性や復元力も有ることが解かります。つまり、細胞が熱劣化していない非加熱の竹は強さと弾力性を維持しているのです。但し、非加熱の竹は、大きく曲げると曲がり癖が付き、元に戻り難くなるので、ヒートトリーティングと呼ばれる、ある特定の温度で管理された限定的な加熱処理を施す事によって、硬度と反発力、復元力を増加させる事が出来ます。それは、竹の細胞が熱劣化で脆くなる直前付近まで、安定した温度で加熱する事によって乾燥強化させる処理です。
それでは何故、竹の細胞を壊すリスクを負ってまで、必要以上に焼いてしまうのでしょう?或いは、曲がっている節を真っ直ぐに直さなければならないのでしょう?それは、過去100年以上前から、ロッドの出来上がりや見た目の完成度に拘って来たからです。つまり、ストリップを張り合わせて作るシャフトの精度を上げる為なのです。その為に必要な事は、まずストリップを正確な三角形に削らなければなりません。つまり、三角形の精度を上げるには、出来るだけストリップがプレーニングフォームの溝にピタリと収まった方が削り易くなるからです。そして、その為には表面の節山やエナメル質、湾曲して飛び出す部分、更には表層のパワーファイバーまでフラットになるまで削り取らなければなりません。ここでの最も重要な点は、綺麗な平面にする為には、パワーファイバーや節を削り過ぎてしまう可能性が有る事です。つまり、竹の最も強い部分である表層のパワーファイバーを無理に削り取ってまで正確な三角形を削り出そうとする事です。過去の銘竿と呼ばれるロッド達の場合も、表面をよく見るとシャフトの表面に浮き出ているパワーファイバーの線が太くなったり、細くなったり変化しているのが判ります。太い部分は白っぽく、細い部分は茶色い線に見えますが、そのファイバーラインの太さや色の変化は、凹凸に歪んでいる竹の表面をフラットに削り取った際に起こる現象です。つまり、左右では無く、上下に波打つパワーファイバーの表面を削り取るので、凸部分は太く、凹部分は細く、太さが変化して見えるのです。また、ストリップがプレーニングフォームにきっちり収まるように表面を鉋やヤスリで削り取る作業の他にも、バインディング後のはみ出した接着剤をサンドペーパーで削り取り去る作業も表層のパワーファーバーを削り取ってしまいます。また、この時点で、完成したシャフトの表面を更にフラットに修正したり、六角形の精度や対面幅の精度を調整する為に、シャフト全体の表層をサンドペーパーで削り取る修正作業もパワーファイバーを傷つけます。つまり、この様にシャフト表面の凹凸を削って平らに修正する作業によって、竹の表層部分にある最も太く、強いパワファイバーが多少なりとも削られ、切断されていると考えられます。
また、節が左右にジグザグに曲がっているストリップも、上下に歪んでいるストリップと同じくプレーニングフォームに上手く収まりません。更に、節のすぐ上の部分は極端に凹んでいるので、節山を削り取るだけではストリップがフラットにならず、凹凸になります。その為、レナードやペインの時代から行われていた工程にノードプレスと呼ばれる作業もあります。それは、節の左右の曲げ直しと同じ様に、上下の凹凸や歪みをフラットにする目的で、節の周囲を火で焼いて、万力の様な鉄の板で圧縮するのです。つまり、節上の凹部分と節の凸部分がフラットになるように竹を潰す作業です。これも、竹の細胞やパワーファイバーを押し潰す事ができるほど柔らかくなるまで高温で焼くので、細胞が熱によって劣化するのは当然の事と言えます。また、節を挟んで2系統からなる別々なパワーファイバーは、直線では無く多少の角度を持って節で結合しているのですが、それを平らになる様に上下にプレスすると、丁度、骨と骨の関節が脱臼した様な状態になって結節が壊れてしまいます。この行程もまた、表面の凹凸を無くしてプレーニングフォームに綺麗に収まり易くするのが目的です。即ち、これらの焼きや削り、潰しのオーバーワークは、竹の性質(熱によって細胞が劣化する事)を無視して、プレーニングフォームに無理矢理収める為の拷問であり、出来上がりの精度を上げる、或いは、ストリップを限りなく正確な三角形に近づけたいと言う思いから考え出されたテクニックです。しかし、果たして、ストリップの三角形にそれ程、精度を求めなければならいのだろうか?素材を弱らせてまで、精度を追求すべきなのだろうか?しかし、これらの拷問と呼ばれる数々の加熱修正は、ストリップやロッドシャフトに歪みや捩じれ、曲がりなどが生じない様にする為であり、それは、作る側の作り易さを向上させる事が目的で行われて来たのです。マテリアルその物に均一性があるカーボンなどの化学素材では、精度や数値に正確性を求める事で得られる利点は沢山あります。しかし、素材自体に大きなバラ付きのある天然素材に対して必要以上の精度を求めても、そこから得られる恩恵は殆どありません。逆に、その精度を求めようとする行為自体が劣化などの問題を起こす場合もあるのです。極端な言い方をすれば、見栄えや仕上がりの為に竹本来の強度や耐久性を犠牲にしているとも言えます。今となっては、只々疑問に思うだけですが、何故、そこまでロッドシャフトを真っ直ぐにする事に拘る必要があったのか?フレーミング、火入れ、矯めと呼ばれる曲げ直し、まさに火炎地獄とも呼べる数々の熱による拷問で、竹の細胞を壊してまでプレーニングフォームに収めて、綺麗な三角形に削り出さなければならないのだろうか?そして、そこまで真っ直ぐなシャフトに拘る事が、果たして釣竿の在るべき本来の姿なのだろうか?釣り竿の本質は見た目なのか、或いは、強度と耐久性なのか?作る側の利便性なのか、使う側が見た目に拘るのか?精度=職人技と言う間違った考えがそうさせているのか。私自身にとっては、この疑問と答に行き着いた事は非常に重要な意味を持ちます。堅牢で頑丈な物、或いは、動かない物、曲がらない物を作る場合には精度は重要になります。しかし、固定される事無く、常に曲げられ続ける釣竿と言う特殊な道具に必要な物は何か?まさに、この『仕上がりの精度』と『強度・耐久性』の関係は、お互いに相反する物であり、両刃の剣と言えるでしょう。全てに於いて完全なシンメトリーである事が良い訳ではありません。特に天然素材の世界に於いてはエイシンメトリーでも正解があるのです。
竹の表面側(パワーファイバー側)に多少の歪みがあっても、プレーニングフォームで上手く削り出すと、内側の2面の接着面はフラットに削る事ができるので、接着面の精度と接着力を維持する事ができます。但し、バインディング(接着)後のシャフトの表面には多少の歪みが出ます。しかし、その表面をフラットにする為には、外側の最も太くて強いパワーファイバーを削り取らなければなりません。それはバンブーロッドに最も必要な、竹の最強部分を削り取ってしまう事にもなります。バンブーロッドの生命線とも言えるパワーファイバーは表面近くの物が最も太くて強く、また、数も多いのですが、内側に行くほど細くて弱い上、数も少なくなって行きます。ですから、最も強い外側のパワーファイバーを出来るだけ残す事が理想なので、なるべく削り取らない様にしなければなりません。また、どの程度削り取られてしまったかは、ロッドシャフトの表面に現れるグレインと呼ばれる線を見ればわかります。竹表面のエナメル質だけを取り去った状態では、極細の茶色い線としてグレイン(パワーファイバー)が表面に表われます。更に表面を削って行くと、その線は徐々に太くて白っぽい明るい色の線になって行きます。この様にシャフト表面に白く太い線が見える状態では、パワーファイバーをかなり削り取っている状態と言えます。つまり、最も外側のパワーファイバーを残した状態のロッドシャフトは、表面に白っぽく太い木目(グレイン)が出でいない状態なのです。私も、昔はロッドシャフトの表面精度を上げる為に徹底的に表面を削って平らにし、徹底的に節を焼いて真っ直ぐに直していました。そして、それなりに真っ直ぐで、綺麗なロッドが出来上がり、鏡の様な表面に仕上げていました。しかし、今は多くの実験や研究などから、それらの過度な加熱や削り取る行為が竹の強度や耐久性を極端に落としてしまう事を知りました。その為、現在は極力竹を加熱しない製法をとっています。それが、Hexasstyle Bamboo Rod の非炎製法です。但し、この非炎製法(Non Flame method)で作られたロッドシャフトには、多少の捩じれや歪みが生じるのは仕方がありません。それは、ストリップや節を曲げ直ししないでプレーニングすると、どんなに高精度に削ったとしても、どうしてもストリップに暴れが出るからです。暴れと言うのは、曲がりや捩じれが生じると言う意味です。しかし、強度と耐久性を向上させる為には、節を無理矢理焼いて真っ直ぐに修正しない方が強度を落とさずに済むので、ストレートカットのストリップをプレーニングし、また、バインディング後(接着後)のシャフトが多少歪んでいても無理に加熱して真っ直ぐに修正する事はしません。通常、接着剤はライターで軽く炙ったり、お湯に入れただけでも劣化して剥がれて来るのは、誰もが知っている知識です。その為、Hexastyle では、竹の細胞を熱で劣化させない、また、ストリップを張り合わせている接着剤も熱で劣化させない非加熱製法を採用しているのです。また、接着完了後のシャフトは表面に溢れた接着剤を削り取る作業だけにし、表面を更にフラットにして、精度を求める為のサンディングはしません。それは、表層に近いパワーファイバーを極力削り落とさずに、少しでも多く残す事が目的なのです。兎に角、ロッドシャフトの強度と耐久性を維持する為には、竹の細胞と接着剤の両方を熱で劣化させない事が重要なので、過度の加熱によってシャフトを殺さない事です。つまり、多少の曲がりや歪みが生じたとしても、強度や耐久性を重視する事の方が釣り竿にとっては重要だと考えるのです。そして、その中で少しでも真っ直ぐなロッドシャフトを作る方法としては、竹を鉈やナイフで裂くのでは無く、ストレートにマシンカットする方法が最善と考えます。つまり、真っ直ぐに近いシャフトや、捩じれや歪みが殆ど無く、綺麗に仕上がっているロッドほど、節の曲げ直しや接着後の加熱修正が必要以上に行われていたり、表層のパワーフィアバーを削り過ぎている可能性があるのです。その様に過度の修正加工を施されたロッドシャフトは、見た目や見栄えは良くなりますが、強度や耐久性に問題が生じる可能性が高いと言えるのです。ですから、強度や耐久性を落としてまでプレーニングの精度を上げ、見た目に拘るのか?或いは、多少歪んでいても、シャフトの強度と耐久性を維持するのか?この両立できない要素のどちらをメインにするのかを選択しなければなりません。ペインやレナードの銘竿と呼ばれるモデル達のロッドシャフトも、節の部分をよく見ると『くの字』に曲がったままプレーニングされ、張り合わされている事が判ります。また、パワーファイバーのラインはロッドシャフトと全て平行と言う訳では無く、ストレートグレインにはなっていないのです。それは、節を完全に真っ直ぐに曲げ直してはいない事を意味しています。バンブーロッドの材料である竹と言う素材は、その元々の構造上の問題から、『見た目』と『強度・耐久性』の共存を許さないのです。そして、その究極の選択の中から、私はこの20年行って来た見栄えや精度を捨て、新たに、強度と耐久性の向上を選択したのです。全ての行程に於いて、竹を170℃以上にしない。接着後は火で炙らない。これらの非炎・非加熱製法は、過去の私の『綺麗なバンブーロッドを作る』製法を根底から覆す物かも知れません。そして、これらの『竹と熱の関係』についてはバンブーロッドメイキングの世界でも、誰も触れて来なかったタブーなのかも知れません。仕上がりの精度の為にはシャフトの強度が落ちる事にも目を瞑ったのか、耐久性よりも見栄えを優先させたのか?100年前から今迄伝えられてきた製法は、見た目と精度に拘り過ぎていたのではないだろうか?当時から美しさと精度を競い合って来たからだろうか?或いは、現在の様な20年、30年と長期間性能を保つ化学マテリアルが無い時代の考え方が数年使えれば良しとしたのだろうか?今となっては判らない事だが、殆ど使われずに折れなかったヴィンテージロッドが、偶々、沢山残っているので、それらのロッドは耐久性があると誤評価しているのかも知れない。もしかしたら、これらはパンドラの箱なのかも知れない?しかし、確かパンドラの箱の中に最後に残っていた物は『希望』だった筈だが・・・。

Part #6

竹の繊維と細胞の真実。ハンド・スプリッティングは竹の繊維を引き裂いている。
構造と性質について。パワーファイバーは節ごとに別々の物であり、1本に繋がってはいない。)
The power fibers are not connected.The most important knowledge.
Negative chain.

バンブーロッドを製作する上で、これは最も重要な知識(事実)ですが、竹の稈の繊維(パワーファイバー)は各節ごとに切れていて、元々、根本から先端まで1本に繋がっている物ではありません。節と節の間の稈(空洞)部分を形成している繊維と、次の節間の繊維は全く別のファイバーであり、節ごとに太さや本数も変わります。つまり、竹の繊維は節の上下の繊維が節の部分で結合されているだけなのです。鉈やナイフを使って丸竹を縦に分割するスプリッティングと呼ばれる工程でも、ストリップが同じ幅で綺麗に割れずに、節を超える度に斜めに割れて行き、細くなったり太くなったりする事が有ります。ハンドスプリッティング(手割り)では良くある失敗ですが、これも、竹のファイバーが節ごとに本数が違う事から起こります。実際の所、節を越える度に次の稈のファイバーが何処から、どの様に割れて行くのかは微妙に判らないのです。その為、斜めに割れて行く失敗を修正するテクニックとして、鉈を左右に捻りながらテンションを微妙に変えて、割れる方向を修正して行くのです。丸竹を半分や4分の1に割った場合は、割れ方が綺麗に見えるので繊維が全て繋がっていると勘違いしても仕方が無いのですが、細く割って行くほど節の部分が綺麗に割れずに斜めに割れて行くので、ファイバーが別々な物である事が良く解かります。他にも、パワーファイバーが節を越えて繋がっていない事が解かるのは、ストリップをプレーニングしている時に起こります。通常、ストリップのプレーニングは、竹の下方から上方に向かって削りますが、節を越えて次の稈の部分に差し掛かると、突然、プレーン(鉋)の刃が繊維に食い込み、ささくれや割れが出来て、細胞と繊維を剥ぎ取ってしまう場合があります。それは、プレーンの刃が切れなくなっているのでは無く、節から伸びるパワーファイバーの角度が節ごとに変わるので起こる現象です。節を挟んだ上と下の繊維の角度は、通常、真っ直ぐでは無く、3度〜5度ほど曲がっています。竹が節ごとにジグザグに曲がっているのはその為ですが、更に、大きくジグザグに曲がっている場合は、角度が約10度も変わっている場合も有ります。ですから、節を曲げ直したとしても、パワーファイバーはストレートになる訳では無いので、カンナの刃が突然、繊維に食い込む現象が起こります。
竹は熱すると曲がりますが、プラスチィックや飴の様に伸び縮みする物ではありません。高温で焼かれて劣化した細胞は炭化が進み、弾力性を失って硬くなってしまいます。プラスティックやビニールでさえ加熱して変形させると分子構造が変わり、元の柔軟性や弾力性を失ってしまいます。ですから、外見からは判断でき無くても、焼いて曲げ直した竹は細胞の結束が壊れたり、節内部の繊維の結合が途切れたりしているのです。『ジグザグ』に曲がっているストリップを焼いて真っ直ぐに直しても、竹の繊維(ファイバー)が真っ直ぐに繋がるのでは無く、節の繊維結合を壊しながら、外見だけがストレートに見える様に加工しているだけなのです。更に、『くの字』に曲がっている節の部分を逆側に曲げて直すのですから、『くの字』の内角の部分の結束が引きちぎられて繊維が断裂し、節にクラックが入ってしまうのです。その為、レナード、ペイン、オーヴィス等は、ロッドの耐久性を向上させる為に加熱して曲げ直す必要の無い、マシーンカットでストレートに切り出したと考えられます。焼いて曲げる事による節断裂のリスクが無いマシーンカットの方が、竹、本来の耐久性をそのまま維持し、ロッドとしての耐久性も向上させると考えます。
鉈やナイフなどで割る通常の簡易的なスプリッティング(竹割り)は、竹の繊維を縦に切っているのでは無く、刃の厚みが楔の役目を果たして、竹の繊維を引き裂きながら割っていると言った方が適切です。楔の様な厚い刃がパワーファイバーを両側に押し広げながら繊維を縦に引き裂いているのです。そして、それによって起こる大きな問題点は、割れた部分だけでは無く、結果的にその周りの繊維にも大きく引き裂く力が加わる事です。ですから、綺麗に割れている様に見える部分のすぐ脇のファイバーにも、目には見えない程のひび割れや、ささくれ、剥離などのダメージを与えています。よくある事例としては、プレーニングフォームでティップ先端の細い部分を削り出していると、既に縁のパワーファイバーが2.3本バラけて来る事がありますが、それは、パワーファイバー同士の横の結束にダメージを与えている証拠と言えます。例えて言うならば、珍味でお馴染みの『裂きイカ』の様な物です。手裂きの裂きイカは、裂け目の周りの繊維が糸の様に解れていますが、それが手割りのバンブーストリップであり、機械でカットしたイカの燻製は、繊維がほぐれずに綺麗にカットされています。ですから、大量生産の為と思われがちな竹のマシーンカットですが、鉈やナイフを使って手で割るよりも、ストリップに与えるダメージが少なく、更に、曲げ直しの為にストリップを焼いて劣化させる事も無いので、より耐久性のあるロッドを作る事が出来ると考えられます。
ところで、何故、竹は素晴らしい弾力性を持っているのでしょう?竹の繊維は縦の引っ張り強度が非常に強く、機械を使って縦に引ぱっても殆ど伸びる物ではありません。つまり、竹が曲がるのは、湾曲する外側の繊維がゴムの様に伸びるのでは無く、内側の(曲がる方向)細胞が潰れて曲がるのです。そして、潰れた側の細胞が炭化せずに多少の水分を含んでいれば、復元力で元に戻ろうとする為、竹に弾力性が生れるのです。しかし、それは熱によって細胞が劣化していない場合に限られ、例えば、曲げ直しの為に裏側(柔細胞)を焼いたストリップの、焼いた面を外側にして曲げてみると、つまり、裏返しに曲げてみると、少しの力で簡単に加熱した部分の前後が折れてしまいます。また、折れる部分は加熱された節では無く、同時に加熱される節前後の稈の部分が多いのです。これは非常に重要な実験で、何故、裏返して曲げるのかと言うと、張り合わされたストリップは、シャフトの対面同士でで裏表になっているからです。ガイドが付く側と、その背側ですが、フォルスキャストする度に前後に曲げられる事で、常に対面のどちらかが裏側から曲げられる事になるのです。竹の硬さや強さを知る為にストリップを曲げる実験は誰もがやっている事だと思いますが、通常はエナメル側(パワーファイバー)を外側にして曲げるので、曲げに対して非常に強いと感じます。しかし、裏返しに曲げるとストリップは非常に弱く、パワーファイバーが少ない内側の柔細胞がすぐに剥離して、非常に折れ易いのが解かります。ですから、裏を焼かれて熱劣化したストリップは、張り合わされてシャフトになった状態でも、フォルスキャストの度に前後に大きく曲げられて、内側から折られる状態になるのです。つまり、ロッドが折れる大きな要因として、シャフト表面のパワーファイバーが切れて行く他に、同時にシャフト内部のストリップも裏側から切断されている事も挙げられます。その内部の繊維が断裂しているシャフトは、ほぼ外側のパワーファイバーだけが生き残っている状態であり、それは、パワーファイバーだけで作られる中空シャフトの構造と同じ様な状態になっていると言えます。つまり、中空シャフトの様に内部の繊維や細胞を削り取らずに、ソリッドのシャフトを強力な接着剤を使って作る事で、6面ある接着面を縦方向の骨格として利用した方がより強いシャフトになると考えられます。竹自体はヒートトリーティングで如何に強化しても、その強度と耐久性には限界があります。ですから、強力な接着剤の強度を出来るだけ利用できるソリッドシャフトの方が、耐久性を向上させる事ができるのです。接着剤に過度な依存してはいませんが、一般的なバンブーロッド製作ではフレーミングや火入れによる竹の強化だけが重視され、接着剤の重要な働きが軽視されているのは確かです。
また、ティップセクションの製作では先端の部分を幅1o以下まで細く削って行きますが、細くなった節の部分が突然ちぎれてしまう事もあります。それは、見た目では繋がっている節も、既に曲げ直しの際の熱で結束が断裂している場合があるからです。では、なぜ断裂のリスクのある節の曲げ直しをするのでしょう?現在でも、ロッドの表面に出る繊維が真っ直ぐな物をストレートグレインと言って、バンブーロッドの評価基準とする人もいます。その為、ファイバーのラインを真っ直ぐに整える目的と、前記の様にプレーニングフォームに入り易くすると同時に竹を削り易くする為です。しかし、繊維の見た目が真っ直ぐになったからと言って、元々、節ごとに別々の繊維で出来ている竹が、根本から先まで1本に繋がる訳けではありません。更には、バンブーロッド製作の基本である、斜めに削ってテーパーを付ける作業自体も、殆どのファイバーを断裂させているのです。例えば、ティップセクションを例に挙げると、1本のストリップのフェルール側(太い方)の幅が2oだとすれば、トップ(細い方)の幅は1o以下まで削ってテーパーが付けられます。つまり、単純計算してもフェルール側からトップまで削る間に約75%のパワーファイバーが削り取られ、切断されている事になります。即ち、テーパーを付けられたストリップのトップ部分には、太い部分から繋がるパワーファイバーが、たったの25%(4分の1)しか残らない事になります。ですから、ロッドシャフトのパワーファイバーが根本から先端まで繋がっている考えるのは全くの間違いで、逆に、そのパワーファイバーが切断された細いストリップを確実に接着し、強度と耐久性を持たせる接着剤の役割の方が、圧倒的に重要だと言う結論が導き出されます。更には、パワーファイバーが節を跨いでも真っ直ぐになっているシャフトは、曲げ直しの為に節を焼かれているのでファイバーが断裂している可能性が高いと言えます。参考までに、レナードもペインも実物はストレートグレインにはなっていないので、パワーファイバーはロッドシャフトを斜めに走っています。つまりそれは、節を曲げ直さずに、マシンで真っ直ぐに切り出したストリップをそのままビベラーとプレインで三角形に削りだしていたと思われます。その方が、節の接合を熱で断裂させないので、強力な接着剤を使えば、より強いロッドシャフトを作る事が出来ると考えられます。
『竹を知り、己を知れば・・・・・・。』 竹は日本では日常的に周りに溢れた素材であり、子供の頃から竹を使って遊び、誰しも見慣れた植物です。その為、先入観が生まれ易く、改めて竹の本当の性質や構造、特性を知る、或いは、研究する機会を持つことは殆ど無いと思います。自身の中に作り上げてしまう竹の見た目から来る思い込みや、間違った想像、勘違い、更には、間違った知識の伝承や継承などを払拭するには、植物学者の研究結果などを調べて竹の真実を知らなければなりません。そして、その竹の真実の中にバンブーフライロッドをより良い物にする手掛かりがある様な気がします。
先に述べた通り竹の繊維と言うのは節ごとに全く別の細胞が同時に成長して出来るので、パワーファイバーは節ごとに別々な物となります。文字通り、節とは竹の関節なので、竹の筋肉や骨にあたるパワーファイバーや柔細胞は関節を跨いで繋がってはいないのです。竹は筍の時点で既に全ての節とファイバーが形成されていて、それらの数も決まっています。そして、そのまま30mにまで成長しても、節の数は変わりません。また、全ての節に成長点細胞が有り、各節ごとに別々に稈(パワーファイバー)を成長させて行きます。それが全ての節で、丁度、アコーディオンの蛇腹の様に同時に伸びる事により、竹は急速に成長する事が出来るのです。つまり、1つの節と稈(節間の空洞部分)が1つのセクションになっていて、それが節の数だけ電車の様に連結されているだけなのです。また、竹は樹木など他の植物の様に成長しながら太くなることはありません。これも筍の段階で既に太さ、大きさ、強さが決まっていて、太い筍は太い竹に、細い物は細いまま長さだけが伸びて行きます。また、根元から上に行くにつれ、各節ごとにパワーファイバーの数が減り、階段状に細くなっているのは植物学者の研究などで解かっています。真竹の場合は根元近くで約3.000本有る繊維が、下から35段目の上部の節では120本にまで減ります。更に、途中の枝のある節を越える度にパワーファイバーが減少して行きます。節ごとにファイバーが減少して行く理由は、稈を走る繊維が次の節に行くと、枝や節に分岐して分かれ、約50%が節の隔壁と竹の枝を形成するからです。そして、節部分でパワーファイバーが50%減ると、次の節上の繊維が極端に減ってしまうので、その分、節の成長点で新たに約45%のファイバーが次の節まで伸びて行きます。それが枝節ごとに繰り返されるので、上に行く程パワーファイバーの数が減って行くのです。相対的には1つの節を超える毎に、下の節間よりも上の節間のファイバーが5〜10%減少して行きます。つまり、ファイバー数の減少が竹全体を階段状のテーパー形状にしているのであって、繊維自体が細くなってテーパーを形成しているのではありません。また、竹の枝は、ほぼ繊維で出来ている為に、非常に柔軟性があり丈夫な事は御存じの通りです。そして、竹の稈は枝が生える節(第11節)から上に行くに従って極端にパワーファイバーが減って行くので、ロッドを作る場合は、出来れば根元から枝下(第10節)までを使って作る方がパワーファイバーの量が安定しているので、より強いロッド作れると思われます。(真竹の場合、パワーファイバー数の最大値は根元から第3節の上の部分で、それより上側は緩やかに減少して行きます。そして、枝が生える部分から上側は急激にパワーファイバー数が減少して行きます。但し、枝の始まる節は竹の種類によって変わります。)
結局、曲っている節を焼いてストレートに直しても、パワーファイバーの結節が分断されて連結が途切れてしまう可能性が高くなります。そして、その弱ったストリップを張り合わせても、出来上がったシャフトは非常に弱いシャフトになります。これはバンブーロッド製作にとって最も重要な事実(知識)であり、学術的な植物(竹)の構造や性質などの本質を知る必要があります。私も例に洩れず20年近くもの間、世界中の殆どのバンブーロッドメーカーが行っている様にハンドスプリッティングで竹を割り、曲がっている節を焼いて真っ直ぐに直して来た訳ですが、これらの竹の本質、即ち『パワーファイバーな繋がってはいない』事についての研究結果は私自身にとっても『目から鱗が落ちる』ほどのショックでした。当然の事ながら日本の大学の『竹の構造』の詳細な研究発表をWeb上で目にするまでは、私も竹のパワーファイバーは根本から先端まで繋がっている物と信じ切っていましたし、節ごとにジグザグに曲がっている竹を真っ直ぐに直す事でパワーファイバーも真っ直ぐになる物だと思い込んでいました。竹の外見から判断すれば、誰もがそう思っても仕方が無い事です。当然、竹全体を取って見ても、根本から先端にかけてのテーパー形状を見る限り、パワーファイバーもテーパー状になって先端まで繋がっていると思いがちです。そして、まさか節ごとに別々に稈を構成している事や、パワーファイバーが先端に向うに従って本数を減らしながら全体のテーパー形状を作っているとは思ってもみませんでした。
※上記の研究成果を導くデータとして、竹のレントゲン写真や、薬品で柔細胞を溶かしたファイバー(繊維)だけの写真、節の繊維の顕微鏡写真などを見る事ができました。竹の構造や性質について、見た目からの想像では無く、科学的な研究による真実を知る事を出来たのは、バンブーロッドを造る上で非常に重要な知識を得たと思っています。
これらの竹の真実を含め、如何に情報が少なかったとは言え、私も How to 本から得た知識と製法だけを信じ込み、竹その物の構造や性質を植物学レベルまで研究する事無く、バンブーロッドを作ってきたのは事実です。そして、バンブーロッドの耐久性を向上させる製法の再考や研究が、パワーファイバーは竹の節ごとに全く別の物であり、元々根本から先端まで1本に繋がってはいないと言う事実や、それを焼いて真っ直ぐに曲げ直しても、節のファイバー結合部分を熱劣化させ、クラックを入れてしまうと言う事実を教えてくれたのです。そして、最も強い状態の竹でロッドを作る方法がマシーンによるストレートカットだと解かった事や、最も優れたバンブーロッドの製法が、レナードを代表する当時のメーカーによって80年も前に完成していた事など、私も、もっと早く植物学の見地から竹を研究して、真実を知るべきだったと思います。WEBには植物学者の素晴らしい研究結果が数多く公表されています。既に’50年代に発表されていた著名な植物学者による研究結果は、竹のレントゲン写真や薬品を使って竹の柔細胞を溶かし、パワーファイバーだけにした節の写真などが添えられていました。バンブーロッドを作る為に何故これらの日本の深い知識を調べなかったのだろう?今とは違い、当時はWEBも無く、有益な情報が入手困難だったとは言え、今まで何も疑わずにロッドを造ってきた時間が残念に思えてなりません。伝説のHow to 本の初版は1977年で、日本国内に大量に輸入されたのは’85と’94の再販時だと思われます。しかし、今、真実を知る事が出来た事を、私自身、非常にラッキーだと思っています。
では果して、世界のビルダーはこの事実や真実を知った上で、節を焼いて曲げ直しをしているのだろうか?手作りマイロッドの製作本は、この事実を知っていて、節を焼いて曲げる方法を広めたのだろうか?もしかしたら、パワーファイバーは節を越えて根元から先端まで1本に繋がっている物だと勘違いしていたのでは無いだろうか?炎による熱で竹の細胞が変質し劣化するとは思わなかったのだろうか?竹と言う植物の生態や構造、性質を本当に把握していたのだろうか?恐らく、一部のメジャーなロッドメーカーを除いては、竹は焼く事によって柔らかくなり簡単に曲げる事がで出来る、そしてもっと焼けば炭化して硬くなる。それらの経験と、竹の見た目から想像した性質でバンブーロッドを作っていたのでは無いかとさえ思えます。決して手軽に加工出来るハンドスプリット(手割り)が間違いだとは思いませんが、それは『自分で使うためのマイロッド製作』の方法であり、大掛りな機械を使わなくても簡単にパーソナルユースのロッドを作れる趣味のロッド製法なのです。つまり、耐久性を最も必要とする製品としてのバンブーロッドとしては不十分だと思われます。その為、竹の細胞を破壊せずに、耐久性のあるロッドを作るには、レナードやペイン、オーヴィスの様にマシーンでストレートに切り出した竹を張り合わせる製法、火で焼いて曲げ直しをしない製法が、より耐久性の有るロッドを作る最良の方法だと考えます。恐らく、多くのバンブーロッドメーカー達は竹はアジア原産の植物なので、竹と言う植物をあまり深く研究せずに作っていたのかも知れません。手で割った、曲がった節を簡単に真っ直ぐに治す方法として安易に竹を焼いていたように思えます。
Hexastyleが現在取り組んでいる、竹を焼かない、炎による熱で細胞や繊維を壊さないバンブーロッドの製法、竹の細胞を炎で焼く事によって起こるオーバーヒート(加熱過剰)で炭化・劣化させずに、竹本来の強さと、柔軟性、耐久性を長期間維持する Non-Flame 製法が『地動説』である事を私は願います。そして、フライフィッシングの中のバンブーロッドと言う宗教が唱えてきた『天動説』が、竹を火で焼いて加工し、細胞にダメージを与える製法である様に思えます。

下の写真は竹の節部分の拡大写真です。竹の構造と本質を理解する上で最も重要な事ですが、パワーファイバーは明らかに節を挟んで上下が繋がっていない事が解かります。これはバンブーロッドを作る上で最も重要な事であり、最低限必要な知識です。
Below. The expansion photo is the node section of bamboo strip. Power fiber is not connected to across the node section clearly.
node-bamboo rods
ストレートニングと呼ばれるストリップの曲げ直しは、竹を繊維に沿って割った場合に必ず曲がってしまう節の部分を加熱して曲げ直す作業ですが、この節の部分を高温で焼いて左右に曲げ直しすると、節の中心部の繊維接合点の細胞が熱によって劣化剥離し、パワーファイバーの接合が完全に内部で分離してしまいます。また、分離や劣化の度合いは見た目では判り難い上、内部にできるクラック(ひび)も外からは見えません。しかし、ストリップを裏返しに曲げて
折ってみると、ほんの少しの加重で折れる事からその弱さが解かります。節の周りを焼くと節内部のファイバーの結節点が熱劣化して折れ易くなるのですが、特に、同時に炙られる事になる節の前後2〜3pの稈の部分も非常に熱に弱くなり、少しの加熱で折れ易くなる事が解かります。また、写真下側の節のすぐ上の凹み部分までフラットに仕上げる為には、パワーファイバーや節山など、表層の多くを削り取らなければなりません。また、ノードプレスで凸凹を潰す場合も、非常に大きな熱で節部分を加熱しなければならないので、節やその前後の細胞を熱で劣化させる可能性が高くなります。
When you bending this section to the straight with a high temperature at fire, detachment of power fiber will deteriorate the junction of the center of node section. It is because the bamboo cell degradation by heating. Degree of degradation is not possible to know in appearance. When you fold the strip inside out, you will be able to know its weakness. It tends to be particularly weak is an inch around the node.

竹との係りが長く深い日本の歴史の中から竹を曲げる方法を調べてみると、水に漬ける、蒸す、煮る、焼く等、色々考えられて来た事が判ります。今でも様々な竹製品や道具が作られますが、それらの竹製品には釣り竿の様に弾力性(反発力)を求められる特殊な物は殆どありません。竹を加熱するのは湾曲させたり、形状を変えるなどの場合が殆どで、弾力性よりも寧ろ硬さと強度を求めて加工されます。中でも釣り竿以外で、唯一、反発力と耐久性の両方を求められるのは、1.000年以上の歴史を持つ弓ですが、弓も基本的には弓竹本体に火入れは(炎で焼く)していません。メインとなる『外弓』(外側のナチュラルカラーの大きな一枚の竹)は耐久性を重視し、折れるのを防ぐ為、火で焼かずに乾燥させただけの物を使用します。但し、より威力(反発力)を増す為に『内弓』(2枚重ねる竹の内側)は多少加熱して硬くします。更に反発力を強くする為にグリップ内部にある『弓芯』と呼ばれる部分には、竹を強く焼いて硬く硬化させた物を入れて作ります。ですから、弓に於ける竹の火入れの目的としては、耐久性では無く、硬くする事から生まれるパワーと破壊力の向上と言えます。弓は耐久性よりも破壊力(飛距離)を優先させる武器ですが、流石に折れ易くなるのを避ける為、焼いて硬くするのは一部分だけに留めています。また、弓の製作工程から学べる事は他にもあります。弓は1本の丸竹から1つしか作りません。まず、丸竹を4分割するのですが、その割り方にも独特の理に叶った方法があります。竹にも枝がありますが、竹の枝は木とは違い対面の2方向にしか生えません。そして、それを利用して枝の生えている2面だけを弓の本体に使います。それは、『芽竹』と呼ばれ、枝の生える2面は枝を正面に見るとジグザグに曲がっていないからです。その為、焼いて節の曲げ直しをする事も有りませんので、真っ直ぐで耐久性の高い弓を作る事が出来るのです。その代り、枝の生えていな残りの横2面(枝が左右に開いて見える面)は『脇竹』と呼ばれ、節でジグザグに曲がっています。ですから、曲がっている脇竹は小さく切って焼く事で、硬い心材『弓芯』として使うのです。これは素晴らしいアイディアと技術で、矢の「ブレ」を防ぎ、命中率を上げる為に弓本体には初めから曲がっていない『芽竹』を使い、ジグザグの『脇竹』は、曲げ直して使うのではなく、細かく切って使うと言う素晴らしいアイディアです。これは、曲げ直しの加熱をしてない強い竹を使う工法なので、バンブーロッドにも応用できますが、ジグザグに曲がっている『脇竹』(竹の50%)を破棄しなければならないので、非常に効率の悪い使い方になってしまうのが難点です。バンブーロッド作りの、1本の竹を6の倍数に割って使う工法は、竹をムダにする事無くロッドを作る合理的な方法ですが、節ごとにジグザグに曲がっている『脇竹』にあたる部分は、焼いて曲げ直さなければならないのが弱点だと言えます。
レナードやペイン、また、その他の銘稈と呼ばれるロッド達に、100年近くもの間折れずに使われて来たロッドが多いのは、加熱による節の曲げ直しをしていなかった事が挙げられます。また、前記の様にマシーンカットによる竹の切り出しで、ストリップは初めから真っ直ぐに切り取られ、そのままベベラーで三角形に削りだす事で、竹その物に熱による大きなダメージを殆ど与えていなかった事もあります。一般的に機械を使っての製作、つまり、竹カットやラフ・プレーニングを、ただの大量生産、時間短縮、作業の簡素化と考える向きもありますが、実は、機械を使って始めから真っ直ぐなストリップを切り取る事の裏には、節の曲げ直しをしなくても良い、つまり、熱を加えて竹の繊維断裂と細胞の結束を壊してしまうリスクは無くし、加熱しない事で竹本来の強度と耐久性を維持すると言う天才達の考えがあってのマシーンカットだったと言えます。もしかしたら、竹を焼かずに熱を全く加えない製造方法の方が、しなやかで、尚且つ張りが有り、より耐久性のあるロッドが出来るのではないだろうか。竹の細胞を熱で壊さないロッドこそが最も耐久性があるのではないだろうか?そして、それらのロッドこそが今日、銘竿と呼ばれ、数多く現存しているロッド達ではないだろうかと思えます。つまり、要所要所で機械を使う事によって、より高性能な優れたロッドが出来るのであれば、それは否定されるべきではありません。欧米でも日本でも、現代の機械化、大量生産化の中でハンドメイド崇拝が台頭して来たのは確かです。手間暇掛けた手作りの物は何よりも素晴らしい、と言う風潮になっているのは確かです。もしそれが、機械の使用を否定しているのであれば、ハンドメイドの製品レベルは、この先も向上する事は無いでしょう。例えば、コンピューター制御のCNC旋盤で精巧に加工された、薄くて軽いニッケルシルバー製フェルールはバンブーロッドの性能向上に不可欠です。美術品の様な外見のバンブーフライロッドですが、これは釣り竿と言う道具です。道具なのだからその性能や耐久性、使い易さは常に向上されるべきだと考えます。
曲げ直しの為に節を焼かれたビンテージロッドが、現在、殆ど生き残っていない事と、マシーンカットのストレートなストリップで作られたレナード・ペイン・オーヴィスなどのロッドが多数現存しているのは、果してただの偶然なのだろうか?竹に大きなダメージを与える製法がHow to 本によってポピュラーにされてしまったのではないだろうか?そんな疑問を抱き、新たに検証しようと思う様になって何年経ったのだろうか?WEB上のバンブーロッドフォーラムには、アメリカのビルダーが『現存数の少ない有名ビンテージロッドなどの中には高温加熱製造された為、殆どが折れてしまったので現存本数が少ない。』と言う旨の意見を公表しています。また、曲げ直しを必要としないマシーンカットでの切り出しを推奨しているメーカーもあります。もしかしたら、『個人の為の趣味の手作りバンブーロッドメイキング』を解説した本が世界中のフライフィシャーをパーソナルユースのロッド作りとプロダクションロッドの製造法を勘違いさせてしまったのではないだろうか?いつの間に竹を火で焼いたり、強い熱を加える事がバンブーロッドメイキングの常識になってしまったのだろうか?何の疑問も抱かずに竹を焼き、加熱してきたロッドメイキング。これは、アメリカのバンブーロッドメーカーの間で、今も議論され続けている大きな問題です。いや、最近になってそれらの問題点に気付き出したビルダーが徐々に増えて来たとも言えます。そして私も、自分が学んで来た間違った知識や思い込みを払拭し、本当に納得できる真実を見付け出さなければ良いロッドは造れないと気付きました。その為、現在 Hexastyle Bamboo Rodでは『Non Flame method』(非燃製法)と名付けた、ロッドを炎で焼かない製法、高熱で竹の細胞を劣化させない工法を採用していまが。それは、フレーミングで表面のパワーファイバーを焼かない、曲げ直しの為に節の裏を焼かない、の大きく言えば2点です。但し、竹に張りと強度、反発力を持たせる為のヒートトリーティング(熱処理)は竹の細胞に出来る限りダメージを与えない程度の適温で行います。ただし、これらの研究結果は各分野から収集した知識や研究・実験結果と自らの実験結果から導き出した答えであり、通常のバンブーロッドメイキングで行われているハンドスプリッティング工法やフレーミング加工を否定する物ではありません。ロッドメーカーではなく、ホームビルダーがパーソナルユースの為の趣味のロッドを自作するのであれば機械や道具が少なくて済むハンドスプリッティング(手割りと節の曲げ直し)工法の方が簡単に作れるのは確かで、自分のロッドを自分で作ってみたいと言う人には最適だと思います。

※参考までに最新のバンブーカッティングマシーンもご紹介します。これは、6分割された竹から1度に2本の真っ直ぐなストリップを切り出す画期的なマシンのプロトタイプです。1本の丸竹から12本のストリップしか切り出せませんが、完全にストレートに切り出せるので、節の曲げ直しをしないで、そのままビベラーでラフ・カットしてヒートトリーティングができます。初めに丸竹を6分割にする時も、マシーンでストレートにカットすると、ストリップがジグザグに曲がるのを防げるので、曲げ直しの必要が無くなります。 http://thebamboorodroom.yuku.com/topic/1187/NEW-TOYS-FROM-BELLINGER#.URNckaVWx8E
http://www.kenhintz.com/webgsaw.html

※ビベラー(電動カンナ)とハンドプレーニング(手削り)伝説に関する解説です。竹のストリップを三角形に削り出すマシンである【 Beveler 】。1868年に初めてこの機械でロッドが作られて以来、全ての偉大なるロッドメーカー達が、このBevelerでストリップを削り出してきました。例えば、Leonard, Orvis, Payne, Gillum, Dickerson, Thomas, Edwards, Young そして Montagueなどもそうです。つまり、これらのメーカーが創り出してきた全ての銘竿達はビベラーを使って製造された物なのです。アメリカのバンブーロッドメーカーのサイトでは、ストリットを手で削る(ハンドプレーニング)はアマチュアビルダー、ホームビルダーの為の製造方法であり、セミプロだったギャリソンとカーマイケルが出版した本の影響で「ハンドプレーニングが最高の製法」だと言う誤った認識が広まったのだと表現しています。ハンド・スプリティング(手割り)やハンド・プレーニング(手削り)、竹を炎で焦がす(フレーミング)などのバンブーロッド製法は、1977年にアメリカで出版された上記のカーマイケルの本に書かれた製法であり、ペイン、レナード等の伝説のビッグメーカーのロッド製法とは違います。それら、伝説のメーカー達は、その製法を『極秘扱い』としていた為、全てを公開される事はありませんでした。私を含め、世界中の殆どのバンブーロッドメーカーは1980年以降に、この本の影響でロッドを作り始めました。それは、機械などの大きな投資をしなくても、誰もが簡単にバンブーロッドを作る事ができると言う手軽さが大きな理由です。極端な話、少し器用ならばナイフとカンナがあればロッドが作れると言う物でした。その為、この簡易的な製法はバンブーロッドメイキングの主流として世界中に広まり、多くのビルダーとロッドを作る事になったのです。しかし、この簡易製法で作られたロッドは、基本的にペイン、レナードとは違う物であったのは当然の事と言えます。
http://www.flyanglersonline.com/features/bamboo/part115.php

また、ヴィンテージバンブーロッドの評価に関しても、決してロッドの性能で適正に評価されていないのが現状だと思われます。永い年月の間に折れてしまった為、現存しているロッドが少ないロッド程、高額で取引されている場合が多いのです。希少価値と言う当然の価値観から来る値段なのですが、高値だからと言って良いロッドだとは限りません。それはコレクターがオークションなどで作り出す特殊な価格であって、釣り竿としての適正な評価ではありません。現存本数が少ないと言うだけで、コレクターが高額で落札します。そして、その価格がまるでロッド評価の様に捉えられ、ロッド伝説を作ってしまうのです。しかし、これら世界中のコレクターのお陰で銘竿と呼ばれるロッド達が現存して来たのも、また事実なのですが・・・・・。今、アメリカではバンブーロッド人気を利用した、投機的意味合いでのロッド売買が横行しています。その為、価格がまた高騰し始め、純粋にそのロッドが欲しいとか、使いたいと言う釣り人の手には届かない、異常状態になっているのは残念な事です。
それら、ヴィンテージロッドの中でも、レゾルシノールが登場する1930年代以前に作られた伝説のロッド達は、ストリップの接着を『 Hide Glue (膠)』で行っているので、今ではシャフト内部が殆ど剥離していて、そのまま実釣には使えないと発表しているヴィンテージロッドのコレクターズサイトもあります。ですから、もしそれらのオールドロッドを今、実際に釣りに使うのであれば、シャフトを6本のストリップの状態にまで完全に分解し、新しい接着剤でバインディングし直して、リビルドをした方が良いでしょう。実際に、1930年代以前のオールドロッドをリバーニッシュだけでは無く、完全に分解してレゾルシノールやエポキシ接着剤で再度、張り直してリビルド(レストア)し、実釣で使えるようにしてから販売しているところもあります。インターミディエイトラップ(段巻き)されている古いロッドなどは、シャフト自体が柔らかいからスローアクションなのでは無く、ストリップの内部が剥離してしる為にスローなアクションなっている可能性が大きいのです。ですから、シャフト内部の接着剤が剥離している不完全なヴィンテージロッドをそのまま無理に使って折るべきではありません。折角の歴史的価値のある遺産を消失してしまいます。よく、接着剤やバーニッシュまでオリジナル(現存状態)に保つと言われるますが、いつまでもオリジナルのボロボロの状態に拘るのはナンセンスです。つまり、20年ごと、或いは30年ごとと、出来ればその時代ごとのオーナーがレストアして、作られた当時の新品状態に戻す方が良いと私は考えます。それは、汚れてしまった古い絵画をクリーニングして蘇らせるのと同じ事です。特に、ペインやレナードの様に後世に残さなければならない銘竿となれば尚更です。現存状態のまま使うのでは無く、レストアした方が良い理由はロッドアクションなどにもあります。シャフト内部の膠が剥離しているヴィンテージロッドのアクションは、そのロッドが作られた当時の新品のオリジナルアクションではありません。100年前の出来上がったばかりの時は膠が剥離していないので、張りのあるパリッ!としたアクションだったでしょう。本当のオリジナルと言うのは、その当時の新品状態のロッドアクションを再生し、使える状態に復元する事です。また、湿度の多い地方などでは全く使っていない状態でも数十年の歳月でバーニッシュが空気中の水分で溶けて剥がれて来ます。それらバーニッシュの古びたボロボロのロッドもオリジナルとは言えません。勿論、見た目も当時のオリジナルではありませんし、何よりもバーニッシュもロッドアクションに係って来るからです。長い年月の経過で剥離したロッドシャフトはオリジナルどころか屍と言っても過言ではありません。つまり、本当のオリジナルとはリビルドし、レストアして、出来る限り作られた当時のピカピカの新品に近い状態に戻す事だと思います。ですから、ヴィンテージロッドはリビルド、リバーニッシュして使うべきであり、決して現状のままの状態で無理に使うべきではありません。折ってしまえば2度とオリジナルに戻す事は不可能です。もし、見た目も現状のまま保存したいのであれば、それは実釣には使わずに博物館の様に飾って保存するしかありません。つまり、完璧なレストアが施され、当時の新品状態に戻された時、初めてヴィンテージロッドが生き返り、釣りに使うが出来るのです。例え、実釣にはあまり使われないとしても、それが釣り道具としてのビンテージロッドにあるべき姿だと思います。つまりそれは、いつでも川に出撃できる準備が整っている状態のロッドです。私の所有するペイン98(1950年代製)は、ペインメーカーの流れを汲む Walt Carpenter 氏、本人がレストアしてオークションに出品したロッドです。コルクグリップはオリジナルの汚れを削り取っているので少し細身になってはいますが、その新品当時の様なロッドの輝きやアクションは、まさにジム・ペインが作った50年代当時そのままを思い起こさせる物です。勿論、実物のヴィンテージ銘竿を実釣に使う事にはロマンがあると思うし、フライフィッシャーにとっては夢の様な事だと思います。ただ、私自身、今はどちらが良いのかは判りません。普通に使って折ってしまえば価値は全く無くなります。しかし、道具は使われなければならないとも思っています。そこに、ヴィンテージの銘竿に対するジレンマが生れるのです。恐らく、誰もが陥るジレンマだと思いますが、そこから逃れる唯一の方法が、いつでも使える状態に完璧にレストア回復し、尚且つ、大切に保存する事しか無い様に思われます。最近、アメリカのオークションに幻の中の幻の銘竿、「 ペインのパラボリック 」が出品されていました。しかし、2本のティップの内、1本は真ん中から折れて先端部分がありませんでした。
そして、残る1本のティップも大きく曲がっているものでした。つまり、フライロッドとしては全く使う事ができません。もし、コンディションが良ければ$4.000〜$6.000の価値はあると思いますが、価格は2〜3万円程度でした。つまり、その価値は殆ど無いと言う事です。
話は戻りますが、耐久性のあるハイレベルなバンブーロッド程、その多くが折れずに残って来たので、逆に低価格で取引され、また、低い評価を受けてしまいます。例えば、フライフィッシング界に於いて最も大きな業績を残して来た、レナードやオーヴィスのインプリグネイテッドのロッド等がそうです。1940年代に開発されたインプリグネイテッド(フェノール樹脂含浸加工)のバンブーロッドは、それが持つ釣り竿としての性能や耐久性が高く、現在でもその多くが中古市場で流通しています。しかし、その高い耐久性の為に希少価値が無く、価格も安いので、また、評価も低くなっているのです。オーヴィスやレナードのフェノール樹脂(ベークライト)インプリグネイテッド加工のロッドは、表面に傷が着き難いので防水性も高く、折れ難いのも確かです。但し、ナチュラルケーンより多少スローなアクションになってしまうのが難点ですが、ハーディーやペゾンのスローアクションは良くても、オーヴィスやレナードのスローアクションはダメなのか?と言う事になります。つまり、ロッド本来の性能やアクションでは無く、仕上げや製法がロッドの評価を低くしている現状を見ると、まさに折れ易く、性能の低いロッドが高い評価を受けている事に疑問を持たずにはいられません。特に、ヴィンテージロッドを売買している世界に顕著に見られるのですが、何んだ、インプリか!と言って初めから見下しているのが分かります。折れ難く、耐久性のある素晴らしいロッド達が流通量が多いと言う理由だけで低い評価を受け、希少価値が無いからと言って安値にされ、明らかにインプリグネイテッドのロッドが見下されているのは、ロッドを作る私には全く理解できません。ナチュラルケインのレナードもインプリのレナードもどちらもレナードロッドであり、レナードの名を冠したロッドなのです。それは、竹もテーパーも同じで、ただ、工程の途中でフェノール樹脂に浸され、少し丈夫になっているだけなのです。それを、ナチュラルケインは良くて、インプリはダメだなどと評価している。その低い評価の理由は、中古品販売で値段の安い物は利益が少ないからだろう!バンブーロッドを投資の対象として見るからだろう!確かに、ナチュラルケーンのロッドの方が軽くて張りがあります。しかし、表面のバーニッシュは非常に水に弱く、目に見えない程度の傷からも水分が中の乾燥した竹に戻ってしまいます。また、ウレタン塗装でもほんの僅かですが、水蒸気を通す性質が有り、完全防水が出来ないのも事実です。しかし、フェノール樹脂のインプリグネイションはそれらを知り尽くしたロッドメーカーが敢えて作って来た拘りのバンブーロッド製法と言えるのです。フライフィッシングの雄、オーヴィスのウエス・ジョーダンは敢えてロッドの張りや軽さよりも釣り竿としての耐久性を選択してインプリグネイテッドを採用しました。釣り道具として、永く使える丈夫なロッドが軽視されている現在のバンブーロッド市場。例えば、釣り竿として買い求めるなら、軽くて張りはあるが折れ易いロッドと、多少スローアクションであっても永く使える丈夫なロッドの果してどちらを選ぶのだろうか?コレクターなら話は別だが、バンブーロッドを実釣に使うのであれば、より耐久性があるに越したことはないのです。私もバンブーロッドの耐久性を上げるには必ずしもインプリグネイテッドが最善だとは思いませんが、1940年代からあったインプリグネイション製法を、かのH,L Leonard のRon Kusse は、1998年にも今までの性能を超える新しいインプリグネイションのレジンとシステムを研究開発しました。そして、それは現在も製作・販売されています。このインプリグネイテッドと言う製法もまた、バンブーロッドの耐久性を向上させ、より実戦で使えるロッドを目指した結果と言えます。フライフィッシングを知り尽くした男がバンブーロッドに何を求め続けるのか?彼の探究心と向上心は何処へ向っているのだろうか?ナチュラルケインが最高と評価される現代にあっても、敢えてインプリ・ロッドを研究し続ける理由は、やはり釣り竿の原点である耐久性の向上に他ならないと思えます。
バンブーロッドに釣り竿としての実用性や耐久性を本当に求めるのであれば、ナチュラルケインよりもインプリグネイテッドの方が勝っています。しかし、インプリグネイション加工には『真空含浸装置』と言う高価で大掛かりな装置が必要な為、個人でインプリグネイテッド・バンブーロッドを作るのは中々大変な事です。また、個人でカーボンのブランクを手軽に作れないのも、同じく『真空加熱窯』や『マンドレル』など大掛かりな設備が必要だからです。その為、手軽な道具で簡単に作れる、手作りバンブーロッドの製法がHow To本の出版と共に世界中に広まったのです。そして、現代のハンドメイド崇拝が手作りバンブーロッドの価値をより高める事になったと言えるでしょう。
では、果して『ハンドメイドだから良い物』なのだろうか?機械が無いから鉈やナイフで竹を裂いているだけではないだろうか?結果、曲がって裂けた竹を真っ直ぐに直す為に、火で焼かなければならい?しかし、曲がっていなければ、焼く必要も無いのである。
恐らく、現在のバンブーロッドを取り巻く環境は、製作機械や道具が無くても、少ない道具で簡単に作れる『自分で使うマイロッド製作』の手作り簡易製法と、強度と耐久性を兼ね備えたレナード・ペイン・オーヴィスなどの『プロダクションとしてのバンブーロッド製作』を混同しているのかもしれません。パーソナルユースの趣味の手作りロッドが製品になると勘違いしているのかも知れません。アメリカの多くのビルダー達も、ペインのBrown Tone の様な深く奥行きのある茶色に似せたくて、竹の表面を炎を焦がしていると自ら言っています。そして、熱で劣化した耐久性の無いロッドを作った責任転嫁に、製作者自らがバンブーロッドは弱い物、竹竿だから折れるのは仕方が無い、そう言っているのを聞くと、この先、フライフィシャー達がバンブーロッドから離れて行くのは目に見えています。確かにバンブーロッドはカーボンロッドよりも取扱いに注意し、気を使う事に越した事はありませんが、作る側が弱いロッドを守る為の細かい注意書きを用意し、まるで、この先すぐに起こるであろうトラブルに対し、未然に弁護しているような気さえします。もし、少しでもバンブーロッドが弱くて折れ易い物だと思ったなら、その製作者に求められるのは、より強いロッドを作る研究と努力であり、弱さを擁護する事ではありません。誰もが手本にして来たHow To 本に書かれている知識や内容は著者がそう思っていただけで、必ずしもそれが真実や正解だとは限らないのです。自分自身のロッド製法に問題が無いかどうか?もっと良い製法は無いだろうか?或いは、今までの製法をこのまま信じて良いのだろうか?と自問するべきです。確かに竹はカーボンやグラスファイバーに比べれば弱い素材ではあります。だからと言って、弱いロッドを作って満足するのでは無く、何故弱いのか?何がダメなのか?どうすればより強くなるのか?常にそう考えて進化し続けなければならないと思います。バンブーロッドは使い物にならない。実釣に使う道具では無い。美術品の様な飾り物だ。コレクターズアイテムだ。巷ではそんな意見も少なくありません。釣果が全てでは無い唯一の釣り、竹製のロッドを現役で使えるフライフィッシング。これ以上、『折れ易いロッド』が流通すれば、フライフィッシングの中のバンブーロッド文化が衰退して行く可能性さえあります。自分で使うマイロッドならば、強度や耐久性はどうでもいいし、折れたらまた作れば良いのですが、製品として流通させるのであれば、そうは行かないのです。世のフライフィシャー達に見放される前に製作者自らが、自分の製法は間違っていないのか?どうすればより強くなるのか?なぜ、マシーンカットのか?なぜ、インプリグネイテッドなのか?今までの思い込みを全て捨て、常に製法を見直し、少ない情報から得た知識に自己満足する事無く、向上心を持って更に良いロッド、耐久性のあるロッドを作る研究をしていかなければならないと思います。レナードもペインも、オーヴィスもそうして来たのです。自らの知識や経験、実験研究などを積み重ねる事はとても重要な事ですが、自分の狭い世界から導き出される真実は非常に少ないのもまた事実です。ですから、バンブーロッド作りの為に竹に関する全てを多岐に渡って調べ、学ぶ事によって、より多くの真実を知る事が出来るのです。バンブーロッド作りに精度の低いフェルールを自作してオールハンドメイドだと胸を張っても、折れる寸前まで竹を焼いて真っ直ぐになったと喜んでも、その結果は何れ出ます。そんな世界のバンブーロッドの現状を考えながら、今、自問し、研究し続けている自分がいます。確かにナチュラルケイン工法の方が含浸加工のロッドよりも張りやアクション、軽さ、美しさなど、多くの点で勝っています。しかし、釣り竿として最も重要な耐久性の点では明らかに含浸工法に軍配が上がります。ですから、ナチュラルケイン工法の弱点である、耐久性の向上を図る研究開発をしなければならないのです。
竹と熱の関係、それはバンブーロッドにとって永遠の課題だと言えるでしょう。そして、本物を作る為には、釣り竿製作以外のノーハウを数多く入手して、今一度、根本から真実を探究し直す必要がありそうな気がします。フライフィッシングとバンブーロッドは欧米の古くからの文化ですが、幸い、日本には竹を使った製品と技術、経験が欧米以上に沢山あります。それらの日本の竹文化、竹工業、植物学の中には、より多くのヒントがあると思われます。アメリカから入ってきた、フライフィッシング文化、バンブーロッド文化、ロッド製法ではありますが、そろそろ、それらに対する憧れだけでは無く、日本でもその製法を根本から見直し、独自に研究開発する時が来ている様に思えます。昔からの製法に囚われる事無く、また、それを鵜呑みにしてコピーするだけでは無い、より進化したバンブーフライロッドの製法を追求する。トンキンケインと言う最高の素材を使った素晴らしい工法、その画期的なロッド作りのアイディアに現代の化学技術をプラスすして、
更にロッドの耐久性を増し、進化させる事が可能になります。そして、より使い易いタフなバンブーロッドでフライフィッシングを楽しみたいものです。

Part #7

原点回帰 Regression to the origin. To the higher stage. To the real thing.
秀逸な釣り道具であり続ける為に、迷い、戻り、止り、進む。更に深く、もっと深く、真実に辿り着く為に。 )

長い間バンブーロッドを造り続けているうちに、新たに研究し、発見した事がたくさんあります。それは、より良いロッドを造りたい一心から探究し続けた結果なのですが・・・・。 そして辿り着いた答えはたった1つ、それは Longevity(ロングライフ)、即ち、道具としての原点である永く使えると言う事です。ペインやレナードのように永い年月に渡って使われる事、オーナーが代っても使われ続ける事、それが現代でもバンブーフライロッドに求め続けられる釣り竿としての本質です。そして、求められる物は強度や耐久性だけでは無く、その独特のアクションに加え、美しさやスタイル、雰囲気なども必要となるでしょう。使い込まれる程に独特の雰囲気が漂い、存在感を増して行く不思議な道具。だからこそ、より耐久性を向上させ、より永く使える事によって、フライフィッシャーの珠玉の宝物、財産と成り得るのです。
しかしながら、今のバンブーロッドブームは本来のフライロッドの役割を忘れ、迷走している様にさえ思えます。不必要な軽量化や、中空構造にする事で、まるでカーボンロッドを真似るかの様な改造が施され、世界中で空洞のバンブーロッドが作られています。しかし、カーボンロッドの構造と強度は化学工業製品であるカーボングラファイトだからこそ出来る構造であり、天然素材である竹でその構造だけを真似ても、結果的に繊維や細胞が耐えられません。パイプ状の空洞シャフトは強いカーボン繊維とエポキシ樹脂の強度、柔軟性があって初めて成り立つ構造なのです。中空構造バンブーロッドのについては、ロッドアクションや軽さだけが語られるばかりで、その強度や耐久性について長期間追跡調査した結果や壊れた事実などは殆ど全く論じられる事も無く、また公表される事もありません。では、果たして正統派のソリッド構造バンブーロッドの、7’00、3番はフライロッドとして重いのだろうか?軽量化すべき重量なのだろうか?7’00の4番ロッドはどうだろう?7’6の5番はどうだろう?もしも、これらのライトウェイトロッドが重いと思わ無いのであれば、強度と耐久性を犠牲にしてまで無理に軽量化する必要はありません。では、これからバンブーロッドを使ってみたい、或いはバンブーロッドを新調したいと思う人が本当に必要としている情報は、どんな情報なのだろうか?例えば、『こんなロッドは良い』とか、『こんなロッドは耐久性が無くてダメだった』とか、誰もが判り易い真実の情報です。『タフで耐久性があり、本当に実釣に使えるロッドはこんなロッドだ』と言う様な、ユーザーにとってもっと有益な情報を発信すべきなのです。
現在でも世界のフライフィッシャーやロッドメーカー達は、バンブーロッド製作にはトンキンケインが最高の素材だと認めています。これは、フライキャスティングが上手な人ほど良く解かる事だと思いますが、ロッドを止めてフライラインにパワーを伝達する瞬間や、ティップの跳ね返る反動、ループが伸びて行く時の感覚、バックキャストに入るタイミングなど、フライキャスティングにとって重要な感覚がグリップを握る手に直接感じ取れる敏感さはトンキンケインの他にはありません。トンキンケインが作り出す硬さと張りがこそが、フライフィッシングに必要な素晴らしいキャスティングとコントロールを生み出すのです。材料費が掛から無いとか、安いとか、身近で簡単に手に入るなどの理由で、ロッドの素材まで妥協しては本物のバンブーフライロッドを知る事は出来ません。世界中の著名なメーカーやフライフィッシャー達が100年以上もの時間を掛け、トンキンケイン以外の世界中の竹や植物を何度もテストして来ました。勿論、日本の真竹、孟宗竹なども含め、あらゆる竹がテストされてきました。因みに、1880年代、かのトーマス・エジソンはアジア中から竹を取り寄せ、耐久性のあるフィラメントを研究していました。その結果、日本から輸入した京都の真竹を使って電球(フィラメント)を量産したのです。つまり、1800年代後半には、既に殆どの竹がアジアからアメリカ東部に輸入されており、当時のロッドメーカー達もそれらを手に入れ、実験、研究する事が出来たと思われます。そして、出された結論は、やはりバンブーロッドの原料として最も適していたのがトンキンケインだったのです。始まりは、トンキンケインの代表的な輸入取扱い業者であるチャールズ・デマレスト社が1911年にトンキンケインとカルカッタケインを大量に輸入し、その内のトンキンケインをH・L レナード社に納品している記録があります。トンキンケインの生息地は中国南部の道も無い山奥のごく一部の狭いアエリに限られていまが、それらの中から厳選した物だけを伐採し、人力と船を使い、多くの労力を使って運び出されているのです。また、トンキンケインはその全てがバンブーロッドになる訳ではありません。ランク付けされた竹は用途によって振り分けられ、最上級の物だけがバンブーロッドになります。現在は中国からの輸出も安定しているので、昔に比べてもバンブーロッド用の最高級のトンキンケインが手に入り易くなっています。逆に、トンキンケインが最も手に入らなかった時代は、日本が占領していた太平洋戦争の前(1930代)から中国の文化大革命(1960年代)の輸出禁止措置が取られていた期間でした。その時期は、アメリカで最もバンブーロッドが発達した時期と重なる為、トンキンケインを手に入れるのに大変苦労した事が伝えられています。また、ペインを始め、多くのロッドメーカーがロッド製作の中止を余儀なくされた歴史もあります。つまり、自由に大量のトンキンケインを輸入できるようになったのは1970代以降の事なので、最も必要としていた時期に、良いトンキンケインが殆ど手に入らなかった事実は皮肉な事と言えます。(参考映像 ドキュメンタリー Trout Grass http://www.youtube.com/watch?v=z1_BZQ-Emew )
参考映像を見れば判りますが、ここまで苦労しても手に入れなければならないトンキンケインの価値、ここまでしてもトンキンケインでなければならなかった理由は、やはり、より良いフライロッドを作りたいと言うメーカー達の思い入れと研究成果であり、フライキャスティングを知り尽くしているからなのです。そして、それに応える実力と価値をトンキンケインは持っているのです。現代のグローバル物流の時代にあっては、日本の真竹や中国の孟宗竹、或いは、世界中の多種多様な竹を欧米に安価で運ぶのは簡単な事です。しかし、欧米のどのメーカーもトンキンケインでロッドを作り続けているのです。それが、バンブーフライロッドとトンキンケインの真実です。
※映像の後半はバンブーロッドの製作風景や製法を見る事が出来ますが、この製造方法は従来の製法の一例であり、Hexastyle Bmaboo Rod の製法ではありません。
また、ロッドの重量に関しても、秤で量ってこのロッドは何グラムだとか、何グラム軽く出来たとか、フライロッドとしては全く無意味な事も取り上げられます。フライロッドの重さと言うのは、キャスティング中に手に感じられる慣性重量や持ち重り感覚の事であって、実際のロッド重量ではありません。キャスティング中のロッドの重量感覚は、フライリールとロッドの重量バランスで決まります。また、ロッドの長さやリール重量のバランスを変える事で、手に感じる重量感覚も変わります。ロッドを軽く感じたい場合は、リールをほんの少しだけ重い物に替えてやれば良いし、逆にロッドに重さを感じたければ、リールを少し軽くすれば良いのです。また、ロッドの重量感覚に大きく影響するのはロッドの長さです。以前は、私もショアからサクラマスや海のアメマスを狙う為に、アメリカの某有名ブランドのツーハンドロッドを使っていた事があります。それは、15フィートの10#と最大級の長さのロッドで、当時の最新マテリアルで作られた高性能ロッドでした。勿論、ロッド本体の重量は軽く作られていましたが、流石に15フィートのロングロッドでシューティングヘッドを50ヤード以上キャストし続けるのは重労働でした。自重が軽いロッドでも長さが15フィートもあれば途轍もなく重く感じられ、2時間もすれば腕どころか腰までが痛くなり、半日投げ続けるのは至難の業です。’95年当時ですが、丁度その頃、ツーハンドのバンブーロッドを作ろうと思い立ち、試作、実験する事になりました。その目的は、シューティングヘッドの遠投用ロッドでは無く、当時、興味を持っていた伝統的スペイキャスト用のロッドを造りたかったからです。その頃は、ロールキャストが基本となるスペイキャスト用の柔かめのカーボンロッドは殆ど無かったのですが、唯一、ハーディー社が製造していたと記憶しています。他の殆どのメーカーはロングキャストやシューティングヘッド用に軽くて硬いロングロッドを作っていた時代です。それに、私がツーハンドのバンブーロッドを造った理由はもう一つありました。それは、ダブルビルド(二重構造)では無く、通常のシングルビルド(通常の三角形×六枚)の製法で、最大の太さを試す事でした。つまり、シングルビルドの限界を知りたかったのです。その為、手持ちのトンキンケインの中から最も硬くて肉厚の物(パワーファイバーの密度が濃く多い物)を選び出し、その竹で11フィート3インチのバンブーロッドを試作しました。勿論、ロッドテーパーはレナードやペインの銘稈と呼ばれるサーモンロッドのテーパーを参考にしました。そして、出来上がったロッドにPVCのスペイラインを通し、テストしました。結果、15フィートのカーボンロッドと11フィートのバンブーロッドでは、そのロッド自重は然程変わらないのに、振った感じは明らかに短いバンブーロッドの方が軽く感じられ、体への負担が軽減されました。それらのロッドの目的と飛距離は全く違うので、一律に比較する物ではありませんが、ロッドは短い程、軽く扱い易いので、ターゲットや飛距離、またフールドや釣法などによってそれぞれデザインされるべきだと考えます。
これまでのバンブーロッド製作に関する研究は、その殆どが耐久性に関する研究でした。これまで述べてきた竹についての真実や事実の検証、そして新しい製法や新しいマテリアル等の提言は、現在、一般的に行われているホームビルダーの為のバンブーロッド製法を否定する物ではありません。耐久性を然程必要としない趣味のバンブーロッド製作であれば、普及している製法で十分だと思います。しかし、接着剤やフェルールなどの重要な部分については、現在入手可能な最高の物に変える事によって、多少なりとも耐久性を向上させる事ができるのです。それはほんの少しの進化ですが、科学が発達した現在だからこそ可能な大きな進化だと思います。
私の真実の検証のスタートは、ストリップの接着、つまり、竹を接着する接着剤から始まった訳ですが、接着剤の研究が一段落したところで、また新たな疑問が湧いて来ました。接着がより完璧であれば、それで良いのだろうか?更にロッドの耐久性を上げる方法はないのだろうか・・・・?そして、私の脳裏に思い浮かんだのは日本国内に存在する竹製の道具達です。剣道の竹刀や和弓など、耐久性を必要とする道具達はどれも黒焦げになってはいない。また、レナードロッド、ペゾン、ハーディー、どれもナチュラルのブロンドカラーである。寧ろ、然程、弾力性を必要とせずに強度や硬さを求められる物、例えば塀や垣根などの一部には焦がした竹が使われる事もある。これはどう言う事なのだろう?果たして竹を火で炙ったり、焼いたり、高温で加熱する事は本当に正しいのだろうか?そして、次々と疑問が疑問を生み、矛盾が矛盾を生んでいったのです。そして、バンブーロッド製法の再考はあらゆる工程に及びました。竹割から始まり、フレーミング、スプリッティング、ストレートニング、ヒートトリーティング、スクレーピング、テーパーデザイン、グルーイング、バインディング、フェルール、塗装、グリップ、リールシート、ガイド、等々。 作り方からデザイン、マテリアルまで、全ての行程に渡りました。この研究は、それらを何度も調べ直し、再テスト、再検証した結果です。また、アメリカの信頼できるWEBサイトからも多くの情報や真実を入手する事が出来ました。それらの中には、今まで日本で紹介されて来なかった物も沢山あります。英語と言う壁がそれを阻んで来たのだと思いますが、目から鱗の情報も数多くあります。それらを分析、研究して来たのは、 只々、納得のいくロッドを造る為であり、真実が知りたいと言う事だけでした。また、アメリカの情報が全てが正しいかと言うと、そうではありません。竹と言う植物を知らな過ぎる面も沢山見受けられます。まさに、How To 本をそのまま真似ているだけのロッドが殆どです。それらも含め、納得出来ない部分があれば、何故だろう?何が原因だ!永い間、それらを繰り返し考え続けて来ました。そして、疑問の答えと真実を見つけ出すためにバンブーロッドの製法を全く逆から辿って考え直したのです。今まで普及して来たバンブーロッドの製法が正しいとは思い込まずに、全く白紙の状態から考え直しました。現在、世界中に普及しているロッド製法の中には、竹の性質や強度、加熱、ロッドテーパー、接着などに矛盾する点が幾つもあるのは確かです。ですから、今一度、原点に回帰し、初心に立ち返り、最初の竹割からロッドの完成までの全工程を全く逆に辿る必要があったのです。そして、最終的に辿り着いた答え、全ての矛盾に対する回答は、ロッド製作のスタートである竹の分割方法にある事が分かりました。更に、ロッド製作の各工程を段階ごとに掘り下げ、因果関係を調べて行く内に、様々な問題点も浮かび上がって来ました。『竹の構造の真実』、『熱が竹の細胞に与える影響』、『竹を接着する接着剤』、『ロッドテーパーと耐久性』、『仕上げの精度(見た目)と耐久性』等々、これらの課題や問題点は、今までのロッド製法に完全に依存していれば、全く疑問に思わない事ばかりです。そして、導き出された真実と答えは、以下の様な疑問の連続から発展した物であり、バンブーロッド製作以外の、竹を扱う分野にまで広く求めた結果と言えます。
『 本当に竹製のロッドは全て弱い物なのだろうか?強さと耐久性を求めて開発された、スプリットケイン工法はそんなに弱い物だろうか?細いティップ部分が弱いのは仕方が無い、だが、何故だろう?細くし過ぎているのだろうか?確かにその通りだ!細すぎる。しかし、キャスティングのし易さや、ラインループを考えれば細くせざるを得ない。しかし、折れ易いのは細すぎると言う理由だけでは無い。他にも考えられる。恐らく、シャフトの曲がりを修正する為の加熱による接着剤の劣化も原因だと思う!曲がっているティップを真っ直ぐに直す為に加熱するから接着剤が劣化剥離する。であれば、加熱しても劣化し辛い、耐熱性の接着剤を使えば良いだろうと思い、接着剤を最新の強力な物に替えて、シャフトに耐熱性を持たせた。しかし、細いティップ部分を弱くする要因は接着剤の他にもあった。それは、竹に張りを出す為にストリップを火で焼いて加熱するからか?或いは、ヒートトリーティングの温度が高すぎるのか?では何故、加熱し過ぎると折れ易くなるのか?それは、竹の細胞が熱によって分解し、劣化して弾力性が失われる為、折れ易くなるのだ。炎によるフレーミングや過度のオーブン加熱を避けて、適温でヒートトリーティングすれば、硬さと弾力性が両立させる事ができるだろう。しかし、それでも細いティップ部分は弱い!何故だろう?節が原因なのか?或いは、パワーファイバーなのか?原因はストリップを細く削る以前の加熱にあった。竹の節を真っ直ぐにしようと焼いて曲げ直す事だった。それは、竹を真っ直ぐに伸ばした様に見えるが、実はその時焼かれた節や前後の細胞が劣化して特に弱くなってしまう。そう、辛うじて節が繋がっているだけで、実はかなり脆くなっている。それは、火で炙った竹と、炙っていない竹を手で折って比べるてみると、直ぐに解かる事だ。節を焼いて曲げ直す作業が、その前後の稈の部分の細胞を熱劣化させている。そして、細胞が劣化して脆くなっていれば、如何に強い接着剤を使っても弱った竹の繊維自体が折れてしまう。つまり、節を焼かなければ強さを保つことが出来るのだ。では、どうすれば節を火で焼かなくて済むのだろう?竹を鉈で割るとストリップの節は始めから曲がった状態で分割される。だから、鉈やナイフで竹を裂くのでは無く、機械で真っ直ぐにカットすれば、加熱して曲げ直す必要も無い。つまり、熱で劣化させずに済む。それに、元々、節で分断されている物なので、初めから繋がってもいないファイバーを曲げて真っ直ぐにする必要があるのだろか?ストリップが真っ直ぐになったからと言って、節で別々になっているパワーファイバーが繋がる筈も無い。そう!始めから真っ直ぐなストリップをマシンを使って切り出せは良いのだ!そして、研究の末に行き着いた結果が、実はH,L Leonard、Payne、Orvisなどの大手バンブーロッドメーカーが昔から行って来た製造方法だったのです。つまり、逆算して行った結果が、原点であるスタートの竹割り、つまりハンドスプリッティングに問題がある事が解ったのです。レナードの様に初めから真っ直ぐなストリップを機械で切り出せば、曲げ直しの必要は最小限になるので、竹を必要以上に焼く必要は無くなり熱劣化させなくても済む。更に熱劣化した節を無理矢理曲げてクラック(ひび)を入れる事も無い。パワーファイバーは真っ直ぐには見えないかも知れないが、元々、繋がってもいないファイバーは焼いて真っ直ぐに見せる必要も無い。つまり、製作工程の随所で竹を焼く事によって細胞を熱劣化させ、自ら耐久性の無い、弱いシャフトを作る事は無いのだ。つまり、このマシーンカットと非炎(Non flame)非加熱製法こそが、耐久性の有るバンブーフライロッドを作る最も合理的な方法である。しかし、レナードやペインによって百年近くも前から完成されていた強く、耐久性のある製法が、いつから違う方向に行ってしまったのだろう?私を含め、世界中の多くのビルダーが多くの時間を無駄にしたような気がする。それも経験と言ってしまえばそれ迄だが、未だに道に迷っているのが殆どだと思う。情報があまりに少な過ぎた為、信じ切っていたのだろう。真の答えは遠の昔に出ていたにも係らず・・・・。もう少し早く原点に立ち帰り、全てを見つめ直すべきだったと思うのです。例えばWebに公開されているロッドメーカーのブログの中にも、「バンブーロッドを作る上で最も難しいのは細いティップの仕上げ削りで、特に細く削って行くと、突然、節の部分からちぎれてしまう事もある。だから竹の中で節は最も弱い部分だ。」と勘違いして書かれている物さえあります。それは節が弱いのではなく、ストリップの曲げ直しの際に節を焼いて細胞を劣化させ、結節を壊してしまったから弱くなったので、熱で劣化した節の細胞はカンナの小さな抵抗だけでも切れるのです。私も、現在の様に熱劣化に関する研究を真剣にする以前は、ティップ部分の仕上げ削りで同じ経験をした事が有ります。但し、ティップ部分の様に極端に細く加工した節は、加熱していなくても稈の部分よりも折れ易い場合もありますが、それは、前記の様に稈のパワーファイバーが節を跨いで繋がっていないと言う証拠でもあるのですが。更に、真っ直ぐで平らなストリップにしようと、必要以上に表面の節の出っ張りを削り過ぎるとと、節部分で絡み合ったパワーファイバーの量が減って、これもまた非常に脆くなるのです。ですから、バンブーロッドのウィークポイントとも言えるティップ部分を守る為には、節の細胞結節を加熱して劣化させない事や、節を削り過ぎない事が重要になります。そして、更に重要な点は、「バンブーロッドのティップの細さには限界がある」と言う真実です。竹の限界強度を無視した細いティップが折れるのは当然の事です。つまり、ラインウェイトやロッドの長さに係らず、バンブーロッドのティップには最低限の強度を保つ太さが必要なのです。それら、細すぎるティップや加熱し過ぎて脆くなったブランク、節を断裂させてしまったシャフトなどで作られたロッドを、『バンブーロッドは竹製だから弱いのは仕方が無い』と片付けてしまうべきではありません。
また、ロッドの見た目や精度も耐久性と大きな関連があります。元々、表面は波打っていて、節ごとにジグザグに曲がっている竹と言う植物を使って、表面がフラットなロッドを作るにはかなりの部分を削り取らなければなりません。また、ジグザグな節の部分を真っ直ぐに直さなければ削りの精度も上げる事は出来ないので、態々節を焼いて曲げ直して来たのです。そして、それらの行為が竹の細胞を弱らせ、強度や耐久性を落とす結果となったのです。つまり、結論から言うと、見た目の仕上げや精度が高いロッドほど、竹(ストリップ)を削り過ぎている可能性があります。例えば、ロッドシャフトの表面をフラットに仕上げる為には、ストリップの表面や節の部分を沢山削り取らなければなりません。本来、耐久性の高いバンブーロッドにする為には、竹の強い部分を出来るだけ多く残す事が要求されます。つまり、表面部分のエナメル質だけを取り除き、エナメル質のすぐ下の表層の太くて強いパワーファイバーを出来るだけ多く残さなければならないのです。しかし、表面をフラットに仕上げるとか、三角形の精度を上げる、或いは、対面幅を揃えると言う『 削り過ぎ 』の行為が竹の強度を落としてしまうのです。それは、見た目や精度の為に大きな犠牲を払っていると言えるでしょう。実際、ロッドシャフトの出来上がりの精度を上げる事、つまり対面幅を揃えたり形状を整えたりする事は、張り合わせたシャフトをサンドペーパーで削る事によって幾らでも修正する事ができます。しかし、表層のパワーファイバーを削り取ってまで見た目や精度を整えても、それはバンブーロッドの命を削りとる事になるのです。世界中の1千種もの竹の中からバンブーロッドの材料としてトンキンケインが使われている大きな理由の一つに、節の山が低く、稈の部分との落差が小さい事が挙げられます。節山が低ければ、フラットにするために削り取る量も少なくて済むので、パワーファイバーの結節に与えるダメージが少なくて済むからです。因みに、真竹の場合は竹の細胞自体がとても柔らかいので、カンナで削るのも然程、力を必要無とせず簡単に削る事ができます。しかし、節山が非常に高く、稈との落差が大きい為、フラットにするには何度も加熱して曲げ直し、また、節部分も大きく削り取らなければなりません。ですから、真竹をフラットにする作業は、強度や耐久性を大きく落とすリスクを伴います。これらの事から、トンキンケインを使った場合でも、強度や耐久性を優先させるには、ストリップを加熱や削りで加工し過ぎない。自然の状態に限りなく近い状態でロッドにする方が、竹本来の強さや性能を維持できると言う事になります。しかし、その結果として、シャフトの表面には歪みや捩じれが生じる事にもなるのですが、どちらが良いかは製作者の考え方に依るでしょう。ただ、レナードに始まる過去の銘竿達も、何故、そこまで焼いて、曲げて、削り取って、強度と耐久性を落としてまでも、見た目や仕上げの精度に拘ってきたのか?時代がバンブーロッドと言う道具にそれを要求していたのか?勿論、彼らもそのリスクを承知の上で、必要以上の精度や見た目の美しさに拘っていたいたのだと思わざるを得ません。また、珍しい製法としては、表面のエナメルさえも削り取らすに、そのままロッドにしているビルダーもいます。
また、ヘキサスタイルバンブーロッドではロッドのフィニッシュ(仕上げ)に関しても、最も合理的で耐久性を重視したフィニッシュ方法を選択しています。仕上げの種類や方法によっては、ロッドの耐久性や扱い易さが大きく変わって来るので、個人的な好みは別にしても、バンブーロッドの仕上げで最も耐久性が高いのは、ウレタン樹脂によるディッピング塗装と言えるでしょう。ウレタン樹脂よるクッション性はフライロッドの、特に細く、繊細なティップを守るベストな素材だと思います。更に、バンブーフライロッドの敵は水分だけではありません。時には河原の石にぶつけたり、擦ったり、木の枝に当たるなど、フィールドでは色々な物への接触が付き物です。バンブーロッドの2o程しか無い細いトップと、川原に茂る直径20〜30oの木の枝では、どちらが強いかは歴然です。ティップへの衝撃は他にもありますが、例えば自身のフライフックとの接触などもそうです。特にストリーマーやウェットフライなどの大きなフック、ウェイテッドニンフの重いフックなどが、キャスティング中にハイスピードでロッドシャフトに接触した場合、大きなダメージを与えます。キャスティングが上達して、自らのフライをロッドティップに当てる事が無くなったとしても、突然の強風で煽られたフライがティップを直撃する事もあります。その時は気付かない様な、目に見え無い程の小さな傷でも、後々、ロッドティップを折ってしまう原因になります。それらが原因でよく起こるのは、フォルスキャスト中に何の前触れも無く、突然、ロッドティップが折れてしまう場合です。それは、その時のキャスティングの過負荷によって折れたのではなく、以前に付いた小さな傷が徐々にパワーファイバーを切断し、そして亀裂となり、或る日、突然、その亀裂が原因で折れてしまうのです。カーボンロッドなども同じ原因で折れる事が多いのですが、カーボンロッドの場合は傷を発見しても簡単に修復する事はできません。それは、エポキシ樹脂が、既に硬化している樹脂とは溶け合わずに弾いてしまうからで、同じエポキシ接着剤による修理でも元の状態に修復する事はできません。しかし、バンブーロッドのウレタン塗装ならば、ウレタン樹脂もホームセンターで簡単に手に入る上、小さな傷なら自分で修理ができます。ウレタンは元の塗装と補修樹脂が一体化し易いので、楊枝などでほんの少し塗るだけで修理が可能です。また、ウレタン樹脂はその手軽さの他にも、非常に弾力性と柔軟性があるので衝撃に強く、更には、亀裂が入り難い、割れ難いと言った利点もあります。2回、3回と重ね塗りする事で厚くなった塗装は、更にクッション性と保護性が増してシャフトに傷が付くの防ぎます。(ウレタン塗料は表面が乾き易いので、すぐに使用可能ですが、厚く塗った場合には内部まで完全に硬化乾燥するのに6か月〜1年の時間を要します。時間の経過と共に、乾燥、収縮して行きますので、徐々に薄く、硬く締まって行き、色も濃くなって行きます)。ロッドシャフトの耐久性を更に向上させるには、ガイドを取り付ける前に塗装する事も良い方法です。ガイドやフェルールのスレッドを巻いた部分は、ロッドを曲げる事によってクラック(ひび)が入ります。そのクラックからシャフトへの水の浸入を防ぐ為には、ガイドを付ける前に、一度、ロッドシャフトを完全に防水塗装する事が望まれます。完全防水塗装の利点は水分の侵入を防ぐ事にありますが、竹その物への影響の他にも、シャフトを張り合わせている接着剤を守ると言う重要な役割もあるのです。ただし、ウレタン樹脂と言えども水分や酸素に対しては完璧では無く、長い年月の間には劣化(風化)して剥がれて来る場合もありますので、定期的に乾燥させる事が大切です。また、湿度に弱い性質(加水分解)もありますので、湿度が多い地域で長期間使用しない場合は、ロッドケースから出して保管する事をお奨め致します。ある程度古いロッドであれば、一度塗装を完全に剥がして、新たに塗り直すリバーニッシュがお奨めです。リバーニッシュの時期としては、塗装の痛み具合にもよりますが10〜20年程度で、完全に塗装し直した方がロッドが長持ちします。この様に塗装も新品同様にリフィニッシュできるのがウレタン塗装の利点といえます。Hexastyle Bamboo Rod ではウレタン塗装の前に、更に一度、防水塗装を施していますが、その塗装には接着剤や竹を紫外線から守る効果を持たせていて、ウレタンディッピングと合わせて二重の防水構造になっています。また、オイルフニッシュについてですが、個人的にもその風合いが好きなのと、塗料の重量分、ほんの少しだけ軽く作れる事、ブランクその物のロッドアクションが楽しめる、などの点で好感が持てます。自分でも過去に数本作っているので、現在でも使用していますが、フランクを守る為の塗装が無いので、実際のフィールドでは表面に剥き出しのパワーファイバーに傷を付けてしまう可能性が高く、使用頻度は然程多くはありません。また、防水性を維持する為に定期的にオイルを塗らなければならない手間も難点と言えるでしょう。更に、ロッドシャフトをオイルで防水しても、ストリップの接着剤まで防水する事はできません。その為、水分に弱い水性接着剤で作られたシャフトであれば、シャフトが剥離する可能性も出てきます。ですから、ロッドの耐久性とメンテナンス性を考えると、やはりウレタン樹脂のディッピングによる完全防水が最も扱い易い仕上げ方法と言えます。更に、薄い塗装では衝撃保護性能が低いので、多少重量が増しても厚めにしっかり塗装する方が良いでしょう。まずは、恰好よりも、見た目よりも、軽さよりも、竹のシャフトを保護する事が第一です。そして、塗装が剥げた場合や傷が多くなって来たら、中のブランクがダメージを負う前に、早めにロッドメーカーにリフィニッシュしてもらう事が大切です。多少のコストは仕方ありませんが、そうする事で、ロッドが新品同様に戻り、お気に入りのロッドの寿命が更に伸びるのです。
フライフィッシングに出会ってから今までずっと、カーボンロッドでフライキャスティングを追及して、トラウトをたくさん釣って、そして、そろそろ自分のフライフィッシングも完成かな?と思い始めた頃、さほど興味も無く、あまり係りたくは無かった古い時代の釣り竿、そう、バンブーフライロッドを手に入れてしまった。心の奥底ではバンブーロッドに対する憧れは昔から有ったのかも知れないが、何と無く奥が深そうで、嵌りそうな予感はしていた。だが、高価な道具にしてはカーボンロッドより性能の劣る竹竿をわざわざ買う事も無いだろうと自分に言い聞かせ、避けて通って来たような気もする。そして、釣果やキャスティング性能が全てだった頃はバンブーロッドを完全に否定していた時期さえ有ったと思う。しかし、その逃避行動は、まるで運命だったかの様に突然終わりを告げてしまった。コレクションのつもりで何と無くニューヨークで手に入れたその新品のアメリカ製のバンブーロッドが、自分の中では既に終盤を迎えていたフライフィッシングを更に続ける理由になってしまった。そして、それは予感していた以上に底無しの深い世界だった。 私はコレクターでもなく、特別、物作りが好きな訳でも無かったが、徐々にバンブーフライロッドと言う底なし沼に嵌って行きました。当時はフライロッドがグラスロッド、カーボンロッドへと進化して行く真っ只中で、その頃日本で流行っていたバンブーロッドと言えば、重くてスローアクションでキャスティングし辛い昔の道具だ、と言うのが一般的でした。 しかし、私が手に入れたその3#のバンブーロッドはまるで違っていて、決してカーボンロッド程軽い訳ではないが、持ち重りせず、張りのある軽快なドライフライアクションのロッドでした。これは使える!カーボンロッドよりは、少し重くてスローなアクションだが・・・。当時のグラスロッドと然程変わらない使い勝手のそのロッドと出会った事がバンブーロッドを造るきっかけとなったのです。更に、どうせ造るなら銘竿と呼ばれる本物を実際に使ってその性能を知らなければ、ただの数値データや本からの知識、想像だけでは良いロッドは造る事が出来ないと思いました。そして、アメリカの友人を通してペインやレナードなどを代表するモデルの中から、程度の良いものを数本入手して研究し始めたのです。まずは銘竿と呼ばれるロッド達のコピーでも造る事が出来れば良いと思いつつも、いつの間にか自分の中では、より進化したバンブーロッド、性能面でカーボンにも渡り合えるような新しい時代のバンブーロッドを造ろうと思う様になっていました。軽量化の為の中空化(ホロー構造)やロッドアクションの変更、テーパーデザインの変更、フェルールの軽量化など、色々試行錯誤して試してみましたが、それらの新しいアイディアを取り入れたテストロッドは、結局、作りたての時は快適でも、時間の経過と共にどうしても耐久性と言う釣り竿として最も重要な部分を犠牲にしてしまう事になりました。ワンシーズン、或いは5〜6回の釣行でブランクに大きなダメージを負ったり、折れてしまう様であれば釣り道具とは言えないし、ロッドを抜き差しするだけで壊れるようなフェルールや、入らなくなったり、抜けなくなるフェルールでは釣りにはなりません。つまり、ストリップの接着やテーパーデザイン、ロッドの軽量化、フェルールの材質や工法など色々試して新しいアイディアを世に送り出すには、最低でも5年、出来れば10年以上の強度・耐久テストを経てから出さなければならないと感じました。材料や道具には経年劣化と言う、時間の経過と共に自然に性能が低下して行く現象があるのです。接着剤なども乾燥や酸化の他、自らの化学反応が進んで硬化し過ぎる劣化もあるのです。つまり、出来たての真新しいロッドの強度や限界をテストしても、そのロッドの本当の性能や耐久性を知る事は出来ないのです。また、ロッドのアクションやテーパーに関してもペインやレナード、その他の銘竿と呼ばれるロッド達のテーパーを悪戯に変更するだけでは部分的に耐久性を落とすだけで、実用品とは言えないのです。竹と言う素材を使って、敢えてカーボンロッドの様な竿を作る必要は無いだろうし、軽い事よりも寧ろ美しく、丈夫である事の方が重要です。そして、仕上げや精度、テーパーやアクション、構造や重量、コスメティックや塗装など、これら全ての要素は、より丈夫でタフなブランクの接着、製造があって初めてその価値が見出される事です。そして、ハンドメイドの高価な道具だからこそ、作る側は10年後、20年後、30年後、或いはそれ以上、自分の作ったロッドで魚が釣られているのを想像しながら作らなければなら無いと思います。
もし、バンブーロッドをこよなく愛すフライフィッシャーに、その多数のコレクションの中から『最も好きな1本は』と尋ねれば、恐らくそれは軽いだけのロッドでは無く、美しいだけのロッドでも無いでしょう、そして、キャスティング性能が優れているだけのロッドでも無いような気がします。恐らく、本当に好きな1本とは、気を使わずにいつも安心して使えるロッドではないかと思います。その相棒の様なバンブーロッドにはカーボンロッドに対する優位性も必要もありませんし、勝っている部分が無くても構いません。最新のマテリアルで作られたカーボンロッドに性能面で劣るのは当たり前の事です。ただ、いつも気持ち良く、安心して使えるロッド、余計な気を使う事も無く、普通に使える普通のロッドこそが、一番大切なロッドだと思います。私も今は、只々シンプルで美しく、永く使えるロッド造りを目指すようになりました。飾り物ではなく、実際にキャスティングし、魚を釣って楽しめるバンブーロッド。1回でも多く釣行に付き合ってくれるロッド。それに、ほんの少しの美しさがあれば上出来です。
バンブーフライロッドの原材料としての竹に求められる物、相応しい竹を選ぶ要素、それは、大別すると4つの点が挙げられます。まず、第一に強くて硬い竹である事。それは、完成したフライロッドに適度な張りと硬さ、耐久性とキャスティング性能をもたらします。そして、第二点はパワーファイバーがあまり太過ぎず、密度が濃い事。これは、ライトロッドに欠かせない細いティップを作る上でも重要な点です。この2つの優位点がロッドを使う側にとっての恩恵でしょう。更に、第三点目として節と節の間(節間)が長い事です。それは、ロッドの中の節数を出来るだけ少なく出来るからです。節数を減らす事によって、前記の様にロッドを作る過程で節山を削り取って表面のパワーファイバーの連結を断裂させてしまうリスクを減らすことができます。また、曲がりを直す為に加熱する(焼く)部分も減らす事が出来るからです。そして、第四点目は第三点目と関連しますが、それぞれの竹の持つ節の形状です。トンキンケインは節山がとても低いので、表面をフラットにする為に節山を削り取る部分が少なくて済むからです。その為、削る際に節の前後のパワーファイバーの連結をあまり壊さずにフラットに出来る利点があります。第三と第四はロッド製作側のメリットですが、それらの事から、硬さ、強さ、耐久性、バンブーロッドの作り易さなど、全てを考慮した上で世界中に分布する竹の中から最もバンブーロッドに適しているのがトンキンケインであると導き出されたのです。しかし、現代に於いても、竹が最も多い東南アジアには、未だに未開の地もたくさん在ります。ですから、将来、トンキンケイン以上にバンブーフライロッドに適した、前記の4つの点をクリアーする竹が発見される可能性は否定できないところですが・・・。
竹と言う天然素材でフライロッドを作る上で、現代の技術を使って更に進化させる事ができるとすれば、それは当時には無かった強力な化学接着剤を使って、より耐久性と強度を高めたロッドを造る事です。そして、トンキンケインのバンブーロッドをより使い易い物にする事がバンブーロッドの進化だと思います。羊の皮を被った狼ではありませんが、外見はあくまでもトラディショナルで美しく、しかし、釣り竿として振られた時はその繊細なキャスティング性能と耐久性を発揮する道具、現代のバンブーロッドはそんな道具であってほしいと思います。ただ、ロッドのコスメティックだけは、やはり格調高く贅沢に、トラディショナルに行きたいものです。今のPVCラインには少し小さいが、天然瑪瑙のストリッピングガイドや昔しながらの小さ目のハイカーボンスネークガイドにトップガイド、ニッケルシルバーのリングにエンドキャップ。そしてステップダウンのニッケルシルバーフェルールなど。やはり、何時の時代もバンブーロッドは美しく贅沢な材料やパーツを敢えて使い、高価で格調高く、豪華で美しい存在で在りたい物です。バンブーロッドの仕上げをコスメティック(化粧)と言いますが、とてもいい響きです。それは、単にパーツを組むのではなく。美しく仕上げると言う意味が込められています。 そして、これから先もバンブーロッドはフライフィッシングを始める人達の羨望の的であってほしいし、夢であってほしいと思う。 昔、皆がそう思っていた様に高嶺の花の方が魅力的だと思う。手に入れる事ができた時の喜びと感動は大きい方が良い。大の大人が子供のように、釣り具屋の鍵の掛かっているショーウィンドウを覗き込む。スポットライトが当たった銀色のパーツやバーニッシュされたシャフトがキラキラ輝いている。ゼロが1つ多い値段。チョット怖いが、それを触るには店員さんに頼んでショーウィンドウから出してもらわなければならない。いつの日にか手に入れてみたい。いつの日にかそのロッドを持って川に立ちたい。そんな思いや憧れも心地が良いものです。バンブーロッドとは、永く、大事に大切に使う道具であり、絶対に壊れて欲しくない一張羅、特別な釣りの日に使う特別な釣り竿、そんな道具であって欲しいと思います。作る側も折れ難いロッドを作る努力をし、また、使う側も折らない技術を習得する。両者の協力でより永く、時代を超えて生き残るバンブーフライロッドの世界が続いて行くと思っています。
ここで、大切なロッドには少しでも長生きしてもらいたいのでバンブーロッドの使用法について・・・・。それには、まず、バンブーロッドが折れる要因について考えなければなりません。グラスファイーバーやカーボンファイバーよりも、素材自体が圧倒的に弱いのは明らかなので、そこを踏まえた上での使用方法を実戦しなければなりません。考え方としては、バットセクション、ミドルセクション、ティップセクションと分けて、原因と対策、使用法を考えるべきでしょう。まず、大前提として、キャパシティー以上の大物に折られる事故は問題外なので、排除しなければなりません。それは、流石にカーボンロッドも同様で、対象外の大きさの魚を掛ければ、アッサリと折られてしまう事もあるからです。では、そのロッドに相応しいターゲットはと言うと、それも、ロッドの番手や長さによって変わるので、実際は「ロッドが折れない範囲」としか言い様がありません。つまり、使用者に委ねるしか無いのです。放流魚や釣堀を除いては、釣行ポイントの流れを見れば、おおよそのターゲットは絞れます。通常はその様にしてタックルを選択するので、突然の大物にロッドを折られると言う事故は殆ど無いでしょう。しかし、バンブーロッドでやってはいけない、釣り師の性が生み出す根本的な問題点があります。ある程度、熟練した釣り師ならば、それを犯す事無く、自ら適正なロッドを選べますが、そうなる以前は、弱いタックルで大物を釣りたい、ロッドの限界を超える大物と対戦したい、或いは、俗に言う処の『ロッドが満月の様に曲がる』などの危険な夢に侵されます。これら釣り師の夢は、それを経験するまで消える事はありません。勿論それは、日本だけに限らず世界中の初心者の誰もがそう思っています。しかし、実際のところはロッドのキャパシティーを越えた釣りと言うのは、決して楽しい物ではありません。満月どころかロッドはのされて、ただの棒状態、立てれば折れるので水平のまま、後はラインが切られるのを待つだけと言う、手も足も出ない惨めな状態に陥ります。また、こんな良くある間違いも考えなければなりません。「10pの山女魚や岩魚でも曲がるロッド、楽しめるロッド」、そんな表現を見かける事もありますが、そんな弱いロッドでは、フライキャスティングその物に耐えられる筈もありません。鱒を釣る以前にキャストを繰り返すだけで、その負荷によって折れてしまいます。私自身はその日の対象魚が10〜15pと小さくても、現在、3番ロッドは殆ど使わずに4番を使います。北海道と言うシチュエーションを考えれば、30p以上の鱒も釣れる可能性が高いので、最低でも4番ロッドが適正と考えています。無論、3番ロッドでも釣りは可能ですが、ロッドへのダメージや耐久性を考えれば、常にターゲットよりもタックルの方が勝っている状況を選択すべきだと考えます。それが、大切なバンブーロッドを守る最良の方法と言えるでしょう。では、ロッドティップが折れる原因ですが、基本的にティップのエリアは魚の引きやファイトによって折れる事はありません。もし、それで折れたとすれば、予め、竹のシャフトに小さな傷や割れ、ヒビが入っていたと考えるべきでしょう。その他に考えられるのは、バーニッッシュの割れや隙間から、水分が入ってシャフトが腐って脆くなっていたとも考えられます。それらの傷は、釣り場での転倒や、木の枝にぶつけるなどの事故や、セッティング中に車にぶつける等、知らず知らずのうちに起こす事故が多いのです。それらは、肉眼では見えない程の小さな傷でも、致命傷になる場合もあるのです。更に、最も大きな要因と考えられるのは、やはり、シャフト内部の接着剥離です。殆どの場合、その内部剥離が原因でティップが折れるのです。シャフトが内部で剥離する原因の一つは、製作上の欠陥が考えられます。つまり、接着剤の強度と耐久性、加熱による接着剤の劣化などの問題です。また、これも根本的原因の一つですが、明らかに「細すぎるティップ」です。これもロッドのテーパーデザイン上の欠陥と言えます。キャスティングのし易さを目的として、細く過ぎるティップを作った場合、キャスティングやランディングの負荷に耐えられずに、パワーファイバーの断裂や接着剥離を起こし易くなります。これらの製作上の欠陥は、ユーザーの責任ではありませんが、バンブーロッドに於ける最大の問題点である事は間違いありません。では、ユーザー自身が、ティップ内部の接着剥離を予防する使用方法は無いのかと言うと、唯一あるとすれば、それは、なるべくティップを曲げない様にする事だけです。「ティップを曲げない」と言うのは、キャスティング中のことではありません。先に述べたように、キャスティングの負荷と、曲がりでティップが折れる事はありません。細いティップを弱らせるのは、魚をランディングする時のロッドの曲がり方なのです。魚とのファイトの負荷は、然程のダメージにはなりません。最も危険なのは最後の寄せで、まさしくキャッチの瞬間なのです。ロッドを垂直に立てて魚を寄せると、ロッドの先端はUの字に曲がります。その、Uの字に曲げる行為こそが、バンブーロッドの大敵で、ティップ部分に大きなダメージを与えます。勿論、カーボンロッドならば、Uの字に曲げてランディングしても殆ど問題はありません。しかし、竹製の細いティップには致命傷となるのです。そして、この行為の繰り返しが、バンブーロッドのティップを弱らせ、折ってしまうのです。ですから、ランディングの最後にはロッドティップをなるべく曲げないで取り込むテクニックを身に付け、実戦する事が重要です。次に、フェルールを含むミドルエリアですが、ここでは、フェルールとシャフトの接点が最も折れ易い部分です。この部分に付いても、製作時の欠陥が考えられます。例えば、フェルールを取り付ける際に、シャフトの挿入部分を削り過ぎた場合、最も強度のあるパワーファーバーを削り取ってしまうミスが起こります。これも、ユーザーには対処でき無い問題ですし、フェルール前後が折れる最大の原因となります。しかし、フェルールの前後が折れる原因には、キャスターの技術に問題がある場合もあります。それは、力の入れ過ぎ、即ち、オーバーパワーの負荷が、フェルール前後に掛かり、シャフトを壊してしまうのです。特に、フォールスキャストの最中にタイミングを崩してしまった時です。例えば、ループにパワーが無くなったり、ラインを失速させてしまった場合などです。慌てて、ループをリカバリーしようと、必要以上の力でロッドに負荷を掛けてしまう場合です。これも、カーボンロッドの場合は無理矢理、力ずくで持ち直す事ができますが、バンブーロッドにとっては、このリカバリーによる強烈な負荷も致命傷となり兼ねません。そして、これも繰り返される事によって、フェルール前後の部分を集中的に傷める事になるのです。ですから、キャスト中にタイミングを外してしまった場合いは、無理矢理リカバリーする事無く、あっ!外れた!と思ったら、フォールスキャスト自体を途中で止める事です。そして、改めてキャストし直す、と言う癖を日頃から身に付けるのが、ロッドを傷めない唯一の方法と言えます。最後に、バットセクションですが、バット部分は太いのであまり折れると言う事はありません。しかし、これも、過度の負荷によって、シャフト内部が剥離する事があります。バットセクションの内部剥離は、シャフトが折れるところまでは行かなくても、ロッドアクションその物に悪影響を及ぼします。ロッドに張りが無くなったと感じたり、少し、スローアクションになったと感じられた場合はシャフトのバットセクションにダメージを負ったと考えられます。原因は、キャスティング時の無理な過重などですが、特に、前記の様な、フォルスキャストのタイミングミスはバットセクションにも大きなダメージを与えます。また、強風の中でのキャスティング、無理にループを保つための過重もバット部に相当の負荷を掛けるのです。これらの点に留意し、テクニックなどを更に研究して扱えば、より永くバンブーロッドを使う事ができるでしょう。
現在まで数多く残ってきた、レナード、オーヴィス、ペインなどの銘竿達。しかし、それらの丈夫なロッド達でもオークションでは、ティップがショートしている物や1ティップしか残っていない物が沢山有ります。やはり、バンブーロッドのティップがそれ程強くは無いのは事実です。しかし、バンブーロッドならではの使用法や、カーボンロッドとは少し違う扱い方を知る事で、より永く使う事ができます。魚を取り込む際にロッドを立て過ぎない、ティップが曲がるのを極力抑える。また、キャスティング時には必要以上の無駄な負荷を掛けない事。それにはカーボンロッドが登場して以来普及した、ロングリーダー、ロングティペットを使わない事も重要です。力が伝わり難く、ターンオーバーし難いロングリーダー、ロングティペットは無理にターンオーバーさせようと、ロッドに必要以上の負荷を掛けます。ですから、それらのシステムはカーボンロッドを使う時に限るべきで、バンブーロッドの性能を考えると、昔ながらのショートリーダー、ショートティペットを使ったアキュラシー重視のショートキャスティングスタイルにすべきです。咄嗟のロングキャストを必要とされるシチュエーションは仕方ありませんが、基本的には、ロッドに高負荷を掛けるロングキャストは避ける事が望ましいのです。更に、細いティップを守る有効なテクニックとしては、フライラインとリーダーの繋ぎ目をトップガイドの中まで巻き込まない事も重要です。それは、再度フライラインを引き出す時に、そのままフライを引っ張ると、ロッドのティップ部分だけを大きく曲げてしまいます。更に、繋ぎ目がガイドに引っ掛って、ガイド前後のブランクに大きなダメージを与える場合もあるからです。繋ぎ目がガイドに引っ掛かるショックはカーボンのティップさえも折ってしまう程の負荷だからです。それを回避する為には常にフライラインの先端がトップガイドから出ている状態にする事が重要です。方法としてはリーダーとティペットを足した長さを10フィート程度に留め、尚且つ、フックキーパーは使わずにトップ側から来るリーダーをリールに掛けて、フライフックをフェルール前後のガイドに引っ掛ける仕舞い方が有効です。特にポイント移動など、すぐに使う場合はこの方法が有効です。因みに、私はフックキパーを使う事はありません。この様に、ほんの少し取扱いに注意するだけで、ティップ部分に与えるダメージを極端に減らす事が出来ます。また、バンブーロッドにキャスティング練習は必要ありません。カーボンロッドが無かった時代は、初めてフライロッドを振る入門者も難しいフライキャスティングの練習をバンブーロッドで行わなければなりませんでした。そして、真面に釣りができる様になるまで、何本ロッドを折ったことでしょう?ラインループとタイミングを体得する為に、どれだけ無駄な負荷を掛けたでしょう?しかし、カーボンロッドが誕生してからは全く変わりました。誰もがすぐにキャスティングをマスターできる様になり、多少のタイミングのズレは力で修正する事ができます。そして簡単に折れる事もありません。しかし、そのタフなカーボンロッドを使い熟し、慣れ親しんだ現在のフライフィシャーがそのままバンブーロッドを振るのは、やはり危険と言わざるを得ません。力ずくで無理矢理キャストする癖が多少なりとも出て来るからです。それも、バンブーロッドにとっては大きなダメージとなります。ですから、初めてバンブーロッドを手にする時は、カーボンロッドのキャスティングを出来るだけ忘れて、新たに『バンブーロッドのキャスティング』を一からマスターするぐらいの気持ちで取り組む方がロッドを傷めずに上達も早くなるでしょう。フライフィッシャーの憧れであるバンブーロッドも卑下した言い方をすれば、竹ひごをボンドで張り合わせているだけの弱い素材なのです。どんなキャスティングをしても問題の無い無敵のカーボンロッドとは全く違う物なのです。ただ、救いなのは、今の時代、高価なバンブーロッドを使おうと言う人は、殆どがフライフィッシングのベテラン達です。既にカーボンロッドでフライキャスティングをマスターし、魚も沢山釣ってきた上級者ばかりです。つまり、キャスティング練習を必要としない人達なのです。ですから、バンブーロッドは実釣のみに使うべきであり、キャスティング練習は最小限に留めるべきだと思います。キャストすればするほど、シャフトの中の竹繊維が一本一本切れて行く現実を知る事です。タイミングやラインスピードなど、カーボンとのほんの少しの違いは、フィールドで2〜3度振れば判ります。ですから、無駄なキャスティング練習で竹を虐めるのは止めて、永く使える様に大切に扱いましょう。大事なロッドの寿命をが少しでも延びる様に。
今でもカーボンロッドはたくさん持っていますが、殆ど使う事が無くなってしまいました。何故なら、カーボンロッドを握った時、そこには魚を釣る行為と釣果だけが存在し、どうしても攻めの釣りになってしまうからです。パーフェクトなキャスティングに完璧なドリフト、ベストな合わせに素早い取り込み、それら一連の動作を完璧に熟さなければならなくなり、フライフィッシング独特のゆったりとした時間の流れを持てなくなってしまうからです。私の中ではカーボンロッドを握った時、ボウズは許されません、大物を釣らなければ成りませんし、沢山釣らなければ成りません。しかし、バンブーロッドで釣りをする時は全く違います。大物でなくても良いし、釣れなくても構わない、と言う気持ちになれます。特に天気のいい日は余計にそう思える気がします。美しい流れと明るい陽射し、周りの緑、そして綺麗なバンブーロッド。その空間がとても気持ちいいのです。私も年に一度は60年前のペインを持って、ゆったりと山女魚を釣りに行く時間を作るようにしています。それは今の私のフライフィッシングその物なのです。仮に耐久性やキャスティング性能に於いてペインロッドに勝るロッドを造れたとしても、私のジム・ペインに対するリスペクトが無くなる事は無いでしょう。何故ならば、たった一言、それはペインロッドが余りにも美しいからです。当然、パーツは贅沢な物を使っていますが、無駄に飾り過ぎずシンプルに纏っている。そして、ロッドブランクの深味のある茶色は見る程に美しさを増し、控えめなラッピングカラーと、そして何よりも、そのプログレッシブアクションが作り出すナチュラルなキャストフィーリングはまさしく完璧です!それに浸れる時間が何よりも幸せなひと時だからです。
今は時間もあまり無くなり、昔ほど釣りに行く事は出来なくなりました。たまに行っても、それはロッドのフィールドテストが目的で、耐久性やキャスティング性能をチェックするだけです。取り敢えず、全てのロッドラインナップでフィールドテストは続けていますが、それにはロッドの耐久テストだけでは無く、フライラインとの相性も確かめる目的もあります。PVCラインやシルクラインで、それぞれ何番のウェイトが合うかのテストです。魚釣るのが目的では無く、リーダー、ティペット、フライまでのターンオーバー、パワーの伝達を確かめるのが目的です。因みに、昔は、フライラインはダブルテーパーの方が前後を逆に巻き直せば2回分使えるなどと、せこい目的でDTラインを多用していましたが、後になってWFラインの方が良い釣りが出来る事から、WFラインを使う様になりました。元々、ロングキャストの為に開発されたWFラインですが、DTに比べるとテーパーの差が大きく、ターンオーバーのパワー伝達性に優れます。その為、大きなドライフライや、ウェイテッドニンフのターンオーバーもし易くなります。特に、ショートレンジの釣りには最適で、短いラインでもパワーがより伝わり易いテーパーになっている為、ロールキャストにも有効です。勿論、ロングレンジに於いては、シューティング性に優れる本来の性能が発揮できます。ですから、現在のDTラインの使い道としては、小さなフライと細いラインを水面に静かに落とさなければならない様な特殊なシチュエーションに限られます。シルクラインにはPVCラインの様な大きなテーパー差を付け難いので、多少のテーパーは付いていますが、殆どパラレルライン(テーパーの無いストレートなライン)と思って使う方が良いでしょう。この様に、ロッドのテストが目的なので、自分の好きな流れ、好きな魚を選んで釣りに行く事は無くなりました。しかし、自らバンブーフライロッドの強度と耐久性の向上を求め続けるのは、自分自身の中でバンブーロッドと言う物が釣竿以上の存在である事と、何よりもその美しさに魅せられ、造り続けているからだと思います。ただ、私は職人肌の人間ではありませんし、同じ事を繰り返す単純作業と言うのは性に合いません。どちらかと言うと苦手な方なので、ロッドも沢山作りたいと思った事はありません。恐らく、新しい物を造ったり、研究開発するといった方が好きなタイプの人間だと自分では思います。だから、ただ1本、本当に自分自身が納得できるバンブーロッド、自分が持つフライフィッシングの知識、経験、技術の全てを注ぎ込んだ納得できる1本をいつか造ろうと夢見て造り続けているのでしょう・・・・・。実のところ、本物のエンスージアストなのかも知れません。
また、Hexastyle バンブーロッドは、釣堀や管理釣り場での使用を想定していません。あくまでも自然の流れの中に育つネイティブトラウト、ワイルドとの時間を共にする、或いは、楽しむ事を前提としています。それは、ロッドのキャパシティに合ったフィールドや魚と対戦する事を理想としているからです。つまり、明らかにキャパシティを超える大きなの魚が放流されている釣堀や管理釣り場で、ロッドに無駄なダメージを与えるのはバンブーロッドの存在意義にそぐわないと感じるからです。もしも、大きな魚を釣る事が目的ならば、それはバンブーフライロッドの出番では無く、それこそカーボンロッドに任せるべきです。
最近、無性にスタンダードフライが懐かしく思う時があります。昔、フライタイイングの本をアメリカから沢山取り寄せて一生懸命勉強した頃が懐かしく思えます。最新のカーボンロッドを握りしめて海外釣行していた頃は、たくさん魚を釣る為にありとあらゆるフライを巻いたのも懐かしいし、アメリカからCDCフライが紹介された頃はフライの革命だと思ったものです。しかし、殆どバンブーロッドばかりを使っている今は、何故かクラッシクなコックハックルフライを結びたくなる。セオドア・ゴードンのクイル、ケイヒル、アダムス、マーチブラウン、などのスタンダードフライは、今のCDCやシンセティックマテリアルに比べれば浮力が無く、濡れやすい。しかし、今敢えてバンブーロッドでこれらスタンダードフライをキャストしたい衝動に駆られます。沈む、シルクラインも然程苦にはなりません。今なら、持てるテクニックを駆使してこれらのクラシックフライやラインを上手く使いこなす事が出来るような気がする。バンブーロッドのスローなラインスピードならば、スタンダードなハックルフライも回転し辛く、細いティペットにパーマも掛からない。昔はカーボンロッドのハイスピードラインとロングキャストでハックルフライが回転する事にイライラした物だ。だが、今はバンブーロッドのスローなラインスピードでゆっくりとロングキャストしよう!昔の様に風を切り裂くナローループもラインスピードも必要ない。だからバンブーロッドを理解した今、それを振っていると100年前のキャッツキルと繋がるような気がして来る。そして、ずっとバンブーロッドを造り続けるのも、もしかしたら、自分がフライフィッシングを本格的に始めるキッカケとなったアメリカ東部、ニューイングランド地方のニューヨーク・キャッツキルの歴史に追い付き、追い越したいとさえ思っているからなのかも知れない。私自身、初めからバンブーフライロッドに然程の思い入れがあった訳では無い。私にとってはそれ程、価値を見い出す物でも無く、東部アメリカで自然に出会った、ただの古道具だった。だから、これまでバンブーロッドに対して特別な憧れや、それ以上の夢を持つ事も無く、どちらかと言うと、使っている時間よりも作っている時間の方が長かった。一時期、偉大な銘竿達に憧れを持った時期もあったが、率直なところ、今はペインやレナードに対しても、自分が作るロッドと同じバンブーロッドとしか思っていない。ただ、歴史が作って来た価値観だけは比較できる物では無い。ある意味、その価値観だけが私にそれらを使わせる理由なのかも知れない。だから、今でも自分自身の為に、恐らく、自分が理想とするロッドを作り続けているのだろう。それと、ほんの少しだが、現在フライフィッシングに出会っているアングラー、これからバンブーロッドに出会う事になるだろうフライフィッシャーに、自分が虜になったバンブーロッド、美しく、より永く使えるバンブーロッドを提供できればと思い、造っているのかも知れない。いや、ただ単にフライフィッシング、バンブーロッドが好きだからだと思う。もしかしたら、私の造ったロッドは、私の大好きなペインやレナードの実動部隊、実戦部隊なのかも知れない。つまり、私はそれらのアヴァターを造って来たのではないだろうか?だから、実物たちはいつも私の部屋に置いてきぼりになり、フィールドに出向く事も滅多に無かった。しかし、私が本当に望んで来たのは、ただの実戦用ロッドを造る事では無く、それらアヴァターを超える戦闘員を造ろうとしていたのだと思う。
カーボンロッドと言う高性能な道具で手軽にフライフィッシングを楽しめる今、誰もが敢えてバンブーロッドを使う必要は無いと私自身も思います。しかし、先に綴ってきた様に、私がバンブーフライロッドの本質を突き詰めようとするのは、フライフィッシングその物が、只の魚釣りでは無く、アウトドアーの本質である、「自然に深く張り込んで真っ向から対峙しなければ釣ることができない。」と言った、自然との密接な関係を求める釣りだからだと思います。そこには化学繊維などの人工物を寄せ付けない、自然に対しては自然の道具で、と言う世界観が存在する様な気がします。それが、現代のフライフィッシングの一部をバンブーロッドに回帰させている理由なのかも知れません。良い例えかどうは判りませんが、狩猟で言うならば、圧倒的な殺傷能力を持つショットガンやライフルを使うのでは無く、弓やボーガンで動物と戦う世界、それが、究極の釣り竿であるカーボンフライロッドから離れる理由のような気さえします。高性能な道具を使う事で、あらゆる状況下に於いて獲る側が獲られる側より有利な関係、それが退屈になるのかも知れません。更に使うフライも変わって来たのは事実です。あれ程、追い求めて来た毛鉤の先進性も、今は以前の様に浮力と視認性の為にシンセティックマテリアルを使う事も無くなりました。然程、浮かなくても鳥の羽根や動物の毛で作った毛鉤で十分だし、無理にプラスティック素材を使う必要も無いと思う自分がいます。つまり、簡単に言えばロッドも、ラインも、毛鉤さえも、プラスティックから天然素材に戻ってしまったと言う事です。そう、時が逆行してしまったのです。そして、私もタイムマシンに乗ってしまったフライフィッシャーの一人ですが、マズイ事に、このタイムマシンには戻る機能が付いていなかったのです。
バンブーロッドの製作者は昔ながらのロッド製法について一通りのコピーが済んだら、それに満足する事無く、更に強く耐久性のある、より良いバンブーロッドを研究開発すべきだと思います。今迄の外来製法を参考にする、或いは、それをリスペクトする事は否定しません。しかし、欧米の流行りやブームに追従する必要もありませし、それらを全てを鵜呑みにし、神格化し、崇める必要も、もう無いでしょう。ヴィンテージはヴィンテージ、過去の実績は過去の物です。竹の国としての、日本独特の知識と経験、アイディアを盛り込んだ、全く違う考え方から生み出されるバンブーロッドを作る時期は既に来ているのです。そして、竹と言う素材の本質を研究し、調べ、真実を知る事によって、更にバンブーロッドが進化し、世界のフライフィッシングがより発展する事を望んでいます。ロッドの仕上げやデコレーション、外見などは二の次です。見た目や仕上げが全てになってしまった現在のバンブーロッド。しかし、到達すべき釣竿の原点はただ1つ、それは本物だけが持つ釣り竿としての耐久性です。私も20年以上に渡り,、その製法について何の疑問も持たずに、How to 本から得た少ない情報と知識の中からバンブーフライロッドを作って来ました。ロッドを作り始めた頃は、兎に角、真っ直ぐで曲がりが無く、塗装の美しい、見た目が完璧なバンブーフライロッド造りを目指していました。曲がったストリップを何度も加熱し、焼き、節を曲げて、真っ直ぐなるまで何度も直しを繰り返していました。勿論、その頃は、熱が竹に与える悪影響などは知る由もありませんでした。しかし、その時点でも、現在、広く行われているバンブーロッドの製法に対して多少の不信感は抱いていたのは確かです・・・・。もしかしたら、これらの製法は竹にとっては良くないのではないだろうか?これだけ焼いたり加熱したりすれば、竹や節が既に劣化しているか、或いは、内部で折れているかも知れない?しかし、How to本に書いている製法だから問題はないのだろう・・・・?更に、暗褐色のロッドが作りたくてバーナーで表面のエナメル焼きながらも、もしかしたら、エナメル質直下のパワーファイバーは焦げて、燃えて、切れてしまっているのではないだろうか?とも考えていた。もしかしたら竹が熱で弱くなっているのでは?折れ易くなっているのでは?本当にこんな事をしても、竹は大丈夫なのだろうか?常にそれらの不安を抱えながらHow to本に従って来た。まぁ、伝説のロッドと同じ製法なのだから問題は無いだろう?弱ってしまった竹でも取り敢えず強力な接着剤でバインディングすれば大丈夫なのだろう?と信じてきた。しかし、前記の経験などから全てを見直そうと思った時、昔、作ったロッドの余りや切れ端、ストックしていたストリップを片っ端から折ってみた!10年以上前にフレーミングした、表面が茶色く焦げたストリップを折ってみた!そして、その結果は惨憺たる物だった。何と、ほんの少し力を加えただけでポキポキ折れるではないか!節も稈も場所を選ばず簡単に折れる。エッ?こんなにも脆くなっている?これ程弱くなった竹を張り合わせても、そのシャフトの強度は知れているだろう?愕然とした私は、折ったストリップ握り締め呆然とした。大きな間違いを犯していた?全てを考え直そう!やり直そう!私が求めていた釣り竿はこんな物では無い・・・・!私が造っているのは、見た目や仕上げが綺麗な美術品や芸術品などでは無い!造っているのは釣竿だ、鱒を釣る道具なのだと・・・・!
このページの内容は、それらの製法の真偽や竹その物の真実を知りたくて、改めて研究、分析、再検証して来たものです。この中には、今現在、受け継がれている知識や製法を根本から覆す真実も含まれていますし、矛盾や不都合を解決する答えもあります。バンブーフライロッドを大好きな人達が、これらの情報を利用して、より良いロッド作り、使う事によって、更にフライフィッシングが楽しい物になる事を望んでいます。フライフィッシングと言う究極の遊びの中の、バンブーフライロッドと言う究極の自己満足のために。
ヘキサスタイル・バンブーロッドは現在、新しい接着剤を使った強く耐久性のあるロッドシャフトを手に入れたのは確かです。また、これから先も最新の化学接着剤は更に進化して行く事でしょう。ただ、バンブーロッド製作の専用接着剤が開発される事は、この先も無いと思いますが、科学の進化と共に登場する新開発の工業用接着剤の中からロッドシャフトをより強くする、最高の接着剤を見つけ出す研究を続けて行かなければならないのは確かです。ただし、如何に優れた接着剤が開発されようとも、竹は永遠に竹のままです、決して化学繊維、強化プラスティックに勝る事はありません。ですから、バンブーロッドはその特別な世界の中で、出来るだけ丈夫で使い易いロッドを目指すだけなのです。
バンブーフライロッドは重いとか、軽いとか、綺麗だとか、シンプルだとか、キャストし易いだとか、し難いだとか、4角だとか、5角だとか、中空だとか、ソリッドだとか、そんな事は大した事ではありません。重要なのは、バンブーフライロッドは釣り竿であると言う原点に立ち帰る事です。永く使える事が何よりも重要なのです。100年以上もの間、先人達に求められ続けてきた物は釣り竿としての耐久性です。兎に角、折れ難い事なのです。それは、如何に著名なバンブーロッドでも、折れてしまえばアサガオの鉢植えの添え木にしかならない事を思いながら・・・・。キャッツキルの古道具屋で見た光景、無数の古い竹竿の束が壺に刺さっていた、折れて半端になり、埃を被ったバンブーフライロッドの残骸が、30年たった今でもハッキリと目に焼き付いています。

※このモノローグの文中で、多少強い表現で問題提起している事例もありますが、それらを否定する物では無く、寧ろバンブーロッドの更なる進化と真実を求める研究を促す目的で表現されています。また、これらのバンブーフライロッドの製法に於ける改良点は、20年以上に渡る研究で得られた物ですが、現在、この研究結果の全てが正解だとは私自身も思い込んではいません。更なる、接着剤や竹と熱に関する実験・研究などから、新しい真実が見つけ出される可能性も有りますので、今後もより強く、耐久性のあるバンブーフライロッドの製法を模索し続けたいと考えます。100年以上に渡り作られて来たバンブーフライロッドですが、その製法の中には継承しなければならない真実【正解】と、修正または破棄しなければならない間違いや勘違いも沢山あるでしょう。更に、強度や耐久性を落とす可能性のある、逆効果な改良やダメな改造もあるでしょう。本来の目的である耐久性を失ってしまう様な改造は、本末転倒と言わざるを得ません。ですから、より良いロッド、銘竿たちの様な本物のフライロッドを作る為には、全ての製作行程の検証や研究、耐久テストをこれからも続けなければなりません。私も、今では E、G の呪縛から逃れる事ができました。そして、ペインやレナードの様な、更に素晴らしいバンブーフライロッドの世界に向かいたいと考えます。解かっている事は、性能が全てでは無いと言う事です。現代のバンブーフライロッドの世界には様々な楽しみ方があります。そして、折れない限りその楽しみは続くのです。

   

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